【逃亡編】11.薬師の庵
えー、またもやだだあま警報置いときます。
R15ぐらいでひとつ。
※20151206 改行位置修正
意識が浮上してくる。
それとともに目尻から涙が溢れるのを感じた。
「サーヤ」
耳の後ろで囁く声。優しく髪を撫でる手。
「リュウ……」
薄目を開けると、白いシーツが見える。後ろから肩にかかってたリュウの手に力が入ってころりと寝返りを打つと、すぐ近くに彼の顔があった。
「どうした、泣いたのか?」
涙の後を親指が拭っていき、優しく唇を啄まれた。
「あの子が……ようやく見つけたの」
「……現実の君かい?」
不思議そうに首を傾げるリュウに、あたしはしがみついた。
「そう」
「何を見つけたんだい?」
「運命の相手よ。……きっともう大丈夫」
額に、頭のてっぺんにキスが降りてくる。
「運命の相手、か。……考えたことなかったな。でも、君と出会えたこと、君とこうしていられるのは運命だと思う」
リュウの言葉にあたしは息を呑んだ。……言わなければならない秘密。
あたしは上体を起こした。こんな……ベッドの中で寝起きにするような話じゃない。でも、今言わなきゃ、きっとあたしは二度と言えなくなってしまう。そんな予感があった。
「あのね、リュウ」
「ん?」
リュウはこれから寝るところなのだろう。ベッドから起き上がったあたしをくいくいと引っ張ってベッドに潜り込もうとする。
「あたし、リュウに……運命の相手に出会えて、本当に嬉しいの」
「うん? ありがとう。俺もだ」
あたしの発言の真意は伝わってないのだろう。困ったように返事をくれる。あたしは八の字に眉をしながら言葉を続ける。
「リュウ、あたしね……運命の相手を見分けることができるの。――キス一つで」
リュウの反応を見るのが怖くて、あたしは目を閉じた。
「現実のあたしもそう。……だから、あなたに惹かれていくのがとても怖かったの。またキスで失うんじゃないかと思って。……そしてあなたを愛しているのは、運命の人だからなのか、そうでないのかわからなくなると思って」
沈黙が続く。リュウの視線をバシバシに感じながら、でもあたしは目を開けることが出来ない。――彼の目に浮かんでいる色が何なのか、知りたくない。見たらきっと……あたしは立ち上がれなくなる。
「でも……キスをする前からあなたを好きになってた。信じてもらえないかもしれないけど、キスで運命の相手だと知る前から、あなたが好き」
ぽろりと涙が落ちた。
涙を拭い、リュウの方をゆっくり向いて目を開ける。
リュウも上体を起こしてすぐ近くに座っていた。その目はまっすぐあたしを見ている。眉は逆八の字……怒ってる?
やっぱりそうよね……。
見ていられなくなって目を伏せ、顔をそむけると、不意に腕を掴まれて引っ張られた。
「やっ……!」
倒れかけたあたしの体はリュウの腕に抱え込まれて、噛みつくように唇を塞がれてた。
息継ぎもできないくらい深く貪られて、唇が離れた時には彼の腕の中に抱え込まれて、息を吐くのが精一杯だ。
「そんなの……気にすると思ったか?」
すぐ近くで彼の声がする。
「お前は俺が定めた番だ。……お前が嫌だと言っても手放しはしない」
「つ、番って……」
「俺の本来の姿は猿猴だ。忘れたか?」
はっと思い出して顔を上げると、リュウはにやりと笑った。
「森に戻ったら覚悟しとけよ」
「やっ……」
横抱きにされたまま、また唇を塞がれた。言いかけた言葉が彼の口に消えていく。
『猿猴は女好き。手当り次第に女を孕ませる』
不意に猿猴のうわさ話を思い出してあたしは口元をゆるめた。リュウに限っていえばきっと違う。
快感に引きずられながら、あたしは手を伸ばしてリュウの首に抱きついた。
