35.疾走
※20151206 改行位置修正
リュウは森の中を疾走していた。咆哮を上げながら。
あのあと、森の出口までピコを送ると、リュウはピコとは反対方向を探しに行った。
――あの鈴は渡してくれたとピコは言っていた。もしまだ彼女があれを持っていて、鳴らしてくれたのなら、必ず俺の耳に届く。俺を呼んでくれ、頼む、サーヤ!
トラントン側から来られる森側の一番端まで来るのにリュウの足でも二日かかった。夜の間しか動けない上に、その途中で森から少し入った辺りまでをくまなく探していたせいだ。
この先は川になっている。川で断絶された向こう側には馬車の通れる道がない。これ以上向こうには馬車では行けない険しい道になる。
大きく迂回すれば橋があるが、それはむしろトラントンから近隣の村へ向かう道だ。遠回りになりすぎる。
なら、反対側だったのかもしれない。ピコの連絡待ちか、もう少し離れた場所なのかもしれない。
車輪の痕を探しながら、吼える。
もう一度、戻りながら丹念に探すか、森を出てもう少し離れた場所を探すか……。
リュウは迷いながら、周りのもの全てを見落とさないように睨みつけていた。
ピコからの小鳥を見つけたのはその時だった。
小鳥はリュウの姿を見つけると、彼の手に舞い降りてきた。
『リュウ? こっちは森の端に着いた。馬車は見当たらない。でも、途中であの鈴の音が聞こえたんだ。急いでこっちに来て。ボクの聞き間違いかも知れない。でも、リュウ、頼む――』
最後まで聞かずにリュウは走りだした。
ぎりぎりと歯を食いしばると、リュウは咆哮を上げる。もっと早く、もっと早くと自分の体を急き立てる。
あの鈴の音が聞こえないかと耳を澄ましながら。