55.相棒
すみません、またまたルーとザジです。
中身が男同士だと思うとビミョーですが、堪えてお読み下さい(汗
※20151206 改行位置修正
夜半、ドラジェの館にザジと連れ立って行く。狼亭を出たところから監視がいくつもついてるのは把握してたから、出来上がったばかりのカップルを装うのは忘れない。
「尾行がまた増えた」
時折キスの振りをして、耳のそばでささやきあう。
「えらい気合の入れようよね」
「今度来るお客さんがよほど大事なんだろうね」
「王都からのお客さんかな」
「ああ、成る程」
ザジの答えにふふ、とルーが笑う。
「ところで剣の偽装はできた?」
「当然」
ちらと腰に佩いた剣を見せる。白かった鞘と柄は黒塗りになり、紋様も柄も一切ない、普通の剣に見える。
「ま、これなら用心棒が持ってても違和感ないわね」
建物の角を曲がり、木戸を三回ノックする。
顔を出したのは用心棒の一人だ。確か――タンゲルって言ったっけ。便利屋じゃなくて根っからの用心棒だから筋肉質で体がでかい。角刈りの黒髪と褐色の肌、頬の×印についた傷跡で判別できる。
「ああ、お前か。――そっちは?」
タンゲルはじろりと警戒の目をザジに向ける。
「ん、あたしのカレ。今度の仕事に興味があるってんで連れてきたんだけど、ドラジェさん、いる?」
「ああ、そういや用心棒まだ集めてたな。いるぜ。――入れ」
ルーのあとに続いてザジが木戸をくぐる時に殺気のこもった視線を向けられてザジは反射的に攻撃態勢を取る。瞬時に飛び退き、腰を落とし、剣に手をかけたところでふっと殺気が散らされた。
「勘はいいらしいな。身も軽いし攻撃手向きってところか――試すようなことをしてすまん」
おもいっきり不快そうな顔をするザジに気がついてタンゲルが謝ると、ザジはようやく戦闘態勢を解除した。
「――まあ、用心棒案件じゃよくあることだからいいけどさ。で、合格か?」
「俺としてはな。合否はドラジェさんが決める。いつもルーと組んでるのか?」
「ああ、時々はね。今回は別々の仕事だったけど」
「そうか。――こっちだ」
タンゲルの案内で倉庫を横切り、ドラジェの執務室に向かう。
「ドラジェさん、用心棒候補です」
「ああ」
ドラジェは顔を上げ、眼鏡を外した。ちらりとルーの方を眇め見て、ザジに視線を戻した。
「タンゲル、お前の見立ては?」
「問題ないかと」
「ふむ。名前は?」
「ザジと呼んで下さい。いい仕事があるってルーから聞いて……」
ぴくりとドラジェの眉毛がはねた。
「ルーの知り合いだそうです」
タンゲルが助け舟を出す。
「ドラジェさん、まだ用心棒募集してるでしょ? カレ、腕はいいし仕事もちょうど切れたところだって言うから誘ってみたの。まずかったかしら?」
「いや、腕の良い用心棒はまだまだ欲しいところだ。もし他に知り合いがいれば声をかけておいてくれ。それから、来客の予定が早まった。明日の十時にここに集まっておいてくれ」
ドラジェの視線はタンゲル、ルー、ザジにそれぞれ注がれていた。
「えっと、俺も行っていいってことかな?」
ザジが確認するように言うと、ドラジェはうなずいた。
「町中の警護だから大して脅威ではないがな。まあ用心するに越したことはない」
「わかったわ」
「了解」
ドラジェは下がれと手で示し、眼鏡をかけて書類に目を落とした。
三人はすみやかに執務室を出た。
「よっしゃ、これで当面の食い扶持は稼げそうだ」
「紹介した甲斐があったわ」
ルーの言葉にザジは微笑みを返した。
「ありがとな、ルー。――ところで、どこか近くにいい宿ないか? 今日到着したところなんだけど、いつもの宿がいっぱいでね」
「あたしと同室はいやなわけ?」
ルーが口をとがらせるとザジは眉根を寄せた。
「あそこはここから遠すぎるよ。それに……お前と一緒じゃまともに寝れねえだろが」
心持ち照れたような表情を浮かべる。
「――俺が泊まってる宿なら部屋は空いてると思うぞ」
タンゲルの言葉に、ザジは素直に頭を下げた。
「あ、そうですか? どこらへんか教えてもらえます?」
タンゲルはちょっと待って、と言い残してもう一度ドラジェの執務室に行くと、すぐに戻ってきた。
「出かける許可をもらってきた。今から案内しよう」
「うわ、助かります。お礼に晩飯奢りますよ」
三人は連れ立ってドラジェの館を後にした。