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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月8日(土)

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55/154

54.狼亭

ええと、中身が男同士だけど外見が男女の絡みがあります。

ご注意くださいませ。

※20151206 改行位置修正

「ルーさん、お客さんです」


 狼亭の二階の部屋でくつろいでいたルー=ピコは声に飛び起きた。気が付かない内に寝こけていたようだ。

 声は狼亭の給仕をやってる娘のものだ。


「はい、どうぞ」


 ささっと身づくろいをしてベッドに腰掛ける。

 扉を開けて入って来たのは若い男だった。淡い金色の髪はうねって浅黒い顔を縁取る。黄緑色の瞳には感情の色はなく、薄い唇は横に引き結ばれている。腰に下げた白と金の剣から、それなりの身分を持つ人間だろうと予想ができる。旅慣れた装いで隠された肉体は無駄な肉などなさそうだ。

 男はマントを外すと砂を払い椅子の背にかけた。

 ルーが戸惑いの色を浮かべるのを見て、給仕の娘は「どうぞごゆっくり」と扉を閉めて行ってしまった。


「困ったな……初めまして、だよね? あたしに何の用?」


 ベッドに座ったまま、ルーは彼を見上げて口を開く。


「お前が便利屋ルーか」

「そうだけど、あなたは?」

「便利屋だ。ザジと呼べ」

「ふぅん……帯刀してる便利屋ねえ」


 ルーは無遠慮に剣を見る。ザジと名乗った便利屋は、気にする風でなく、剣を外すとルーに差し出した。

 白い鞘には金細工でびっしりと細かい紋様が書き込まれている。柄の部分に絡みついているのは蛇で、その目には翠玉と青玉がはめ込まれている。


「とりあえず……そうだな、こっちきて座ってくれる?」


 ルーは自分の横をぽんぽんと叩く。ザジは一瞬嫌そうな表情をしたが、素直にルーの隣に腰を下ろした。


「これでいいか?」


 ルーは頷くとザジの耳に唇を寄せた。


「ああ、この距離で聞こえる声で喋って。監視されてる可能性あるからね。一応それらしくカムフラージュしよう。それにしても……まさか、キミが出張ってくるとは思わなかったよ、ザジ」


 ルーは普段のピコの声で言い、剣を返すと、黄緑色の瞳がふっと笑った。


「俺が出張る程度の案件だろう? ピコ」

「あー、こっちの姿の時はルーって呼んでくれる? 一応潜入調査中でね」

「そうか、すまん。……ところで、それらしくってのは」


 ルーはザジの首に手を回し、頬にキスを落とす。


「――こーいうことだよ。ボクもやりたかないけど。給仕の子が勘違いしてたしね」

「げっ……俺、そっちの気ないから」

「大丈夫、ちゃんと女の体になってるから。なんならヤってみる?」


 ザジは顔をしかめ、なるべく自然に抵抗しているようにしてルーを己から引き剥がす。その腕にすがりつくルーを演じながら、ピコは言葉を続けた。


「で、キミの立場は?」

「俺はルー宛の手紙の配達人。その後意気投合し、行動を共にする。ドラジェに紹介してくれ。王都への護衛に混ざりたい」

「了解。で、手紙は?」


 ザジはカバンから一通の手紙を取り出した。黒に近い深紅の封蝋。はっと目を見開いてルーは封を開く。


「キミはもちろん内容を知ってるよな?」

「ああ――当然だ」


 ルーは立ち上がるとランプの覆いを外し、封筒ごと手紙を焼き払った。細かい灰が吹き上がる。ベッドに戻ると、再びルーはザジに身を寄せた。


「ほら、肩抱く振りして」

「へいへい。――王都に経つのは何日後だ?」

「それはまだ。二日後のお客さん次第っぽい」

「二日後ね。じゃあそれまでにやることやって、紹介してもらうとするか」

「な――?」


 くるりと視界が反転する。気がつけばルーはザジに組み伏せられていた。


「抵抗するなよ。監視が増えてる」


 耳のそばでザジはつぶやく。


「あー、やっぱり。気配は気がついてた。魔法使うわけにいかないしなぁ。……ところでザジ」

「何?」

「その剣、隠しといたほうがいい。知ってる奴はそういないだろうけど、便利屋が持つ剣じゃない」

「わかってる。見せなきゃ気が付かなかったろ?」


 ベッドから立ち上がるとザジは剣を寝台から落とし、上着を脱ぎ捨てて上にかけると、再びルーに馬乗りになる。


「まあね」

「ところでピコ。いい玩具オモチャ拾ったって?」

「さてね。――キミにはあげないけど」

「それは残念。それも俺の任務の一つだったんだけどな」


 ルーの首に顔をうずめながら、ザジはぺろりと舌を出す。


「こら、舐めるな。――キミには立派な暗殺集団がいるでしょ。欲張りは良くないよ」

「お前こそ、赤の女王を囲い込んでるくせに」


 ルーはザジを押しのけると舌を出してみせた。


「あれは彼女の意志を尊重しただけだよ。もちろんキミにはあげないけどっ」


 首に当たる髪の毛がくすぐったくてルーは声を上げた。


「教会で召喚者ドリーマーを二人匿ってると聞いたけど、王都で預かろうか?」

「んー、いや、今のところは無理。森の番人を森から離せないよ」

「そうか。まあ、必要になったら言ってくれ」

「ありがたいね」


 ルーはくすっと笑い、ザジの額にキスをした。

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