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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月17日(月)

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【逃亡編】9.隠れ里へ

※20151206 改行位置修正

 ヴェラに前を走ってもらい、あたしは馬車を走らせた。後ろにはヴォルフが馬を走らせてる。

 ヴェラの話だと、ビリオラは半日走れば着くところまでには来てたらしい。でも、ヴェラの村へ行く道は少し戻らなきゃならないそうで、昨日来た道を逆走している。

 一刻ほど走っただろうか、とある場所でヴェラは馬を止めた。

 何の変哲もない街道の途中。左右はずっと低木が並んでいて、印のようなものもないし道標もない。


「ここ? 何もありませんよね?」


 そう言うとヴェラはにやっと笑った。


「そう。あたしの村は入れる者にしか道を開かないんだ。だから変な輩は紛れ込まない」


 なるほど、目くらましかなにかがかけられているんだろう。

 そこを無事通り抜けるには何らかの条件が必要、というやつだ。

 リュウが横にいればいろいろ質問攻めにしたいところだけど、リュウは後ろで眠ってもらっている。


「じゃあ、入るよ。大丈夫、あたしについて来な」


 どう見ても木にぶつかるしかないコースに、ヴェラは馬を乗り入れた。木にかぶってヴェラの姿が見える。

 躊躇してるのが分かるのだろう。後ろのヴォルフが蹄を鳴らしている。

 待ってる場合じゃない。ヴェラを信じなきゃ。それに薬を待ってる人がいるんだから。

 ぎゅっと目をつむったまま、あたしは馬車を乗り入れた。


 ……少しの衝撃も来なかった。


 するりと抜けたあたしは目を見張った。月明かりの下、木々にダブって見えていたヴェラの姿がはっきり見え、ちゃんと整備された道が見えたのだ。


「これ……」


 それほど広くない道幅ではあるけれど、所々に待避所が作ってある。前から他の馬車が来たらそこですれ違うんだろう。


「そ、隠れ里への道さ」


 ヴェラは自慢げに言う。うん、ちょっとびっくりした。それより。


「隠れ里?」

「ああ、悪意ある者を寄せ付けないように、場所も行き方も秘してるから隠れ里っていうんだ。まあ、来てみれば分かるよ。皆、いろいろ事情を抱えててね。逃げてきた子ばかりなんだ」


 なんとなく事情が分かった。たとえばDVから逃げてきた奥さんとか、誰かから狙われてる子とか、そんな感じなんだろう。


「あのドラジェに睨まれた子なんか、何度さらわれかけたか。結局坊やが助けて、うちに預けてったんだ」


 う……それってばっちり当てはまりますけど、あたし。というか、ピコってやっぱり何者だろう。


「さ、行くよ。もう里にはあたしらが来たことは伝わってる」


 あたしは素直にうなずいた。





 それから一刻以上走っただろうか。もっと走っただろうか。

 深々と更ける夜の中を、あたしたちは走っていた。

 道はできているとはいえ、山道でぐねぐねしているからあまりスピードは出せない。馬だけならあっという間なんだろうけど、馬車で無理やりスピードを上げると、馬車そのものが壊れてしまいそうだ。

 馬車が壊れて、積んでいる荷物が壊れてしまったら……せっかく村に着いても意味がないことになってしまう。

 そうでなくとも、リュウがきっちり箱詰めした道具たちは壊れやすいというのに。

 途中、待避所があるところで休憩させてもらった。荷台に移動すると、リュウはまだ怠そうにしてはいたものの、熱の方はもうほとんど平熱になっていた。

 御者台に出ると言い張るリュウをなんとか言いくるめて、あたしは再び馬車を走らせ始めた。

 小さな丘を迂回して、山際を通ったあたりで、眼下が突然開けた。森を抜け、山を抜け、出たところには月の光に浮かぶ田舎の風景が広がっていた。

 青い月の光を受ける、青々と作物の成る畑に囲まれた石造りの堅牢な街。

 それが第一印象だった。


「すごい……きれい」


 馬車を止めたのに気がついたのだろう、リュウも荷台から顔を出した。


「そうだろう、これがわたしの村だ」


 ヴェラが馬を寄せてきた。リュウはそのまま御者台に登り、街を眺めている。


「リュウ」

「大丈夫だ。……それにしても見事な砦だな」

「砦?」


 そんな視点で見てなかったあたしは首を傾げる。ヴェラはなおも嬉しそうに頷いた。


「そこに気がついてくれるとは、嬉しいねえ。そう、万が一ここの場所がバレた場合でも、村人全員が逃げおおせるだけの時間を稼げるように作ってある。ま、そんなことは万が一にもないけどさ、念のためにね」

「リュウ、そうなの?」

「ああ、街の周りの堀と突堤が二重に巡らせてある。街中は攻めにくいように道が全てジグザグで広さも狭い。戦馬車などで攻められないように門も小さくしてあるな。裏手の山に水路が引いてあるから、場合によっては水攻めもできるようになってるっぽいし。街を囲む高い塀は登りにくく作ってある。よくここまで考えて作ったものだ」


 リュウの言葉にあたしはびっくりする。城の堅牢な作りはともかく、リュウがそういう知識を持ってることにもびっくりした。


「まあ、これも召喚者ドリーマーの卓越した知識を導入した結果なんだけどね。街中が迷路みたいになってるおかげで、道に迷うのが難点だな」


 からからとヴェラは笑った。


「さ、入ろう。入ってすぐのところにちょっとした広場があるんだ。夜も更けた時間だから子どもたちは寝てるだろうが、君たちを歓迎しに皆集まっているだろう」


 ヴェラはそう言い、馬を進めた。あたしも馬車の手綱を握った。

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