22.商業ギルドへ
※20151206 改行位置修正
あたしは手を止めて、封筒の宛名を見つめた。
「じゃあ、当ててみて」
「その封蝋の色は珍しいからね。王都の商業連合からだろ。それでもサーヤに託したってことは、急いではいないけど機密性の高いものってことかな」
「便利屋を使う方が気密性が高いの?」
トリムーンには郵便制度はない。その代わり、都市や村をつなぐ辻馬車に荷物や手紙を預けることはよくある。機密性の高い物や手紙はこういう手段を取れないから、信頼の置ける人物に持たせて、傭兵を雇うのが一般的だ。
あたしが請け負うのは辻馬車ネットワークを使うといつ届くかわからない遠方への配達が多い。
「本当に大事なもので届ける期日が決まってるものなら腹心の部下に持たせて護衛を付けるのが普通だけど、期日がないものなら、便利屋を使うのも結構アリだよ。教会でもよく利用してるからね。サーヤの場合は召喚者だし、こっちにいない間の荷物は最も安全な状態でしょ?」
「確かにそうね。でも今回みたいに突発事故はあるし、荷物を紛失することだって……あるかもしれないわよ」
「そういう便利屋は淘汰されていくからねえ。サーヤはあるわけ? 荷物をなくしたこと」
「ないわよ。あたしは人の通らないルートを行くことが多いから、山賊に遭うこともなかったし」
その代わりにリュウに遭遇したわけだけど。
「だから機密性の高い手紙を託されたんだと思うよ。そういう情報は結構共有されてたりするからね。商業連合からってことはトリエンテの商業ギルド長宛、期日を指定しないけど機密性の高い手紙ってことは……結構ダークな手紙かもね」
「ダーク?」
意味わかんないわよ。
「トリエンテの商業ギルドのトップはねえ、王都に店を出したくて色々手を回してたからねえ。その関係の手紙だと思うけど。ま、運ぶだけの便利屋には関係ない話だけど、時々いるんだよね。その運び手まで始末しようとするのが。気をつけてね、サーヤ」
「わかった。忠告ありがとう。……多分当たりだと思うわ。トリエンテ商業ギルド ハーリ・ドラジェ宛」
「今から行くの?」
「ええ、仕事はとっとと終わらせる主義なの」
「そっか。……イーリン、道案内してくれる?」
「ピコ様?」
「え?」
あたしとメイドのセリフがかぶる。あわててあたしは手を振った。
「い、いいわよ。場所さえ教えてもらえば。というか、イーリンさんは教会の人間だってわかってるんでしょ? 一緒についてくるといろいろ面倒になると思うわよ。便利屋一人で動いたほうが助かることもあるし」
「でも、それを言うなら教会の裏口から出入りしてる便利屋ってだけでチェックはすでにされてると思うよ。教会の人間がついてったほうが、あちらとしても手を出しにくいだろうし」
「ピコ、それはありがたいけど……大丈夫よ。今までそんなことは一度もなかったし。手を借りるわけにはいかないわ」
それから、イーリンを見る。相変わらず冷めた目でこちらを見ている。うん、この人に取って大事なのはピコなのね。
「イーリンさん、っておっしゃいましたね。道順だけ、教えていただけますか?」
「サーヤ!」
「分かりました。ではご案内いたします」
イーリンさんが先を歩いて行く。あたしはピコに手を振って、木戸から出た。