47.光のない日
本日は二話更新です。
46話が現実の話のみだったので、47話も公開しました。
※20151206 改行位置修正
暗い。
目を開けたはずだけど、まだ夜なのかな。灯りも消えちゃってるのか闇に沈んだままだ。
トリムーンは現実と違って街灯なんてものはほとんどないし、夜は月の光しかない。室内なら真っ暗だものね。
体を起こしてみる。
うん、昨日よりはしっかりしてきた。ご飯も食べられるようになってきたおかげか、自力で体が起こせる。まだふらつきがあるのは熱のせいだろうな。
相変わらず声は出ない。音も聞こえない。
リュウはまだ寝てるんだろうか。灯りが消えてるってことは多分そうだよね。
ベッドから降りてみる。
伝い歩きならできそう。向かいのベッドを手探りで探す。膝小僧がベッドに行き当たって勢いで倒れこんだけど、誰も寝てなかった。
仕方なくベッドの上で膝立てて座り込む。
昼間ならリュウは出かけてるのはわかるけど、夜はたいていそばに居てくれてた。本当はあたしの世話なんかしてる暇、ないはずなのに。
あたし――お荷物になってる。
壁にもたれかかっていると、振動が伝わってきた。誰かが階段を上がってきたみたい。
いきなり腕を引っ張られて体が前に倒れこむ。ベッドに倒れる前に誰かに抱きとめられた。
ふわっと花の香りがした。リュウの匂いじゃ……ない?
恐怖が戻ってきてあたしは両手でおもいっきりその誰かを突き放した。あっさり解放されて、壁際まで後ずさる。
もう一人、階段を駆け上がって来る音がする。
リュウだ。そう思ったら出ない声でリュウを呼んでた。
草の香りのする腕に抱きしめられて、緊張が解ける。目の前にリュウの顔があるはずなのに、闇に沈んで何も見えない。そっと手を伸ばしてリュウの顔に触る。
あたしは光を失ったのだ……。
「サーヤ?」
リュウの腕の中で声もあげずに涙を流す彼女に、金髪美女に化けたピコは声をかける。
だがリュウは首を振った。
「リュウ……一体どういうこと?」
ピコは眉根を寄せる。
「たった一日半の間に、なにがあった」
「俺にもわからん。救出したその日に喋れなくなった。翌日には聞こえなくなった。そして今日は……」
「見えなくなった、か」
「ピコ、まさか薬の副作用じゃないよな」
リュウはあやすように彼女を抱きしめながら、ピコを見上げる。
「記憶が飛んだ例は聞いたが、それ以外の副作用は聞いてない。それに、救出直前まで薬を与えられてたとしても一週間は投与されてない。――ありえない」
ありえないはずだ。確かに、他の例はどれもトリムーンの住人で、サーヤは召喚者だという違いはある。
あの時に、囚われていた間の話を無理矢理にでも詳しく聞いておくんだった。彼女がどういう扱いをされていたのか、直前まで薬を飲んでいたのか、それだけでも把握しておくべきだった。
「リュウ、予定通り今日、トリエンテへ移動しよう」
「だが……」
リュウの心配はわからなくもない。が、時間が経てば治るかどうかも分からない状態では、ここにいても意味はない。
「もしこれがあの薬の副作用だというなら、薬の解析を急いだ方がいい。もし何らかの呪いならば、教会内で解除を試みるのも手だと思う。どちらにせよ、教会内に置いておいたほうが安全だ。ここでは召喚者を十分保護できない」
「……しかし」
リュウは視線をサーヤに落とし、唇を噛んでいる。ピコは思わず声を張り上げた。
「目も見えず声も出せない女がここに一人で寝ていると知られたらどうなると思う。……お前がいない間に彼女に何かあってからじゃ遅いんだぞ!」
「わかってる!」
怒気が伝わったのか、サーヤはびくっと体を揺らし、リュウから離れようとする。
「ごめん……君を怒ったんじゃない」
リュウがやんわりと抱きとめ、頭を撫でると、サーヤは大人しく腕の中に収まった。
ピコは目を逸らした。
――これ以上はさすがに見たくない。
「少し野暮用を済ませてくる。戻ってくるまでに準備しといて」
「ああ――わかった」
足早に部屋を出ながら、ピコは眉根を寄せて深い溜息をついた。




