100.男と女
※若干、女性に対する強引な性交渉についての記述が入ります。過去の話ではありますが、気分を害される方もいらっしゃるかと思います。飛ばしてお読みください。
※20151206 改行位置修正
持ち場に着くとすぐ横がグリードだった。反対側がザジ。ルーは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「ほんと、過保護だねえ、あんたたち」
篝火の下に寄ってきた二人にルーは呆れたように言った。
「馬鹿って言ってもいいレベルだよな」
グリードがザジを指して言うと、
「そりゃお前の方だろ。お人好し」
とザジが返す。まるで昔からの知り合いのようだ。
「あのさ、聞きたいんだけど、あんたたち知り合い?」
「え?」
「まさか」
「……だよねえ」
――それにしてはボクに対する保護意識、高いんじゃない? ザジはともかくとして。
「でも、ありがと。グリードがあの賭けをふっかけてくれたおかげで、とりあえずのところは身の安全が確保できそうだよ」
そういって笑うと、グリードはふん、と鼻で笑った。
「当たり前だ。――人が寝てる横でアンアン言われちゃ身がもたねえっての」
「ア……」
あけすけな物言いに、ルーは呆れて言葉を失う。
「経験があるのか?」
ザジの問いにグリードは首の後ろに手をやり、ため息をついた。
「ああ、昔な。……男二十人に女一人。今回と逆で王都からの遠征でな。街から離れるにしたがって女の様子がおかしくなってな。ある時、天幕の中でヤってんのに遭遇したんだよ」
ルーは唇を噛む。
「俺がまだ駆け出しの頃でな。そういうのを知らなかったんだ。だからてっきりそいつと恋仲なんだろう程度に思ってたんだ」
「……青いな」
ザジの煽りにグリードはぎろっと目玉を動かす。
「うるせぇな。昔だって言ったろ? ……そのあと、どんどん女の様子がおかしくなってな。体がガタガタに壊れてたっていうのが正しいのかもしれねえ。夜警に立った時、人影のないところでそいつが別の男に襲われてるのに遭遇しちまってよ。その時に『コイツは単なる性欲処理係』だって聞いて初めて知った」
「……ひどい」
眉根を寄せる。正直話を聞いてるだけでも吐き気がする。
「ああ。……その時は男ぶん殴って助けたんだがな。本人連れて逃げようとしたら拒まれた。これが仕事だって言ってな」
吐き捨てるようなグリードの言葉に、ザジも眉を寄せて口を閉じた。
「輪姦されてようと和姦だとか主張してる奴ら全員ぶん殴ったこともある。でも結局、女は逃げなかった。その分金もらってるとか殊勝に笑ってな」
静かな怒りが立ち上ってるのをルーは感じ取った。昔のことだけど、いまだに彼はその時の自分を許してないんだ。
「そんなことするぐれぇなら、最初から娼婦連れて行きゃいいんだよ。なんで、普通の便利屋や腕の立つ傭兵にそれを強要すんのか、俺にはわからねえ。……その女も腕のいい傭兵だったのに、その後腰を悪くして引退したって聞いた。それって人材の無駄遣いって言わねえか?」
ルーは地面を睨みつけながら、ちいさくうなずく。
今回だってそうだ。もしドラジェがそれを狙ってたのなら、ルーではなく、お客人として娼婦を一人連れ歩けばいい。
――まあ、今回に限って言えば、サーヤを探すのに女の姿で潜り込んで、そのまま王都行きに加えてもらったから、女だからと断られてたらその時点で目論見が外れてたわけなんだけど。
「勘違いすんな、お前のためにしてるわけじゃねえ。……どうせもう少し進めば娼婦のいる街にたどり着くんだ。お前で我慢しなくてもいいしな」
湿っぽい雰囲気は嫌いなのだろう。グリードはそう言い、にやっと笑った。
「ま、あんたも参加したことだし、ゲームは公平にいこうや。ちなみに、今んとこ俺以外はノーポイントだ」
「俺以外?」
ザジの声が怒りを含んでるのが分かる。
「ああ、最初に唇奪ったのは俺……っ」
綺麗にザジの右フックが入ってグリードがふっ飛ばされた。
「……人の女に手を出すからだ」
「ってぇ……あんたもゲームに参加したんだからルールは守ってくれよな。今のこいつは誰の女でもねえ」
顎を押さえながらグリードは立ち上がった。大したダメージは入っていないらしい。
「他の男の邪魔をしてはいけないっていうルールはなかったはずだが?」
ザジのあざ笑う声に、グリードは舌打ちした。
「気が付きやがったか」
「当たり前だ」
「とりあえず」
ルーは二人の間に割って入った。このまま放っといたら朝まで言葉の応酬が続きそうだ。
「仕事に戻らない? ここに集まってちゃ警備、手薄になるし」
その言葉に二人はにらみ合いをつづけながらも自分の持ち場に戻っていった。
今日は特に監視が強くなるだろう。ザジだけならともかく、グリードが隣にいる状態ではイーリンたちの報告も受け取れないし、王都やオードへの指示も出せない。
……参ったな。
明日の夜はまた野営に戻る。そこで機会を待つしかなさそうだ。
空を見上げてルーはため息をついた。