ヴェラが準備してくれた家はこじんまりとしてはいたが綺麗に片付けられ、必要な生活用の器具はほぼ揃っているようだった。かまどもあるし、近くに井戸もある。料理も自分でできる。寝室は一つだけだが、ベッドは二人で十分寝られるダブルベッド。ヴェラのはからいなのか、リュウの依頼なのかは分からないが、今日からゆっくり寝られそうだ。
「馬車の荷物は向かいの庵に全部運び込んだ。明日荷解きするから触るなよ」
「うん、わかった。……リュウ、体はもう大丈夫なの?」
あたしの膝を枕代わりにしてるリュウの髪を手で梳りながら聞くと、リュウはくるりと寝返りを打ち、あたしのお腹に顔をぺったりくっつけ、腰に腕を巻きつけた。
「もう少しかな。今日はそれでもかなり動けたほうだ。……昨日はまだ満足に動けなかったからな」
リュウの吐息がお腹にかかって暖かくてくすぐったい。
「そう……もう少しかぁ」
「どうした?」
ちらりと視線だけあたしの方に向けるリュウに、あたしはうなずいてみせた。
「うん……ねえ、あたしたち、しばらくここに留まることになるのかな?」
「さあ、どうだかな。ピコの依頼分は片付けるつもりだが、じき森に戻らなければならなくなる」
そうだ。今の試練だけじゃない。森を出たことへの罰として、今の姿になっているんだっけ。
「こんなところに猿猴が出没したら困るだろ?」
「……そうね。ねえ、試練が終わったら自分の意志で姿を切り替えたり、森を出られたりするようになるの?」
しかしリュウは眉をひそめたのみで返事がない。
「リュウ?」
「……正直わからん。だが、俺は猿猴としてこっちの世界に来た。それ以外の姿はやっぱりペナルティだと思ってしまうんだ。もちろん、こうやってお前と人の姿で触れ合えるのは嬉しいし、お前にも負担をかけずに済むだろう。……でも」
「わかった」
それ以上言いそうなリュウの唇を人差し指で封じて、あたしは艷やかな青銀の髪に唇を寄せた。ちょっと苦しい態勢だけど。
「じゃあ、やっぱり森に戻ってからにしようかな……」
「……やっぱりこんな貧弱な姿の俺じゃだめか?」
がっかりしたような声。リュウの言ってる内容を理解するのに数秒かかったのはあたしのせいじゃないわよね?
ぱーっと顔に血が昇っていくのが分かる。
「なっ……なに言って……」
むくっと体を起こして、リュウはベッドを降りようとする。あわてて腕を組んで引き止めたけど、すごい力で振りほどこうとするのはなんなのよっ。
「ちょ、ちょっとまってよっ、あたし何も言ってないっ! 今のリュウだって十分素敵だって! ……じゃなくて、試練を受けるタイミングのことだってばっ!」
リュウの体から力が抜ける。
「……本当に?」
「本当だって。嘘ついたって意味ないもの。……リュウのを見てたから分かる。試練が始まったらきっと何にもできなくなって、リュウに迷惑かけちゃう。だから……せめてリュウの負担が少ない森に帰ってからのほうがいいのかなって……リュウ? ……んんっ!」
リュウの腕を引っ張ったまま話を続けてたら、いきなりまた唇奪われた。キス魔かっ!
「……じゃあ、今食べていいか?」
見上げたリュウの瞳には情欲がありありと浮かんでいる。
「ちょ……あっ!」
試練で体が辛いとか、一日働いてしんどいとか、そういうのはどこ行ったのよっ!
現実の彩子がなんとかイキナリそーゆーことになるのを無事回避したってのに。
……ぺろりと美味しく食べられちゃいました。
んー、美味しく食べられたあたりはいずれR18の方で書くかも知れません。
なろうでは朝チュンが限度ギリギリです(汗
幸い現在のリュウは猿猴ではないので無限の体力はない……はずです、ハイ(汗




