46.寂しい
※20151206 改行位置修正
「恵美ぃ、入院飽きたぁ」
「贅沢言ってんじゃないの」
見舞いに来てくれた恵美にぺちっと額を叩かれる。
「だって、一日中ベッドから起き上がれないから、寝てばっかりで、背中痛いよう」
入院二日目……あたしにとっては、ね……にして、あたしはすっかりベッドの上がいやになってた。手足のしびれは全然良くならないし、体起こしてるのも辛い。ベッドごと起き上がってる状態。
ずっと点滴だし、食事もまだ流動食。熱があるから起き上がってるのもしんどいし、ぼーっとしてる時間のほうが長い。
「はいはい、仕方ないでしょ。長い時間起きてられないんだから、寝てなさい」
「スマホ触りたい、小説読みたい。パソコン触りたいぃ」
「はいはい」
もう全然とりあってくれない。まぁ、ずーっとこればっかり言ってるもんね。聞き飽きたんだろうなぁ。
今の体調だと一時間と起きてられないんだよね、実は。だから、気晴らししたいわけじゃなくて、なんだろ、中毒みたいなもんかな。なんか触りたい。どこともつながってない状態だと、寂しくて仕方ないのかもしれない。
メールでもLINEでも何でもいいから、何かでつながってたい。
「まぁ、明日から仕事だから、次に見舞いに来れるのは土曜日だけど、大丈夫?」
「うん、たぶん。まあ完全看護だし、着替えも看護婦さんにお願いしてるから」
ほんとは親に来てもらえばいいのかもしれないけど、電話かけるのもアレだしなぁ……。
「ああそうそう。お母さんから電話があってね、なるべく早くこっちに来るって。いつとは聞けなかったんだけど」
「あ、ありがとう」
そういえば電話したって言ってたっけ。恵美に感謝。
「お母さんってアパートの鍵持ってる?」
「うん、大丈夫。その鍵は退院まで持ってて」
「わかった。他に何かほしいものある? 今なら下のコンビニで買ってこれるけど」
「大丈夫。ありがとね」
「早く元気になれよー。退院したら鍋しよね」
「うん、ありがと」
病室を出て行く恵美に手を振って、あたしは寂しさにちょっぴり泣きそうになった。
ぼーっと天井を見上げながら色々考えてるうちに、また寝ちゃってたみたい。
夢を見てる……んだよね、きっとこれ。
闇の中にふわふわ浮いてる状態で、下の方に丸く光が見える。あ、誰かが寝てる。
最初はあたしかな、と思ったけど、格好はそうじゃないし、病院ぽくもない。
一緒にいる男の人がなんだかんだ世話をしてるみたい。病気でもしてるのかな。
いいなぁ、なんて思っちゃう。
病気の時って一人だと寂しいんだよね。体が治ってきて、動けるようになったらそうでもないんだろうけど、今みたいに寝てるだけだと時間が経つのも遅いし、しんどいし、誰かにそばに居て欲しい。
だから、素直にいいなぁ、って思った。
ただそこにいてくれるだけでいい。
目が覚めた時に誰もいないのって、寂しい。
これっていつもの日常なんだけど、なんでだろう……。
一人暮らしだからいつも一人で起きて食べて寝て。それが当たり前の生活だったのに。
こう、胸にぽっかり穴が開いてるっていうか。……ってそれじゃあたしが失恋したみたいじゃないの。
そういうんじゃないな。
なんだろ……いまさら、なのかな。
たぶん、昔っからそうなんだ。
さびしいのに、一人で生きていくのに慣れたって思いたくて、心の穴に鉄板で蓋してたのかも。
誰かそばにいて欲しい……。
鼻の奥がつーんと痛くなった。
だめだ、自覚したらもう、引き返せなくなっちゃう。
あたしは首を振って、光のほうに目をやった。
すーっと光が近寄ってきて、もう少しよく見えるようになった。
青光りのする銀髪の男の人、薄茶色の髪の女の人。こんな色の人、海外にはいそうだよね。
カメラワークが切り替わって、男の人の顔が見えた。
あぁ……なんだ、リュウじゃん。
いつも夢に出てくる人。
じゃあ、こっちの女の人ってあたしかな。多分そうだね。
これ、夢の中で夢見てるんだなぁ。
不思議な感じ。時々あるんだよね、夢見ながら、あぁ、これって夢だよねって思う。夢だから自分で好きに変えられたりして。
それにしても、夢の中のあたしも重病人ぽい。一人で起きられないみたいだし、食事も食べさせてもらってる。
――男の人に食べさせてもらうのって、なんだかエロい。
あたしにもこういう人、いればなぁ……。
リュウみたいな人、近くにいないかなぁ。まあ、これは夢なんだけど。
あたしも早く運命の人、探さなきゃな……。




