表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
12月25日(土)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/154

2.トリムーンの便利屋

※20151206 改行位置修正

「足疲れたぁ」


 道端に座り込んで、足をほぐす。ふくらはぎパンパン。サンダルを脱ぎ捨ててふくらはぎマッサージをする。ここに足湯があったら最高なんだけどね。


「おつかれさま、サーヤ。もう少し森の奥に入れば清水が湧いてる場所がありますが、どうします?」


 ふくろうのラトリーが気遣ってくれる。あたしは腰の革袋を外した。二つあるがどちらもほとんどぺったんこだ。


「そう、じゃあ休憩終わったらそこで水の補給しよっか。様子見てきてくれる?」

「はいはい。ここから動かないでくださいねえ」


 ぱたぱたとラトリーは飛んでいった。

 日が落ちてからずいぶん経った。三つの月は相変わらず天頂に輝いてる。

 夢の中の世界は現実とほぼ同じように時間が流れるけど、星や月の位置で今が何時ぐらいかを知ることはできない。日が落ちて空が暗くなる時と空が白んできて日が昇る時以外は、時間は主観的に流れる。

 今日は熱さましを飲んだおかげか、眠りが浅くなったり目を覚ましたりは今のところない。

 このまま明日の朝までこっちにいられそうかな。

 それにしても、ここまで村も町も家の一軒も見かけなかった。ちょっとルートを間違えたかな。

 斜めにかけていたカバンをおろし、中身を確認する。

 赤い封蝋で封のされた封筒が二つ、ナイフやフォークなどの細々した道具を入れた革袋、それから道々採取してた木の実と干し肉。

 食料の残りを確認して、あたしはため息をつく。どこかで調達できると期待してたんだけど、ちょっと甘い見通しだったなぁ。

 弓矢はウサギを狩った時に最後の矢が折れちゃったし。ウサギが獲れてればもう少し余裕ができてたんだけどな。森の中で食べられるもの探さなきゃ。


「サーヤ、近くに動物はいないみたいですねえ」


 ふくろうが帰ってきて肩に止まった。


「おっけー。じゃ、行きましょ。それから、食べられる木の実があったら教えてね」

「先ほど帰りがけに見つけましたから、あとでそちらを回りましょう」


 ラトリーの案内で清水の湧く場所はすぐに見つけられた。おまけに近くに姫リンゴみたいな果物がなってる木が生えてて、思わず小躍りする。

 夜の森は確かに不気味なんだけど、その場所は少し開けたところにあって、月の光が地上まで届いていた。その中で、湧きでた清水はきらきらと澄んだ音を立てながら吹き出している。

 手袋を外し、両手で受ける。身を切られるほどの冷たさ。トリムーンではこれほど冷えた水を飲めるチャンスなんてめったにない。両手に水を溜め、口に運ぶ。冷たいものが口の中から食道を通って胃に降りていくのがわかる。こんなに美味しい水を飲むのは本当に久しぶりだ。

 三度ほど繰り返して飲み、顔を洗う。しゃきっと目が冷めて気分がスッキリする。

 それから水袋を取り出すと、残った水は地面に捨て、冷たい水を詰めた。二つともいっぱいにして口を縛ると、腰にぶら下げる。パンパンに膨れた水袋がずっしり重たくて、冷たい。


「ラトリー、ありがとね。ここのお水、すっごくおいしい」

「それはようございました。さ、木の実も採集して行きましょうか」


 姫リンゴに似た果物を一つ取ってかじってみると、真っ赤に熟れた皮は歯が当たればぷつりと切れ、甘い蜜がたっぷりの果肉が顔をのぞかせる。皮自体も甘く、歯ざわりもりんごそっくりだ。

