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30.リュウの怒り

※20151206 改行位置修正

 夕刻、ルーは森から少し離れた木に馬をくくりつけると、森に分け入った。

 ある程度進んだところで、あの鈴を鳴らす。いつものピコの姿に戻ってもよかったが、それよりもリュウがもうこっちに来ているかどうかのほうが気がかりだ。

 夜行性の森の番人は、どうしても深夜にならないと行動できない。深夜から朝型までが彼の活動時間だ。こんな早い時間では、待ちぼうけを食らうのは間違いない。

 だが。

 予想外にも猿猴えんこうの咆哮が聞こえた。

 ルーは鈴を鳴らし続ける。今日は飛んできたわけじゃないから、いつもの様に空が見えるポイントじゃない。

 樹々の揺れる音がどんどん近くなる。咆哮がいつもより怒気を含んでいるのはルーにも分かっている。

 ズシン、と地響きがして、目の前に猿猴――リュウが降り立った。


「やあ、リュウ。ごめんね、こんな時間に来てくれるとは思ってなかったよ」


 いつものピコの声で、ルーの姿のまま語りかけた。一瞬怪訝な目をしたリュウは、声を聞いてピコと認識したようだ。


「ピコ……どういうことだ。何が起こっている。俺がここまでサーヤを送ってから、一週間も経ってないんだぞ!?」


 掴みかかるリュウの腕を、ピコは押しとどめはしなかった。


「ごめん、リュウ。まさかこんなことになるとは思ってなかったんだ。……ほんと、ごめん」


 唇を噛みしめる親友に、リュウは手を離した。後悔しているのはピコも同じなのだ。


「近くの小屋へ行こう……そこで知ってること全て話せ」


 リュウはピコを肩に載せると樹上に飛び上がった。





 小屋へは一刻にじかん程度で着いた。森の端からそれほど深くない位置にある小屋の存在はピコも知らなかった。

 ソファにピコをおろし、リュウも向かいに腰を下ろした。


「どこから話したらいい?」

「最初からだ」

「わかった……事の発端は、サーヤが運んだ一通の手紙だ。サーヤが便利屋なのは知ってるよな」

「ああ。荷物を預かってるって言ってたし、カバンの中に手紙があったから、そうだろうと思ってた」

「乙女のカバン、覗いたのかよ」

「仕方がないだろ? 危険なものが入ってたら困るし」


 若干すねた口調でリュウは言う。


「トラントンまで一緒に行って、そこから馬車でトリエンテまで移動したんだ。そうそう、肩の傷は教会でボクが治療したからね」


 ――とりあえず、ボクがサーヤにキスしたこと、それも三回もしたってことは黙っとこ。リュウが知ったら絶対ぶっ飛ばされるもの。一回はサーヤからしてくれたってことも。ボクもまだ命は惜しいし。


「そうか。おまえなら安心だな」

「……そう思うんなら、なんで小屋で治療させてくれなかったんだよ。おかげでサーヤ、有り金全部寄付してったんだよ?」

「有り金……おい、それ、受け取ったんじゃないだろうな」


 剣呑な光を宿す、リュウの黒い瞳。


「仕方ないじゃん。教会で治癒師から治療受けたんだもの。それなりの寄付をもらわないといけないルールなんだよ? だから小屋で治療させてくれって言ったのに……忘れてると思うけど、ボクは流しの治癒師だから無料で治療できるんだ。流しの治癒師でも教会の場所を借りたら、教会の治癒師がやったと同じ金を請求されるんだよ。だから、サーヤの寄付はボクが受け取ったわけじゃない。教会に対しての寄進になるんだ」

「……そうだった、すまん。でも、彼女が寝てる部屋におまえを入れるわけには行かなかったんだ」


 分かってくれ、とリュウは言う。

 ピコは肩をすくめた。


「わかってるよ。……というか、会った時から気がついてたよ。サーヤが召喚者ドリーマーだってこと」


 リュウの目が見開かれる。がすぐにため息を付き、うなずいた。


「そうだったな。……俺の時も一目で見破られたっけな」

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