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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月6日(木)

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48.連絡鳥

※20151206 改行位置修正

 机の上の書類から顔を上げ、オードは目の前のメイド服を着た女性を見た。


「イーリン殿。もうしばらくお待ちいただけますかな」

「はい」


 書類に目を通し、サインをして決済済みの書類の山に置くと、ペンを戻して椅子の背に体を預けた。


「おまたせいたしました」

「では、ピコット様からの伝言です」


 イーリンが懐から連絡鳥を取り出したところで、はて、とオードは首をかしげた。


「おや、今回は伝言の抜粋ではないのですか?」

「お聞きいただければわかるかと思います」


 それだけ答えてオードの机に連絡鳥を置いて額部分を押す。両目がきらりと光るとくちばしが開いた。


『オード、イーリン。ピコットです。オードの情報のおかげで近隣の村にあったドラジェの倉庫は全て把握しました。監視も配置済みです。狼亭の大将にはあとでお礼言っとかないとね。明日にはトリエンテに戻ります。ドラジェの屋敷にもう少し潜入してみるよ。薬の入手先を突き止めたいし、あのディードとサーヤのことはなんとかごまかしておかないとね。イーリン、ドラジェの屋敷に入る便利屋のチェックは続けてくれ。それから、サーヤとリュウをそちらに移す。諸々任せるから、よろしく頼むよ。オード、王都側の協力者の情報は掴めそうかい? 無理そうなら、ボクが直接王都に行ってみてもいい。それから、リュウという薬師を教会に連れて行く。彼は薬の分析と解毒剤を作ってくれるだろう。必要なものなどを手配してもらえると助かる。しばらく顔を出せないと思うけど、イーリン経由で連絡はつけるから。すまないけど、よろしくお願いします』


 それで伝言は終わりだった。連絡鳥を取り上げ、再び懐にしまう。


「なるほど……」

「主がご迷惑をおかけしております。ご協力、いただけますでしょうか」


 深々と頭を下げるメイドに、オードは一つため息をついた。


「頭を上げてください。この件は私の方からもお願いした部分がございますから、協力は惜しみません。ところで、ディードやサーヤ、リュウというのは、どういったお方でしょうか?」


 伝言に出てきた人物名をオードは口にした。ピコからの手紙で一応知ってはいたが、イーリンから直接的な意見を聞いておきたかったのだ。


「はい、黒角族ディードとは、ドラジェの雇った傭兵でございます。黒角族ディード特有の能力を持っておりますゆえ、教会の地下にて管理しております。サーヤ様とリュウ様はピコット様のご友人でございます。もうご存知かもしれませんが、ドラジェの館で拉致されたのがサーヤ様、リュウ様はサーヤ様の救出にもご協力戴いた方、と伺っております。リュウ様にだけはお会いしたことがございませんが、優秀な薬師と伺っております」


 ああ、とオードはうなずいた。薬の件で巻き込まれた友人がいると言っていた。おそらくそれがサーヤという人物なのだろう。

 薬の被害者はあれから二人出ている。やはりどれもドラジェ宛の郵便物を運んだ便利屋だった。

 街に入る時点でドラジェ宛の郵便物を持つ便利屋がくれば連絡してもらうようにしているが、まだ被害に会う前に接触できた試しがない。参事会を動かすことができればあるいは、と思いはするが、今の時点で動くのは得策ではない。むしろ自治権を取り上げようとする者達の格好の餌になる。

 それだけは、避けねばならん。


「ではその二人は教会で保護するということですね。しかし……ピコット殿の立場が悪くなる、ということはないのでしょうか」


 するとイーリンは少しだけ俯いた。


「公にはピコット殿は流れの治癒師となっています。教会の道理から外れた存在であるピコット殿が二人を匿うというのは、他の治癒師からの風当たりが強くなるのではありませんか?」

「ええ……ピコット様については教会のごく一部の者しか知らされていません。時々帰ってきて、気まぐれに治癒をして、いつも庭の四阿にいるだけの流れ者、と見られている状態で、サーヤ様とリュウ様を教会に長く留め置く、というのはあまり好ましいことではございません。ですが……」


 ふぅ、とため息をつき、オードは机の上で手を組んだ。


「それでも助けたいということですね。わかりました。私も期待を裏切らないよう協力させていただきます」


 イーリンは深々と頭を下げた。


「ご厚意に感謝いたします。ご無理を申し上げて申し訳ありません」

「できるだけ早く参事会として動ける状況になるのが望ましいんだけどね……ピコット殿には委細承知、と伝言してくれますか?」

「はい、承りました。では、失礼致します」


 イーリンが立ち去ったのを確認して、オードは再び深くため息をついた。


「さて……私も出来る限りのことをしましょうか。彼のために」


 机の引き出しからファイルを取り出す。

 少しだけ、口元をほころばせて。

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