 真っ赤に熟れたものをいくつかと、まだ少し固めのものをいくつか、カバンに収める。


「じゃ、戻りましょうか。もう一つの木の実のなってる木はどうします?」

「そうね……今回はいいかな」


 カバンの容量と重さを考えると、これ以上はやめといたほうがよさそう。

 元来た道をたどり、山道に出る。


「ねえラトリー、日が昇るまでまだ時間ありそう?」

「そうですねえ、まだ結構時間はあると思いますけど」


 バランサー代わりの水袋も補給できたし、そろそろ行こうかしら。


「じゃあ、空から行こっか。ラトリー、トリエンテの町の方角、わかるわよね。道案内お願い」

「はいはい。じゃあ、行きますよ」


 ラトリーはあたしの肩から飛び立った。飛んでる白ふくろうの伸ばした翼はとっても綺麗なのよね。ついつい見惚れてしまう。


「サーヤ、先に行っちゃいますよ」


 空から声が降ってくる。

 あたしは助走をつけると両足で地面を強く蹴った。

 体がふわりと浮く。両手を少しだけ体から離して、風の抵抗を低く抑える。周りの樹木をあっという間に後ろに置いて、空に舞い上がった。

 上空で一度止まり、ぐるりと三百六十度を見回した。歩いてきた森の白い道が見える。

 ラトリーは飛ぶのをやめてあたしの背中に降りてきた。爪が食い込まないよう、斜めに担いだ弓につかまってる。


「トリエンテはあっちです」


 羽を広げて指す方角には低いながらも山が立ちふさがっている。一番低いところを通れば飛んで行けそうだが、街道からはずいぶん外れてる。ということは町や村は期待できそうにない。

 とりあえず飛びながら観察することにする。

 飛んでる最中に夢から醒めて現実に引き戻されると、次に眠った時にどこから開始するのかが怖いのよね。

 街道から大きく外れたところで目を覚ますと、危険な大型動物に遭遇しないとも限らないし。

 あたしは体を傾けて飛ぶ方角を少し変えた。滑るように飛ぶのだけれど、ラトリーほどのスピードは出ない。これは多分、あたしが怖いと思ってるせいなんだろうと思う。夢のなかのあたしの特殊能力だもの、もっとマッハなスピードで飛べてもおかしくないものね。

 空をとぶのは気分がいい。しかも夜の空。三つの月が煌々と照らす海が見えたりするとわくわくする。でもこのところの仕事では海方面に行く仕事はないのよね。それが残念。

 青く黒い山の上をすり抜けるように滑るように飛ぶ。月の青い光が十分あるので、山々の木々一本一本がちゃんと見える。時折走る大型動物の音などが響いてくるのが怖いけど。


「ねえ、ラトリー」

「はい?」

「この仕事が終わったら、次の仕事、海に行きたいわ」

「海ですか。うーん。あっち方面は今はかなり危険ですよ?」

「じゃあ仕事自体がないの?」

「いえ、あるにはあるんですが……サーヤにはきつい仕事ですよ?」

「構わないわよ。どんな仕事?」

「護衛と暗殺。それから誘拐です」


 う。返事に窮してしまう。

 あたしだって便利屋を長くやってる。まあ、この夢の中でだけだけど。

 護衛の経験は何度もある。たいてい夜にしか動けないから、隊商の夜間の見張りとか町の護衛とか、館の警備とかになるんだけど、一度だけ、昼間のパレードの護衛もやったことあった。途中で呼び戻されることはなかったけど、あれで呼び戻されてたら、契約不履行になるんだろうなあ。

 でも、暗殺と誘拐はまだ請け負ったことはない。

 誘拐だって、もし請け負ったとしても、あたしが呼び戻されてる間はどうする? って問題が出てくるし。暗殺はそれこそ、こちらで死んだりしたらどうなるのか……わからないもの。


「あたしでは出来そうにないわね。長時間拘束されるし」

「まあ、トリエンテで仕事が待ってるかもしれませんから、そんなにがっかりしないでください」

「そうね。とにかく急ぎましょうか。日が昇るまでは飛ぶわよ」

「疲れたらちゃんと休んでくださいねぇ」


 あたしは少しだけスピードを上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