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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月3日(月)

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34.白い羽と黒い角

今回も微エロです。

※20151206 改行位置修正

 水と干し肉だけの食事を与えられた。

 何日ぶりの食事だったんだろう。食欲はないけどとにかく飲み込む。

 そのあとずっと、あたしは記憶をたどっていた。

 もうすっかり暗くなってる。昼間のうちに一度眠ったみたいだから、多分現実には戻ってるはず。……でも、やっぱり向こうでのことは一切覚えてない。

 あの黒い男は向かいの木箱に座って時々こっちを見てる。


「あの、聞いていい?」


 フン、と男は鼻を鳴らした。それを肯定ととらえて、あたしは続けた。


「……あたし、なんでここにいるの」

「覚えてないのか……まあ、薬のせいだがな。忘れとけ」


 夢を見ていた。夢……だったんだと思う。ものすごくいろんな映像が見えては飛び去っていく。何を見ていたかは全然覚えてないのに、見ていた事実だけは覚えている。

 ピコは覚えてる。リュウのことも。鈴のことも。森を出たところまではちゃんと覚えてる。でもそのあと……どうしたんだろう。トリエンテまで行くはずだった。行ったの? 行かなかったの?

 でも、左腕の傷は治ってる。じゃあ、やっぱりトリエンテまでは行ったんだ。きっと教会で治してもらったのね。覚えてないけど。


「名前を……教えてくれない? あたしはサーヤ」

「キーファ、だ」

「あんた、魔法使い?」

「ああ」


 首につけられた傷は確かに消えていた。魔法を使ったようには見えなかったから、直接触れることで治せる能力なのだろう。


「キーファ、さっき言ってた爺って、誰のこと?」

「……覚えてないならそのほうが好都合だ。聞くな」

「売られるって言ってたってことは、あたし、誘拐されたのね、その爺とやらに」


 答えはない。思い出しながら、整理するついでに口に出す。


「あんた、あたしの監視役としてその爺に雇われたの?」


 答えはない。

 高官に売るとか言ってたわね。売れるほどの女じゃないと自分では思ってる。何が気に入ったのかしら。


「いつまでここにいるの」

「さあな。……それより」


 男はあたしの前に立った。


「これを飲め」


 瓶を差し出される。あの薬の瓶とは形が違うけど、でも。


「……薬はイヤ」


 あたしは横を向いた。あの薬の効果はまだ抜けてない。鎖の重みに負けるほど、手足の力は入らない。


「あれとは違う。手足のしびれが残ってるだろ?」


 しびれなのか何なのかわからないけど、自分の体が重たいのは確か。


「解毒まではいかないが、少しは和らぐ」

「じゃあ、飲むわ」


 瓶を取ろうと手を伸ばした。が、キーファはすいと手を引っ込める。


「口を開けろ」


 無理やり飲まされるのは嫌な記憶が蘇る。しかたなくあたしは上を向いて口を開けた。キーファは瓶を開けると、中身を自分の口に流し込み、唇を重ねてきた。唇の間から薬が喉に落ちていく。


「……っ」


 今までの薬とは違ってさらさらした液体で、花のような香りがする。と、体が動かなくなった。またなの? 嘘つきっ……。

 唇を離したキーファは、薄い笑いを浮かべている。今度は目が笑っていた。


「おまえ、本当に警戒心ないな。毒薬だったらどうするんだよ」


 キーファの腕の支えがなくなって、床に体が滑り落ちる。今までのとは違う。確かに手足のしびれは薄れてる。でも、意識ははっきりして、感覚が鋭くなった気すらする。


「なに……飲ませたの」


 声を押し出すのも苦労する。


「言ったとおりの効能のある薬だ。但し――副作用でしばらく体が動かなくなる。意識はしっかりしてるだろ?」


 キーファの顔が見えなくなる。しばらく何かごそごそする音がしていたが、不意に膝と首のあたりに何かが触った。くすぐったい。


「きゃっ」

「喚くなよ」


 ぐいと持ち上げられ、次にドサッと落とされたのは、木箱の上に敷かれた布団の上のようだった。夜でも白いシーツが見える。馬車の幌が近い。


「なに……するつもり」


 答えはなかった。視界の外でキーファがなにかをやっているのは音で分かる。

 しばらくあって、あたしの左側にキーファが乗ってきた。……何で上半身裸なのよっ!


「なっ……」


 横に寝そべると、キーファはあたしの首の下に右腕を潜り込ませ、あたしを人形か何かのように抱き寄せた。左腕はあたしの腰に巻き付いている。


「抱き枕だ。俺は召喚者じゃないからな。夜に眠り、朝に起きる。おまえはそのまま朝まで起きてるんだろう? 俺が起きるまで、そこにそうしていろ。まあ、動けないだろうがな」


 そう言ってキーファはあたしを抱き寄せる。裸の胸に密着させられて、両手でなんとか押し返そうとする。息できないわよっ。

 腰の上に置かれた手は、背中や脇腹を這うように滑る。くすぐったさとそうでないものがこみ上げて体をよじろうとするが、動かない。


「からかうのは……やめっ……!」


 いきなり顔を上げさせられて、唇を塞がれた。そして。


「枕は喋るな」


 それだけ言うと目を閉じて寝息を立て始める。でも、手は動きを止めない。狸寝入りめっ。

 そういえば、上半身裸なのにあの白い羽は見えない。ピコと同じく、必要に応じて出したり引っ込めたりできる代物なのだろう。触ってみたかったな。あたしが空をとぶ時にはああいう羽根を想像して飛んでる。飛んでいるところを見てみたかったな……。

 不意にキーファの腕に力が入り、強く抱きしめられた。顔が胸元に密着する。苦しい苦しい息できないってばっ!

 朝が来るまで、あたしは枕代わりにされながら、悩ましい愛撫と呼吸困難にあえぐ結果となった。

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