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57.薬師とヒメイチゴ

すみません、久しぶりにヒロイン登場ですが、だだあまです。

※20151206 改行位置修正

 ピコにあてがわれた教会の一室で、リュウは忙しく手を動かしていた。

 机の上にはびっしり文字が書き込まれた紙が散乱している。透明な小さなグラスに注がれた青い液体をほんの少し小指につけ、口に運ぶ。


 ――ほとんどの原料は特定できた。あとひとつ……何が足りない?


 特定した材料のみで試薬を作り、小動物で試してみた。酩酊状態と手足の痺れは再現出来たが、記憶が飛ぶほどの薬にはなっていないように思う。無論、人で試していないので確実なことは言えないが。

 思い当たる試料を組み合わせて、人で実験をしてみればいいのだろうが、さすがに誰かに飲ませるのは気が引ける。かといって、自分で飲むわけに行かない。

 あの薬は飲んでから約二日前までのことを一切忘れてしまう。今、自分でこれを試すと、それまでの研究が全部吹き飛ぶことになる。それは単なる時間の無駄だ。


「リュウ様、お食事の用意ができました」

「ああ、ありがとう。今行きます」


 イーリンの言葉にリュウは顔を上げ、立ち上がった。

 一度、食事の連絡が来たあとも時間を忘れて研究に没頭していたら、イーリンに張り倒されたことがある。サーヤの食事介助をするのはリュウ以外ではだめなのだ。

 準備された食事を盆に乗せたイーリンのあとについて、サーヤの部屋に入る。

 イーリンは食事の盆をテーブルに置くと、静かに退出する。いつものことだが、本当に静かに動く人だ。

 サーヤはベッドに座っていた。


「サーヤ、食事だ」


 そっと手を伸ばし、手を触れるとサーヤは表情をぱっと明るくさせて胸に飛び込んできた。

 そのまま抱き上げて食事の席に座らせると、リュウは自分の椅子をサーヤの隣まで引きずっていって座った。

 今日の昼食はカップに入ったスープとサンドイッチ、ヒメイチゴだ。

 サーヤの右手を取って握ると、握り返してくる。かなり力は戻ってきているようだ。これなら自分でカップを持つこともできるかもしれない。

 この間試した時は、結局カップを持つ手が震えて落としてしまったが……。


「サーヤ、カップを持って」


 スープはそれほど熱くない。右手にカップの持ち手を絡ませ、左手でカップの底をささえるようにすると、彼女はほんのり微笑んで、カップに鼻を近づけた。匂いは分かるらしく、そのまま口へ運ぶ。

 一口そっと口に含み、飲み込む様子をじっと見つめる。嬉しそうに微笑み、すぐさまカップに口をつけるとあっという間に飲み干した。


「おいしかった?」


 カップを差し出すサーヤに、リュウは頭をなでてカップを受け取った。

 そのままの手の形でしばらく待っていたが、サーヤは唇をすぼめ、手を口元に運んで飲む仕草を繰り返した。


「ああ……おかわりがほしいのか?」


 くすっと笑ってリュウは自分のぶんのカップを彼女の手元に持っていった。さっきと同じように右手に持たせると、すんなり受け取って、今度は片手でスープをあっという間に飲み干した。


 ――よかった、食欲は出てきたみたいだ。


 カップを受け取り再び頭を撫でるとにっこりと微笑みを浮かべた。頬もふっくらとしてきたし、とがった顎も柔らかく丸みを帯びてきた。


「じゃ、今度はサンドイッチ」


 再び右手を取り、今度はサンドイッチを取り上げて手の上に置いてつまむように手に握らせる。両手でしばらく形を確認していたが、ぱくりとかじりついた。

 様子を見ながらリュウもぱくつく。今日の具は卵サラダときゅうり、トマトのようだ。教会の食事はどれも美味しい。自分で作るのに比べたら天と地だな、と思いながらリュウはおかわりをサーヤの手に渡すと自分の分もつまんだ。

 サンドイッチはあまり食が進まなかったのか、卵サラダのものだけを食べて、あとはリュウが片付けることになった。


「じゃ、デザート。今日はヒメイチゴだ」


 親指の先ぐらいのサイズのヒメイチゴを指で摘んでサーヤの唇に押し当てる。匂いに気がついたのか、サーヤは嬉しそうに口を開いた。赤い唇に自分の指まで食まれて、どきっとしてリュウは手をひっこめた。柔らかい唇の感触が指先に残り、一気に血が上るのが分かる。

 もっと、と唇を開くサーヤに、リュウは次のヒメイチゴを運ぶ。心臓の高鳴りがサーヤに知られないかと息を呑みながら、指先が唇に当たらないように気をつけながら。

 最後の一粒を運んだあとふたたびねだるサーヤの唇に、リュウは指を当てた。


「もうおしまい。ベッドに戻るよ?」


 手を引いて立たせようとすると、サーヤはいやいやをするように首を振った。


「サーヤ? どうした?」


 余程美味しかったのだろうか。ヒメイチゴはこの辺りでも珍しかったし、もっとと言われてもここにはこれ以上はない。

 イーリンに聞いたらまだあるんだろうか……。


「わかった、あとでイーリンにきいてみる。もしまだあったらもらってこよう。――俺も一粒ぐらい食べたかったな」


 くすっとわらってサーヤの頭を撫でると、ふっとサーヤは泣きそうな顔になり、頭を下げた。唇は『ごめんなさい』と動いている。


 ――え……?


「サーヤ、もしかして……聞こえるの?」


 ぱっと顔を上げたサーヤは、勢い良くうなずいた。リュウは表情を崩してサーヤの頭を抱き寄せると額をくっつけた。今のサーヤにこの表情を見られなくて本当によかった、と思いながら。


「よかった……このまま治らないんじゃないかと思ってた……」


 サーヤの手が頬に触れる。両手でリュウの顔を確認すると、サーヤの方からリュウの唇に自分のそれを重ねてきた。重なった唇の合間から舌がおずおずとリュウの唇をなぞる。リュウは彼女の舌を受け入れ、深く口づけた。ヒメイチゴの深く甘い香りと味が伝わってくる。


「ん……おいしかった。ごちそうさま」


 唇を離して顔をのぞき込むと、サーヤは顔を真赤にしながらも嬉しそうに微笑みを浮かべていた。

続きはまた明日。書いてたら今日中に投稿できないので~

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