20.手紙
※20151206 改行位置修正
教会を出ると、とたんに寒々しい風があたしを襲った。
教会の前にはもう誰もいない。階段に座り込んで、膝を抱え込むとうなだれた。
――なにやってんだろ、あたし。こんなところで、ピコにまで見透かされて。
もうため息しか出ない。
酒でも飲んで憂さ晴らししたいところだけど、お金は教会への寄付で全部置いてきた。
朝になるまでどこかで時間を潰さないと。
仕事もまだ終わってないし。酒場かどこかで情報を探すつもりだったけど、何も飲まないのに酒場には行けないわね。
「ラトリー……そこらへんにいるんでしょ」
反応はない。
こっちでまでひとりぼっちになるなんて。
一人でも大丈夫だと思ってた。
でも、違った。
いつもラトリーがそばにいたんだ。
だから……一人だってやっていけるって勘違いしてた。
ラトリーがいなけりゃ、あたしはこっちで生きていけないんだ。
便利屋の仕事もなにもかも全て失う。
現実よりひどい夢の国なんて……。
もういっそのこと、このまま空に飛んで行って、どこかに引きこもってしまおうか。それとも、もうこっちに来るのをやめてしまおうか。できるのなら。
あー、だめ。ヤケになってる。
現実から逃避するためにこっちに来てるんじゃない。あたしは――。
頭を振ってあたしは立ち上がった。
とにかく、この手紙を配達して仕事を終わらせよう。
カバンからあの手紙を取り出す。
宛名を確認して、あたしは息を呑んだ。
――ルージオとマーガレットの息子、ピコット。
後ろの扉を振り返る。
確か、ここに来る時にピコは聞いてた。手紙の宛先が教会の人かどうか。
たいていラトリーが宛先人のいる場所を教えてくれるから、宛先の人の名前なんてめったに気にかけることなかったけど。
「ピコ宛……?」
階段を上がり、扉の前に佇む。
さっきあんな啖呵きって出てきた手前、入るのはためらわれた。
それに、表の扉は夜は閉まってるって言ってた。
だとしたら、裏に回って見るしかない。
でも……。
あたしは手紙をカバンに戻した。
明日。明日、届けよう。裏からなら、もしかするとあのメイドさんが出てくれるかもしれない。
今日はこのまま、どこか落ち着ける場所を探して、朝を待とう。
願わくば、現実のあたしが早く目を覚ましてくれますように。