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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月21日(金)

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127.策略

うわーほぼ一か月ぶり、久しぶりになってしまいました。

ごめんなさーい(大汗

 パチッと火がはじける。


「あちこちに散らばっていた蛇をかき集めるのには少し苦労した。出発までに体裁整えてもぐりこめたのがここにいる面子ってことになる」

「……まさかお前以外の蛇までもぐりこんでいるとはな」


 火を背にして立つ三人に、ピコは眉根を寄せた。姿も声もルーのままだが、口調はピコのそれに戻っている。


「とにかく座れ」


 三人の間に引っ張り込まれ、ザジとともに火のそばに腰を下ろす。他の三人も元のように座り込んだ。


「なぜ三人……いや、四人も潜り込ませた」

「言っただろう? 俺が出る程度の事案だって」

「ああ」

「ドラジェが中央セントラルの商業組合に食い込もうとしてるのは上も把握してた。ただやり方があくどい上に狡猾でね。尻尾をつかませない」

「やり方って……何があった?」

「組合員が立て続けに抜けたんだ。理由が皆『自己都合』でね。あまりに続くものだから調査が入った」

「自己都合……?」

「本人や身内がひどい事故にあったり、命を落としたり。……商会自体がつぶされた例もあった」

「それ、すべてがドラジェの仕業だったのか?」


 しかしザジは首を横に振った。


「狡猾だっていったろ? 証拠を残さない。当事者を洗ってみてもドラジェにたどり着かないんだ。だから、一計を案じた」


 ザジの言葉にピコは目を見開いた。


「まさか、ドラジェの組合員推挙人……」

「なんだ、もう掴んでるのか。さすがだな」


 にやりと笑うザジに、ピコは口元を押える。


「ちなみに、身内に不幸があったのは組合員だけじゃない」

「何?」

「ドラジェが実は多数の貴族に融資をしていたのは知っていたか?」

「そうなのか?」

「ああ。……高位の貴族には相手にもされなかったろうが、食い詰めた下級貴族には有り難い存在だったろうよ。それを足掛かりに高位の貴族にも顔を売り込んだらしい」


 貴族も高位になればなるほど、裏黒い部分とは縁が深くなる。ドラジェのような裏社会にもつながる人間を利用したいと思う貴族も少なくなかったのだろう。


「だが推挙となると首を縦には振らなかった。そりゃそうだよな、ドラジェのような胡散臭い商人と懇意にしていることを公表するようなものだ。ドラジェと懇意にしていたいくつかの高位貴族の家は軒並み不幸な事故が起こっている」


 内容も聞きたいか? と聞かれてピコは逡巡したのち首を横に振った。

 どの家で何が起こったのかを把握するべきだろうとは思う。が、今の自分はそういう立場ではない。


「まあいい。そのうち報告書が回るだろうからよ。で、あまりに不審な事故が続いたことに疑問を持った国王陛下が動いた。これ以上の犠牲は出させないためにな」

「……そうですか」

「なあなあ」


 ふいに会話に割り込んできたのはグリードだった。


「ルーの恰好でその声出されると違和感ありありなんだけどさぁ。……どっちかにしねぇか?」


 ピコは覗き込んできたグリードを見る。その眼には以前見せていたような炎がないことを見て取ってため息をついた。

 蛇たちが自分のことをどこまで知っているのかわからないのに、姿をさらすわけにはいかない。


「……ここには男物の服がない」

「俺の服でよければ貸すぜ?」


 にやにやと笑うグリードに、ピコは眉根を寄せた。


「うるさい。……いつから知ってた?」

「え? 最初からに決まってんだろ?」

「な……」

「そりゃまあ、護衛対象の情報はきっちりもらうのは当たり前だし。白蛇からそう叩き込まれてるからな」


 白蛇、と呼ばれて隣のザジが顔をゆがめる。


「……お前が女の姿で参加するとは知らなかったんだよ。狼亭で合流するまでな」

「んで、白蛇が連れてきたのが女だからびっくりしたんだよ。まあ、いろいろ危なっかしかったから手ぇ回したりしたんだけどな」


 にやりとグリードは笑う。


「ラティーと二人組で動いてるっていうのは」

「あれは本当だよ、おねーさん」


 グリードの向こう側からラティーが顔をのぞかせた。


「こいつは若蛇の中でもとびぬけて優秀でね。経験豊富なグリードと組ませてるんだ」


 ラティーが優秀なのは目で見て知っているが、蛇の中でも優秀なら納得が行く。タンゲルがスカウトしたいとか言っていたな、


「じゃ、いろいろからかってたのか」

「そりゃ仕方ないだろ? 男所帯に女が一人。何もしなかったら変だからな。その代わりきっちり守ったろ?」

「それについては感謝しているが……」

「まあ、それなりに美味しい役だったからかまわねえよ」


 やっぱりにやっと笑うグリードに、ピコはため息をついた。

 中身が男だとわかっていたくせに、ずいぶん好き放題してくれたものだ。そもそもそういう忌避感はないのだろうか。


「中身が僕だと知っていて、気にならなかったのか?」

「んー、別に。実際に触ってみればちゃんと女の体だし、やわらけぇし。声もかわいかったしな」

「僕としてはどっちでもよかったかなー。おねーさんのほうが抱き心地はよさそうだけど」

「節操なしかよ……ウェインは?」


 グリードとラティーの答えに頭を抱え、反対側に座るもう一人の蛇を見ると、あまり表情を変えないウェインがほんの少し笑った。


「面白かった」


 二人の答えよりも、ウェインの答えのほうが心を抉る。


「それに、思ったよりいい奴だなと思った。……白蛇がわざわざ出張ってくるだけのことはあると思った」

「……っ」


 ピコは顔に血が上るのを自覚した。


「いや、だからルーの恰好でその表情するなっての。……襲うぞ」

「まったく、どこまで天然の誑しなんだか。……ピコ、服用意するから馬車で着替えてこい。ちゃんと男の姿でな」


 その姿のままだと調子が狂う、とかぶつぶつ言いながらザジは後ろに立っていた見張り役に指示を出し、ピコを立たせた。


「えーっ、おねーさんの姿、見納め? 王都までこのままで行こうよー」

「だめだ。それに向こうに着いてから着替えてる暇はないはずだからな」


 ザジに背中を押されて火の輪から離れる。

 馬車で装備をすべて外し、お仕着せのドレスも脱いで本来の姿に戻る。

 おそらくイーリンもキーファもここに来ているのだろう。妖精の切手に息を吹きかけて離すと、幌の隙間からするりと抜けていった。

 捕縛され、ここに移送される間もすべてを見ていたに違いない。

 襲われたふりをして隊から離れたザジたちを見ていたから、手を出さなかったのだ。

 すぐに緑の光が飛んできてはじける。案の定、それほど遠くないところにいるらしい。

 男の姿を纏い、ザジの服と装備を元のように身に着ける。ふわりと広がるうねる金の滝を手近にあった紐で束ねると、ラフィーネに着せられたドレスを近くの木箱の上にひっかけて馬車を降りた。

 男に戻るのは行方をくらましたサーヤを追うためにルーになって以来で、視点がいつもより高いのに少し戸惑う。

 近くで見張りに立っていた男は、ピコの姿をみて目を丸くしていた。


「……どっかで見たことある顔なんだけど……」

「そうか?」

「まあいいや」


 火のほうへ戻る男の背中を追う。おそらく見たことがあるのは治癒師としての自分だろう。

 蛇と自分の接点などありえない。

 火の輪に戻ると、ラティーががっかりした顔で盛大にため息をついた。

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