31.リュウ
※20151206 改行位置修正
リュウはため息を付き、立ち上がった。
「茶、飲むか」
「ああ」
かまどに向かい、火をおこすと鍋に水を張って沸かし始める。
「おまえはいつ気がついたんだ? サーヤのこと」
「怪我をした彼女を小屋まで運んだ日だよ。日が昇って寝る前に様子を見に行ったら目の前で消えたからな……あの時はびっくりしたけど、夜には戻ってたし、それで気がついた。おまえから召喚者は他にもいるって話、聞いてたけど、実際に会ったのは彼女が初めてだ」
「まあ、おまえは森から出られないもんな」
森にいる限り、出会う人間はほぼ限られてくる。
「まあ、な」
茶のカップをピコに渡しながら、リュウは席に戻る。
「で?」
話を促すと、ピコは真顔に戻った。
「サーヤが拉致されたのは翌日のことだ。手紙をトリエンテの商業ギルド長に運んだあと、消息が切れてる。探りを入れた感じだと、魔法使いが関与してる」
「魔法か」
「ああ。厄介な相手のようだ。この姿で潜入したところ、サーヤはトラントンへ運ばれたあと、その魔法使いに連れ去られている。森の近くに馬車で泊まってるんじゃないかと思うんだ。これから探すつもりなんだけど、リュウにも手伝って欲しい」
「ああ、もちろんだ」
「それと」
ピコはカバンを開け、小包を引っ張りだした。
「なんだ、それは」
ぱりぱりと包みを開けると、手のひらに収まるサイズの瓶が並んでいる。蓋をゆるめてみると、妙な匂いがする。
「これが二つ目の頼み。リュウなら分かるかと思って」
「……説明してくれ」
指に少しだけつけて舐める。舌がぴりっと痺れる。麻酔効果か。他にも薬草独特の匂いがついている。
「ここ二月ほど、トリエンテの街で行き倒れが増えてる。妙なのは記憶の混乱があることと、この瓶を持った人間がいたこと。行き倒れの多くが便利屋で、ギルド長の家への荷物を運んだんじゃないかと思う。でね……この薬がどうやらその記憶の混乱を引き起こす原因で、やばいのは、サーヤにもこれが投与されてる可能性が高いってこと」
リュウは拳を握り込んだ。思わず瓶を握りつぶしそうになって、力を緩める。
「一人ね、正気に戻るまで一ヶ月以上かかった人がいるんだ。しかも禁断症状が出ていた。……サーヤを早く探し出さないとマズいんだ」
「……分かった。でも、薬の分析と解毒薬は後回しだ。俺も彼女を探しに行く」
「頼む」
「ああ。連絡用の鳥を飛ばすよ」
茶を飲み干して、二人は立ち上がった。