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33.羽ある男

こちらも少々エロ風味です。

※20151206 改行位置修正

 ぞっとする笑み。でも狂った笑みじゃない。どこまでも冷徹で残忍な笑み。あたしをおもちゃとしてしか見てない。殺気を隠してないのでも読み取れる。

 助ける、なんて本気じゃない。逃しておいて、追いかけて殺す気だ。

 結局殺すんじゃない……。積極的に殺されるのはいや。それなら、彼の言葉に従うしかない。


「答えは?」


 あたしは上目遣いになりながら、弱々しくうなずいた。


「いい子だ」


 男はあたしの髪の毛を掴むと無理やり上を向かせた。


「いい子にはご褒美あげなきゃな」


 男の顔が近づいてくる。ああ、またなのね……。あたしは諦めて目を閉じた。

 が、なにも起こらない。恐る恐る目を開けると、男は汚物を見るような目であたしを見下ろしていた。髪の毛をつかんだまま、右に強く引き倒される。


「ぐ……かはっ」


 腰にずんと重いものが乗る。顔を向けると、男が足を載せているのが見えた。


「おまえ……売女か」

「ちが……うっ」

「じゃあ、あれか。男を誑かす間者スパイか。初心な演技が上手いよな。すっかり騙されたぜ」

「ちがうっ! キス以外したことないわよっ!」


 そう叫んで、慌てて顔を背けた。なんてはしたないこと言ってるのよ、あたし。

 男の唇が薄く開いた。腰にのしかかっていた重さが消え、あたしは腕に力を込めて上体を起こし、木箱に体を預ける。


「ふぅん……」


 あたしの前にしゃがみこむと、男はあたしの顎に手をかけて上を向かせ、耳元に口を寄せた。


「じゃあ、俺の玩具になるか?」

「おも……ちゃ?」


 クク、と笑う声が耳元で聞こえ、唇を塞がれ、舌が侵入してくる。息ができないほどに濃厚なくちづけ。気がつけば強く木箱に押し付けられ、男の唇は喉元に降りてきていた。


「……っ! やめ……てっ」


 力を込めて男の体を押し返したが、抵抗にもならない。


「いいねえ……ゾクゾクする」


 耳元で囁く男の声がぞくりと背筋に走る。運命の相手でもないくせにっ……!


「あ……んたも、一緒……じゃないのっ! よ……わってる相手……じゃなきゃ……なにもできないくせにっ!」


 途端に平手が飛んできた。体の自由が効かなくなる。目の前に短剣の刃が見え――首筋に痛みが走った。


「おまえ、立場分かってないな。俺の一存でおまえは死ぬんだぜ?」


 ――生かすつもり、ないくせにっ。


 あの瓶を棚から取ると、男はあたしの目の前にちらつかせた。


「おまえがもう少し大人しくしてるなら、これは使わないでおいてやる。俺も使わないほうが楽しめるしな。どうする? 今ここで俺に殺されるか、玩具になるか」


 体が解放される。あたしは喉に手を当てた。ちりちり痛む。皮一枚切られたみたい。手に血がついてる。


「……どうせ、殺すんでしょ? だからあたしに顔を見せたんでしょう? ……だったら好きにすればいいわ」


 男を睨みつける。ひと睨みで殺せる力があったらいいのに。

 男は奇妙に唇を釣り上げた。嬉しそうに見えたのはきっとあたしの気のせいだろう。


「ただの馬鹿女じゃなさそうだな……いいだろう」


 にやりと男は笑い、瓶を棚に戻すとあたしの前にしゃがみこんだ。


「枷は魔法で閉じてある。力じゃ壊せない。鎖も同じだ。首輪は外しといてやるよ。いい声で鳴いてもらわないとな」


 その笑みにぞくっと体が震える。耐えられるだろうか、あたし。でも、耐えなきゃ。

 男の手があたしの喉をさぐる。自分でつけた切り傷を確かめるように、何度もなぞる。痛みで顔を歪めると、男は首に顔をうずめてキスをし始めた。舌の感触。


「や……っ」


 いつものあたしならこんなやつ、蹴飛ばしてやるのに。この頭ひとつ、押し返す力もないなんて。屈辱。


「治してやってんだ。動くんじゃねえ」


 ――その割には傷のない場所までなめてるくせにっ!


「……変態」


 罵ると、男は顔を上げた。薄く笑った口元からぺろりと赤い舌が唇を舐める。


 ――やば、マジ変態だ。こういう人いるよね。お近づきになりたくない種類の人だ。


「……あたしの荷物、帰して」


 つとめて冷静な声を出すと、男は馬車の奥を顎で指した。よろよろと立ち上がり、そっちに歩こうとしたが、鎖を引っ張られて倒れ伏す。


「簡単に渡すわけ、ないだろ。何入ってるかわからねえのに」

「鈴が欲しいだけよ」


 フン、と鼻を鳴らして男はあたしのカバンを探りに行った。大したものは入ってないし、カバンごと奪われても困りはしないけど、あの鈴だけは譲れない。


「これか? 音なんかしないぞ。壊れてんじゃないのか?」


 ぽいと渡されたのは、間違いなくあの鈴だった。男は食べ物の袋と水袋もぶら下げてる。自分のものにするつもりね。


「ああ、そうそう、ここはめったに人の通らない外れのあたりだ。大声を出そうと誰にも届きゃしない。助けを呼ぼうとか思ってるんなら諦めるんだな」

「……わかったわ」


 あたしは鈴の紐をベルトにくくりつけた。少し揺らすとあの透明な音が聞こえる。

 とにかく生き延びなきゃ。

 お願い、気がついて。あたしはここよ。早く見つけて……リュウ。

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