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23.ドラジェの店

※20151206 改行位置修正

 ギルド長、ハーリ・ドラジェ氏の店が見える辺りまで案内してくれたイーリンに頭を下げると、イーリンは来た道を戻り始めた。

 ここに来るまでに何人かの町人とすれ違ったが、特に妙な動きは見られなかった。監視されている可能性をピコは口にしていたけど、そんな視線は感じない。

 気にしすぎよ。

 ドラジェ氏の店の前まで行くと、さすがにもう店は閉まっていた。ここはドラジェの店兼住宅だそうだ。商業ギルドの建物は別にあるらしい。

 あたしは裏に回って木戸を叩いた。

 夜も遅い。もしかすると誰もいないかもしれない。三回叩いて反応がなければ、明日の早朝にしよう。店なら朝のほうが都合良いかもしれない。

 三回目。

 反応がなくて踵を返そうとしたその時。

 木戸が開いた。誰何もなしに。

 中から出てきたのは、無愛想な痩せた老人だった。


「何の用かね。もう店は閉まっておるが」

「便利屋のサーヤと申します。ハーリ・ドラジェ様のお宅で間違いありませんでしょうか」


 カバンを小脇に抱えて、あたしは答えた。


「ん? 便利屋か。いかにもハーリ・ドラジェはわしじゃが」


 予想外の答えにあたしはちょっとだけ言葉を飲み込んだ。これほどの大きなお店だ。恰幅のいい主人の姿を予想していたのだけれど。


「手紙をお預かりして参りました。お受け取りを」


 カバンから手紙を取り出そうと手を突っ込むと、いきなり老人はあたしの腕をつかんだ。顔には柔和な笑みが浮かんでいる。


「とりあえず中に入ってくれんか。ここでは受け取れん」


 確かにもっともな話だ。が、できることなら手渡して即座に去ってしまいたい。


「いえ、しかし……」

「話は中でじゃ」


 くるりと背を向け、老人は木戸をくぐっていった。

 木戸はそのまま半開きになっている。

 仕方がない。

 木戸を押して、あたしは中へ入った。





 パタン、と木戸が閉じる。

 入ったすぐのところは倉庫のようで、土間になっていた。天井の高い倉庫を通り抜けた先に母屋があるのだろう。左手にある扉は店に直接出られるようだ。

 老人は倉庫の中程まで先に行ってしまっていた。

 歩み寄ってカバンから手紙を出して差し出すと、老人は手紙をひったくった。よほど待ち焦がれていたのだろう、荒々しく封蝋を開けている。

 仕事は終わりだ。あたしは中を引っ張りだそうとしている老人に頭を下げた。運んだ物の引き起こす結果まではあたしの仕事じゃない。


「では、失礼いたします」


 踵を返し、木戸に向かう。


「ちょっとまっててくれんか。便利屋さん。実はあんたに頼みたい仕事があるんじゃ」


 足を止める。今までもこんなパターンで次の仕事をオファーされることはあった。

 ラトリーが次の仕事を決めていることが多かったから、受けないことのほうが多かったと記憶している。

 だが、今回はラトリーはいない。次の仕事も決まってはいない。

 この町を出ればラトリーに再会できるとは思ってるけど、ラトリーが仕事を準備してくれてるとは限らないものね。

 それに今のあたしは一文無しだ。便利屋の仕事は前払いが原則。受けない理由はないわね。


「何でしょう」


 振り返る。


「しばらく……そうじゃな、二月ほどここにいてもらえんかの」


 老人の表情は無愛想なそれに戻っていた。

 身を翻して木戸に向かう――向かおうとしたはずだった。でも、足は一歩も動かない。足だけじゃない、腕も、口も、瞼でさえ動かせない。

 薬なんかじゃない。これは、魔法だ。

 ピコの言葉は的中した。というか、ピコ。あんたなんでこんなことまで知ってるわけ? 本当にただの治癒師? 絶対違うでしょう。

 参事会の役員から呼び出されるほどだもの。絶対違う。


「心配せんでもええ。わしも殺しは嫌いでの。それにあんたはそれなりに美人だし、殺すのは惜しい。二ヶ月大人しくしてくれたら、ちゃんと二ヶ月分の給料は払おうじゃないか。それとも、わしの愛人になるという道もあるがの」


 老人の口元は歪んでいた。いや、笑っていた。

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