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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月8日(土)

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56.宴会

※20151206 改行位置修正

 タンゲルが紹介してくれた宿の一階は食堂になっていて、ザジの宿泊手続きが済むと食堂で飲むことにした。

 ジョッキで乾杯をすると、ザジは一気に飲み干して、機嫌よさそうに声を上げた。


「どんどん頼んでくださいよっ、ここは俺が奢りますから」

「おう、ありがたく奢られてやる」


 タンゲルも口角を上げてジョッキを呷る。タンゲルとは昨日、ドラジェの館で顔をあわせただけだけど、ザジとはいい感じに打ち解けてるように見える。


「へえ、タンゲルさんも笑うことあるんだねぇ」


 ルー=ピコがくすくす笑いながらジョッキを傾けると、とたんにタンゲルは渋い顔をした。


「そりゃ、仕事中にこんな面の傭兵がにこにこしてたら不気味だろーが」

「そりゃそうだけど、もったいないわねぇ。いい男なんだし、笑顔見せりゃ女がほっとかないだろうに」

「あ、お前、俺から乗り換えるつもりだろ」


 ザジが気色ばんで叫ぶ。その言葉が本気の叫びに聞こえて、ピコは目を剥いた。


「ばっかじゃないの」


 それだけ言うとルーはトイレ! と席を蹴った。ザジはお代わりのジョッキを傾けながら、タンゲルを観察することにした。斜め向かいの席に座る傭兵は、筋骨隆々できちんと筋肉が付いている。我流で鍛えたものではないだろう。おそらくはどこかの正規兵として鍛えた体。


「タンゲルさん、傭兵だったよね」

「おう」

「そんだけがっしりした体だったら引く手あまただったろうなぁ。俺なんかひょろひょろだから傭兵の仕事探してもぜんぜん声がかからなくってさ。仕方がないから便利屋やってんだけど」

「ああ――まあな」


 タンゲルは曖昧に返事を濁す。


「前線にも行ったことあるんですか?」


 前線、という言葉にタンゲルは一瞬だけ気配を揺らした。明らかに動揺した。

 このあたりで前線といえば、北の国境か、西の国境しかない。南は海、東は山脈で遮られていて、幸いそちらからの侵略はないが、北も西も停戦協定が結ばれただけで、前線であることには変わりない。

 停戦協定の条件が反故にされればいつ侵略が始まるかわからない。

 停戦前は正規兵だけでは足りず、傭兵がかなりの数集められたと聞く。おそらくタンゲルはそこに参加していたのではあるまいか――。


「いや――行っちゃいねぇよ」


 その言葉には、若干の苦しさと苦々しさが混じっていた。


「そうですか。――実は俺の親父、北の戦線で死にましてね」


 タンゲルが息を呑むのがわかった。ああ、そうなんだ。


「酷い戦いでしたよね。――俺は直接知ってるわけじゃないんですが、一緒に戦ったっていう父の戦友から聞きました。父の願いどおりに兵士になれればよかったんですけどね……。ま、傭兵をしたかったのは未練です」


 にかっと笑い、ザジは目の前の魚の天ぷらを口に放り込んだ。うん、一切嘘は言ってない。


「そうか――。あの娘もか?」


 空席になってる隣の席に熱い視線を向けたまま、タンゲルが言う。


「え? ルーですか? いや、聞いたことないですねぇ」


 するとタンゲルは胡乱な目を向けてきた。


「お前たち、つきあって長いんだろ?」

「んー、つきあい自体は長いですね。なにせ幼なじみなんで。って言っても一年に一回会うかどうか程度だったし、家族の話を直接聞いたことはないんですよ」


 うん、これも一切嘘は言ってない。今もどっかから覗いてる監視役に魔法使いが混じってるとしても悟られはしないだろう。


「妙な関係だな。じゃあ、恋人になったのは最近なのか?」

「ええ、仕事に誘ってくれるようになったのも最近ですね。今日もホントは一緒の宿が良かったんですけど……」

「じゃあ、あたしの部屋に泊まればよかったのに」


 気がつけばタンゲルのうしろにルーが立っていた。


「なんだ、遅かったな。――座らないのか?」


 ルーはザジに向かって舌を出すとタンゲルの横の席に座った。


「なんでそっち座るんだよっ」


 むくれて答えると、ルーもむすっとして横を向く。タンゲルは頭をかいてからザジに視線を向けた。


「なんで同じ宿じゃだめだったんだ?」

「いやその……つい朝まで……」


 ザジがそれだけ言ってうつむくと、タンゲルはため息をついた。


「こっちの宿で正解だろうな。それにしてもお前――ルーって言ったか?」


 タンゲルは隣に座っている金髪頭を見下ろす。


「なぁに?」

「お前、見かけによらねぇなぁ」

「……なんかひどいこと言われた気がする。あたしもう帰る」


 ぷんとむくれてルーは店を出て行った。監視が動く。


「おい、追っかけなくていいのか?」

「ま、大丈夫っしょ。あれでも一人で便利屋やってるし、大抵のことは自力で何とかしますよ」


 ザジの言葉に、タンゲルは腰を上げた。


「――送ってくる。今日はごちそうになった」

「いえ、こちらこそ」


 ザジは手を振り、ジョッキを空ける。


 ――タンゲル隊長は思いの外紳士ってことか。アレの中身が男だと知ったら卒倒しそうだけどな。ま、ルーに惚れるような人じゃないだろうから大丈夫だろうけどさ。


 これは見ものだよな、と思いつつ給仕を呼んで支払いを済ませると、ザジは鼻歌を歌いながら部屋に上がっていった。

すみません、ヒロインがぜんぜん出てきませんね(汗)

とりあえずこれで1月8日は終わりです。

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