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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月5日(水)

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46.寂しい

※20151206 改行位置修正

「恵美ぃ、入院飽きたぁ」

「贅沢言ってんじゃないの」


 見舞いに来てくれた恵美にぺちっと額を叩かれる。


「だって、一日中ベッドから起き上がれないから、寝てばっかりで、背中痛いよう」


 入院二日目……あたしにとっては、ね……にして、あたしはすっかりベッドの上がいやになってた。手足のしびれは全然良くならないし、体起こしてるのも辛い。ベッドごと起き上がってる状態。

 ずっと点滴だし、食事もまだ流動食。熱があるから起き上がってるのもしんどいし、ぼーっとしてる時間のほうが長い。


「はいはい、仕方ないでしょ。長い時間起きてられないんだから、寝てなさい」

「スマホ触りたい、小説読みたい。パソコン触りたいぃ」

「はいはい」


 もう全然とりあってくれない。まぁ、ずーっとこればっかり言ってるもんね。聞き飽きたんだろうなぁ。

 今の体調だと一時間と起きてられないんだよね、実は。だから、気晴らししたいわけじゃなくて、なんだろ、中毒みたいなもんかな。なんか触りたい。どこともつながってない状態だと、寂しくて仕方ないのかもしれない。

 メールでもLINEでも何でもいいから、何かでつながってたい。


「まぁ、明日から仕事だから、次に見舞いに来れるのは土曜日だけど、大丈夫?」

「うん、たぶん。まあ完全看護だし、着替えも看護婦さんにお願いしてるから」


 ほんとは親に来てもらえばいいのかもしれないけど、電話かけるのもアレだしなぁ……。


「ああそうそう。お母さんから電話があってね、なるべく早くこっちに来るって。いつとは聞けなかったんだけど」

「あ、ありがとう」


 そういえば電話したって言ってたっけ。恵美に感謝。


「お母さんってアパートの鍵持ってる?」

「うん、大丈夫。その鍵は退院まで持ってて」

「わかった。他に何かほしいものある? 今なら下のコンビニで買ってこれるけど」

「大丈夫。ありがとね」

「早く元気になれよー。退院したら鍋しよね」

「うん、ありがと」


 病室を出て行く恵美に手を振って、あたしは寂しさにちょっぴり泣きそうになった。





 ぼーっと天井を見上げながら色々考えてるうちに、また寝ちゃってたみたい。

 夢を見てる……んだよね、きっとこれ。

 闇の中にふわふわ浮いてる状態で、下の方に丸く光が見える。あ、誰かが寝てる。

 最初はあたしかな、と思ったけど、格好はそうじゃないし、病院ぽくもない。

 一緒にいる男の人がなんだかんだ世話をしてるみたい。病気でもしてるのかな。

 いいなぁ、なんて思っちゃう。

 病気の時って一人だと寂しいんだよね。体が治ってきて、動けるようになったらそうでもないんだろうけど、今みたいに寝てるだけだと時間が経つのも遅いし、しんどいし、誰かにそばに居て欲しい。

 だから、素直にいいなぁ、って思った。

 ただそこにいてくれるだけでいい。

 目が覚めた時に誰もいないのって、寂しい。

 これっていつもの日常なんだけど、なんでだろう……。

 一人暮らしだからいつも一人で起きて食べて寝て。それが当たり前の生活だったのに。

 こう、胸にぽっかり穴が開いてるっていうか。……ってそれじゃあたしが失恋したみたいじゃないの。

 そういうんじゃないな。

 なんだろ……いまさら、なのかな。

 たぶん、昔っからそうなんだ。

 さびしいのに、一人で生きていくのに慣れたって思いたくて、心の穴に鉄板で蓋してたのかも。

 誰かそばにいて欲しい……。

 鼻の奥がつーんと痛くなった。

 だめだ、自覚したらもう、引き返せなくなっちゃう。

 あたしは首を振って、光のほうに目をやった。

 すーっと光が近寄ってきて、もう少しよく見えるようになった。

 青光りのする銀髪の男の人、薄茶色の髪の女の人。こんな色の人、海外にはいそうだよね。

 カメラワークが切り替わって、男の人の顔が見えた。

 あぁ……なんだ、リュウじゃん。

 いつも夢に出てくる人。

 じゃあ、こっちの女の人ってあたしかな。多分そうだね。

 これ、夢の中で夢見てるんだなぁ。

 不思議な感じ。時々あるんだよね、夢見ながら、あぁ、これって夢だよねって思う。夢だから自分で好きに変えられたりして。

 それにしても、夢の中のあたしも重病人ぽい。一人で起きられないみたいだし、食事も食べさせてもらってる。


 ――男の人に食べさせてもらうのって、なんだかエロい。


 あたしにもこういう人、いればなぁ……。

 リュウみたいな人、近くにいないかなぁ。まあ、これは夢なんだけど。

 あたしも早く運命の人、探さなきゃな……。

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