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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月16日(日)

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【逃亡編】8.ヴェラとくるみパン

※20151206 改行位置修正

 目を開けると三つの月が見えた。いつもの空だ。幌に隠れてない全天の空。


「目ぇ、覚めたかい?」


 空を切り取るように、金髪の顔が見えた。

 眠る前のことを思い出す。確か、ヴェラさんって言ったっけ。


「あの……リュウは?」


 起き上がろうと手をついて、柔らかな感触に気がつく。見れば赤い地厚の布が広げられていて、その上にあたしは寝転んでるらしい。


「ああ、彼ならまだ馬車の中だ。起こして来ようか?」

「いえ、あの、大丈夫です。自分で行きますから」


 起き上がり、布を拾い上げるとすっと横から手が伸びて布を取り上げた。

 顔を上げると、銀髪の男性が立っていた。


「あ、すみません、ありがとうございます……」


 なんて言ったっけ。ヴォルフさんだっけ?

 名前を思い出してる間に男性は布についた土を払い、肩に纏い直した。マントだったんだ……。


「そういやあんた、召喚者ドリーマーだったんだねぇ。さすがにびっくりしたよ」


 消える直前の記憶が戻ってくる。


「はい、その話をする前に時間が来てしまって……すみません」

「ああ、いいよいいよ。気にしないでおくれ。じゃ、リュウを呼んできてくれるかい? 揃ってから話をしよう」


 促されて、あたしは馬車に戻った。

 幌を開けると、リュウは上半身を起こしたところだった。


「リュウ? 大丈夫?」


 乗り込んで彼の額に手を当てる。昨日よりは熱も下がってきている。


「ああ、かなり良くなった」


 動くのはまだぎこちない。体のあちこちが痛むんだろう。長く御者台に座れるようには思えない。


「外でヴェラさんたちが待ってるって」

「分かった」


 立ち上がるのを手伝って、あたしたちは馬車を出た。





「来たか。待ってたよ」

「ごめんなさい、おまたせしました」


 リュウとあたしが馬車の外に出ると、ヴェラとヴォルフも近くにやってきた。


「えーと、消える前の話は覚えてるかい?」


 ヴェラの言葉にあたしはうなずいた。


「はい、病気で苦しんでいる人がいて、そのために薬師としてリュウに来て欲しいってことですよね。ピコからあたしたち二人の保護も頼まれてる。……そこまであってますか?」


 あたしの言葉にヴェラがうなずく。


「よかった、覚えてるみたいだね。じゃ、早速移動しようか。……ああ、そうだ」


 ヴェラは振り向くと懐から何かの包みを取り出した。


「え?」

「食料、足りてないんじゃないかと思ってさ。硬いパンで悪いけど」


 受け取った包みを開けると丸パンが二つ入ってる。


「ありがとうございます。実はもうパンとチーズしかなくて」

「ああ、やっぱり。それ、食べてからでもいいよ。何なら湯でも沸かそうか? スープはないけど暖かいお茶ぐらいならいれられるよ」

「本当に? お願いしてもいいですか?」

「任しといて」


 ヴェラはにやっと笑い、テキパキと湯の準備を始めた。


「リュウはそこに座ってくれる?」


 草の上にリュウを座らせ、あたしは馬車に取って返してナイフを持ち出した。もらった丸パンをナイフで薄く切ると、中には木の実が練りこんである。

 小さく切って口に入れる。コリコリした木の実は多分クルミだ。他にも小さな木の実が入ってる。


「おいしい。こんな美味しいパン、こっちで食べられるなんて思わなかった」


 微笑んでヴェラに言うと、ヴェラは嬉しそうに微笑んだ。


「そうだろ? うちの村にゃ腕のいいパン職人がいるんでね、美味しいパンにありつけるんだ。森や山の恵みのおかげもあるし、いい村だよ」

「楽しみです」


 ヴェラのいれてくれたお茶は本当に美味しかった。


「このお茶も美味い。これはどこの茶だ?」

「これは薬茶だ。村の外れで取れる薬草を使ってるんだよ。あんたなら興味を持つと思ってたよ」


 にやり、とヴェラが笑う。リュウは頷きながら茶をすすっている。


「そうそう、サーヤ。あんたの話も楽しみにしてるんだよ」

「え?」

「あんたの住む『向こうの世界』の話、村に着いたら聞かせちゃくれないかい?」


 あたしは目を見開いた。リュウを振り向いたけど、彼はお茶に興味を惹かれて気がついてない。

 召喚者の住む向こうの世界の話、なんてしていいのかしら。召喚者同士で話すのはきっと問題ない、と思ってたけど、それをこっちの人にするのって、どうなんだろう。

 あたしの回答を待たずに、ヴェラは言葉を継いだ。


「心配しなくていいよ。うちの村には召喚者ドリーマーは結構多いんだ。そのパンを作ってる子もそうさ」

「えっ」


 手の中のパンをじっと見る。確かに、他で手に入れたパンと比べると明らかに味が違う。現実で食べるくるみパンそのものの味だもの。


「だから、安心して来な。あんたたちはあたしが守るからね」


 ヴェラの自信たっぷりの笑みに、あたしは思わず「よろしくお願いします」と頭を下げた。

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