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32.悪戯

少々エロ風味です。

※20151206 改行位置修正

 何度目の目覚めだろう。

 薬を飲まされるたびに記憶が飛ぶ。どんどん、記憶が曖昧になってくる。

 麻酔のようなものだけじゃない、何か別の薬が入ってる。麻薬?

 食事は与えられていないのに、お腹が空かない。

 それに……何日経ったのだろう。全然わからない。一日経ったようにも百日経ったようにも思える。現実のあたしが起きたのか、それすらも覚えていない。

 目を開けると幌の隙間から光がみえる。馬車の中は暗いが、見えないほどではない。ふらつく頭を押さえて起き上がろうとして、手首の枷に気がついた。枷には鎖がつながっている。上体を起こして足首を見ると、やはりそちらにも同じ枷がついている。首にも鎖のついた首輪がはまっている。声を出そうとしたが、出っ張りが喉に食い込んで声が出せない。

 逃げようと立ち上がったところで、またあの羽の音がした。背後から羽交い絞めにされる。


「懲りねえな。……ちょうどいい、暇つぶしに遊ぶか」


 あの薬の瓶をこれ見よがしに棚に置いて、羽ある男は少しだけ力を抜いた。もがけば腕の中から逃げられそうなくらいに。でも今のあたしの体じゃ、それにすら抗えない。


「ああ、ただし、忘れるなよ。いつでも体の自由は奪えるからな。それはよくわかってるだろう?」


 と、いきなり体の自由が効かなくなる。再び男の腕があたしを拘束し、体を押さえていた力が消える。


「な……にを……」


 斜め後ろにあるはずの男の顔を見ようと首をひねった。が、それは抑えこまれた。


「俺の顔は見るな。見たら殺す」


 顔のすぐ側でねっとりとささやく。左耳にかかる吐息がぞくっと背筋を寒くさせた。この男の力は氷。心を体を心から凍らせる。

 男の吐息がすぐ近くに聞こえる。悪寒がしたのは間違いじゃなかった。左の肩にやわらかなものが当たる。次の瞬間、ぬるりとした触感がして、おぞましさで体が震えた。


「……やっ」


 体を捻るが、男の腕の力は半端なく締められている。首の枷が外された。がらん、と足元で音がする。

 唇が、舌の感触が鎖骨から徐々に項へ上がってくる。膝が震えた。唇がわななく。息をするのも苦しい。


「良い反応だ――おまえ、処女か?」


 耳朶を噛まれ、舐められる。気がつけば男の右腕はあたしの脇腹を確認するかのようにゆっくり撫でている。左腕だけが締め付ける力を強くする。


「や……あっ……はっ」


 首を振るが、男は首への愛撫をやめない。ぞわりと髪の毛が逆立つような感覚。自力で立っていられなくなって、あたしは男の左腕で支えられる形になってしまった。


「ふん。他愛もない」


 鎖が鳴る。男の腕から解放されると、膝から無様に倒れこんだ。腰が抜けたような感じ。くらくらする。頭痛もひどい。息が上がってる。


「あの爺も物好きなことだ。薬漬けにして逆らえなくなった女じゃないとそそらないとか。こんな生きのいい女がもったいない。……なあ、おまえ。二ヶ月薬漬けになってどこかに売られるのと、薬漬けにされてあの爺の愛人になるのと、どっちがいい?」


 唇が震える。どちらも嫌に決まってるじゃないの。力なく首を振るのが精一杯だった。


「……助けてやろうか?」


 目の前にしゃがんだ男は初めて顔を見せた。白い羽。浅黒い肌に真っ黒なくせ毛。そして……髪からのぞく捻れた黒い角。濡羽色の瞳が剣呑な光を湛えてあたしを見ていた。

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