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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月4日(火)

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37.鈴の音

※20151206 改行位置修正

 まだらに目が覚める。幌の隙間から見える光は、どう考えても昼日中の太陽の光だ。

 何でこんな時間に目覚めたのだろう。この時間なら普通は仕事してるか向こうの世界で普通に生活してる時間帯だ。でも、彩子の記憶はやっぱりない。

 やっぱりあの薬のせい……なのかな。あれを飲まされてから、現実のあたしの記憶が繋がらない。

 それとも、もしかして現実のあたしに何か大変なことが起こってるのかもしれない。

 それならなおさら、彩子の記憶がないのが怖い。

 彩子になにかあれば、あたしも死ぬんだもの。……トリムーンの分身だけが生き残った例はない。

 ぞくっとして自分を掻き抱く。

 それとも、ラトリーがいないせい? 本当に姿を見せなくなった。それが架け橋だった可能性も確かにある。

 あたしは体を起こした。

 思ったより高い位置にいることに気がついて、一瞬ぞくりとする。寝返り打ったりしてよく落ちなかったものだ。

 隣はと見れば、あの男――キーファは驚いたような目であたしをみてる。寝る前には横にいて、抱き枕代わりにされてたわけで、あたしにしてみればいてもおかしくないよな、とは思ったけど、こんな時間まで寝てたわけ?


「おまえ……何でこの時間にいる?」


 何でって言われても……向こうのあたしが眠ったんだろうと思うけど。


「さぁ」


 なんとか木箱の上から降りれないかな、と下を見てたら、いきなり後ろから抱きつかれて引き倒された。


「ちょっ……なにすんのよっ」

「……おまえのせいで寝不足なんだ。もうしばらく寝る」


 だから抱き枕になれってこと? あたしを抱き枕にしたせいで寝不足なら、しないほうがゆっくり寝られるでしょうに。

 後ろから抱きすくめられて、首元に唇の感触。


「だから……やめてってばっ」


 あれ、昨日寝る前に飲まされたあの薬、それなりに効いたのかしら。昨日に比べるとなんだか体に力が戻ってる気がする。

 キーファの腕を外そうとすると、後ろから舌打ちが聞こえた。お生憎様、元気になったらちゃんと抵抗するもの。薬飲ませるんじゃなかったとかいまさら思ったって後の祭りよっ。


「……そんなに抵抗すると、本当に襲うぞ」


 いつもの耳元で甘く囁くセリフと違う、怒りといらだちのこもった低い声。

 えっ? と思うまもなく、あたしはキーファに組み敷かれていた。


「やっ、やめてってばっ……」


 やっぱりこの人、変態だっ。あたしが弱ってる時は散々いたぶって愉しんで見てるし、抵抗したら襲うって、何なのよっ。


「襲われたくなければじっとしてろ」

「あたしは人形じゃっ……んっ」


 唇で遮られる。やだっ、怖い。昨日のキーファのキスにはからかいの色があった。でも、今のは。

 怖い。こわいこわいこわい。

 ぞくっと心臓を掴まれたみたいに、あたしの体は細かく震えだした。

 唇以外はどこもさわられてないのに、溢れてくる涙。恐怖で出る涙って、塩辛いんだ。

 震える手で、ベルトにぶら下げた鈴を探る。

 お願い、早く来て。早く、助けて、リュウ!





 鈴を探っていた方の手首を枷の上から握られる。ぐいっと枷が食い込んで、あたしは塞がれた唇から悲鳴に似たうめき声を上げた。


「……誰に連絡しようとしてる」


 ぎくり。思わずキーファの目を見上げて――後悔した。冷徹な瞳に、心臓が刺し貫かれる。

 さっきまでの恐怖に加えて、死の恐怖が襲ってくる。知らないふりでやり過ごせばよかった。でも、浮かんできた恐怖を払いのけられるほど、あたしに余裕はなかったみたい。

 腰の鈴に気づかれた。力がかかった、と思った途端にぶちっと紐が切れる音がした。


「鳴らない鈴を欲しがるとか変だと思ってたんだよ。これが誰かへの合図なんだろう?」


 あたしの目の前で軽く揺らして見せる。透明な音の広がり。これはキーファには聞こえないんだろうか。

 いらだちとともにキーファは鈴を握りこんだ。妙な音がして、粉々になった鈴がその手からこぼれ落ちるのを、あたしはただ何も言えずに見ているしかなかった。


「答えろ。答えないなら……」


 腰のうしろから抜身の短剣を取り出し、キーファはあたしに振りかぶった。力で抑えこまれてないのに、あたしは逃げることができなかった。

 昨日とは比べ物にならない痛みが左肩に走る。


「ああぁっ!」


 痛みで体をよじる。キーファは冷たい瞳のまま、あたしを見つめていた。この人、本当に外道だ……。

 生臭い血の匂い。頬にかかる熱い飛沫。痛みと共にどんどん熱が失われていく。

 ああ、本気だ、この人は本気であたしを殺す。

 消えそうになる意識の下で、あたしはリュウの名前を口にしていた――。

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