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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
12月31日(金)

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24.拉致

※20151206 改行位置修正

 参った。万事休す。

 倉庫の奥あたりから何かの気配がする。ネズミのような足音ではないし、なんだろう、布ずれの音みたいな音。多分魔法使いなのだろう。

 呼吸ができるだけマシかもしれない。眼球も舌も動かせないなんて、苦行だ。


「痺れ薬を飲ませて裏の幌馬車に乗せておけ。朝早い辻馬車にまぎれて運び出す」


 誰に指示してるのだろう? あたしから見える範囲に他に人はいない。ということは魔法使いしかいない。

 鳥の羽ばたくような音がして、視界を白いものが横切った。ラトリー? と一瞬思ったけれど、ラトリーはそんなに大きくない。

 背後に降り立ったその気配はぞっとするほど冷たかった。ピコの力を太陽と言うなら、この魔法使いの力は氷のようだ。

 硬直したあたしの腕を誰かがつかむ。動くはずのないあたしの体はやすやすと動き、両腕を後ろにねじりあげられてしまった。手首を何かでぐるぐるまきされたのが分かる。金属じゃない、多分布か粘着テープ。

 それでも、自分で体を動かすことができないあたしは、痛いと悲鳴もあげられない。生理的反応で出た涙が頬を伝うのが分かる。

 いきなり後ろから手が視界に入った。大きな手だ。片手に何か瓶を持っているのが目に入る。

 反対の手があたしの顎をがっしりとらえて口を開けさせようとする。抵抗しようとしてみたが、やはりあたしの思うようには体が動いてくれない。このままじゃこいつらの思い通りだ。何をされても抵抗できないなんて。

 顔を上に向かされ、開いた口に瓶から液体が流し込まれるのが見える。ドロッとした緑色の、臭い液体。

 飲まないように喉を閉めてみるが、喉の辺りからだんだんとしびれてくるのが分かる。なんて即効性。


「飲み込め」


 低い押し殺した声。男の声だ。ビリっと電気が走った。体が反り返り――その弾みであたしは液体を飲み込んでしまった。

 顎を押さえていた手がなくなると同時に、体を拘束する力が緩められた。あたしは後ろを振り返ろうとしたが、ぐにゃりと膝が崩れてそのまま体が傾いていく。体を捻って庇おうとしたけど、体は言うことを聞かない。そのまま顔から地面に倒れ込んだ。何かが刺さった感触があったが、痛みはなかった。

 声を出そうとしたが、それも叶わなかった。

 どこか遠いところで老人の声が聞こえる。羽の音。何がどうなってるのかわからないまま、視界に映るものがぐにゃりと歪んで消えた。





 森の中。いつの間に来たんだろう。きれいな泉。それから月の光。赤い目、空からみた青黒い森。街角で遊んでいる女の子。黄色い声。壁。砂。なんだろう。いろんなものがぐちゃぐちゃに浮かんでは消えていく。

 音がする。水の音。扉の音。カラカラ回る。うるさい。誰の足音? 涼やかな鈴の音。鐘の音。動物たちの足音。けたたましいサイレン。誰かが話してる。男? 子供? 馬の鳴き声。咆哮。

 鈴の音がいい。あの音。月夜に鳴る透明な音。ああ、でも金切り声がかき消していく。闇は嫌い。怖い。一人は嫌。誰か。

 手をのばそうにも体は動かない。喉が渇いた。お腹も空いた。ああ、わからない。どこ? 夕日が見える。ビルの谷間の。違う、朝焼けの空。黄色いハンカチ。車。パンとチーズ、川岸、誰かの顔。

 あたしはどこ? ここにいるあたしはだれ? いまはいつ? ラトリー? ラトリーってだれ……。

 なんだか冷たい。水? 男の匂い。タバコ臭い。お酒。灰皿。そういえば酒場に行きたかったな。ピコ。どこにいるんだろう。ねえ、あたしはどこにいるの?

 誰かが手を掴んでくれる。あたたかい、大きな手。がっしりした手。

 短刀。鞭。何かの壊れる音。人? あたたかい、生臭い匂い。靴音。金属音。眩しい。ぐらぐら頭が揺れる。気分悪い。誰か、水を。

 仕事。行かなきゃ。ああだめ、休みだ。フラッシュみたいに光る。なにこれ。

 大きな手。大きな……温かい手。誰の顔だろう。はちみつ色。おいしそう。ねえ、食べてもいい?

 なんかあたし、へん。いろんなことが、いろんなものが、一度に押し寄せてくる。楽しい。悲しい。愉快。不快。泣きながら笑いながら、……ううん、泣こうとしても笑おうとしても頬の筋肉が動かない。

 あたしこのまま死ぬの? ラトリー。

 定期券買わなきゃ。カバン、どうしたっけ。寒い。あったまりたい。寒い。寒い。寒い……。

 歯の根が合わない。げっ歯類みたい。カタカタ鳴らしながら。ネズミっていえば、さっきのは、ネズミじゃなかった。羽のある種族。魔法。口移し。黄緑色。お化け。瓶。

 誰かが耳元で叫んでる。でも聞こえない。ごめんね、プールに潜った時に聞こえる外の音みたい。くぐもって、聞こえない。

 映画。ああ、見たい映画あったのに。鏡。眩しい。暗い。なんにも見えなくなってきた。

 飲まされた薬、何だったっけ。

 プール、温泉。川の水。喉乾いた。眩しい。暗い。寒い……。

 鈴の音。ピコの音だ。

 意識が薄れる中で、鈴の音だけ、最後まで聞こえていた。

すみません、更新タイミングが以降毎日でなくなる可能性があります。

週一には更新したいと思っておりますが、それもお約束できません。

お仕事第一ですので(汗

どうぞご容赦くださいませ。


肝心のところで放置プレイはものすごーく心が痛むのですが(汗

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