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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月16日(日)

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【逃亡編】6.遭遇

本日、二話更新予定です。

サーヤとリュウの話です。

※20151206 改行位置修正

 逃亡生活も五日目だ。食料はいよいよ乏しくなってきた。あたしはまだいい。こっちにいられるのは日が落ちて日が昇るまでの時間だから。

 でもリュウはちゃんと食べないと……。熱を出してから食も細くなって頬がこけてきた。

 今日は確か現実では日曜日のはずだ。このまま一日寝ててくれれば走り続けられるけれど、途中で目覚めたら……御者を失った馬車がどうなるか怖くて試せない。

 夜中にいきなり彩子あのこが起きたらどうしよう、と思いながらここまで走ってきたのも事実だ。幸い、彩子あのこは寝付きがよく、一度寝たら朝まで起きない質だから助かってる。

 空が白んできて、そろそろ馬車を止める場所を探さねばと馬車の速度を落とす。

 この辺りまで来ると低木が増えて来た。ビリオラは豊かな森の恵みに囲まれた街なのかな。

 そういう街は少なくない。森を切り開くことで街を広くすることもできるし、木を利用することもできる。水場も多い。

 もう少し森の奥なら果物の木も見つかりそうなんだけどな……。

 水の匂いがして、馬車を止める。街道から少し離れたところに開けた場所を見つけてそちらに馬車を乗り入れる。

 馬を放してから幌を開ける。

 リュウはうめき声も上げず、静かに寝息を立てていた。熱はまだ下がらないけど、今までのような痛みはずいぶん減ったみたい。

 額のタオルを取り替えて、ついでに顔と首周りを拭う。伸びっぱなしのヒゲの手触りが昨日より柔らかい。

 ちょっと悪戯心が起きてヒゲ部分にキスを落とす。意外と気持ちがよかった。


「……サーヤ、何してるんだ」


 慌てて身を離す。バッチリ目があって、慌ててそっぽを向いた。……なんかものすごく恥ずかしい。リアルな自分の年齢を考えた途端にぱーっと顔が火照った。


 ……いい年して何やってんだろ、あたし。


「ご、ごめん。よく寝てたからつい……」

「いや……その」


 半身を起こしたリュウは言葉をつまらせてる。


「……水、くれないか」

「あ。はい」


 水筒を取り上げたが中は軽かった。奥の水袋から中身を移してリュウに渡す。

 ついでにリュウの食事を準備しに奥へ入る。あと二日のうちにはビリオラに入れるはず。堅パンの在庫を探しに箱の山に足を踏み入れた時だった。

 外でなにか音がする。……これは、馬の鳴き声?

 馬たちは木に繋いである。よほどのことがなければ暴れることはないし、こんな鳴き声を上げるなんて……。

 はっと気がついてあたしは箱の山から飛び出してリュウのところに戻った。

 リュウも立ち上がり、周りを警戒しているのがわかる。


「盗賊の類かも知れない。……棒と短剣を持ってきて」


 うなずいて静かに荷物の山に戻る。身を守る武器は山積みの箱ではなく、取りやすい位置にくくりつけてある。

 リュウに二つを渡し、自分の短剣を手に取る。短剣というよりは作業用ナイフだ。弓矢があればよかったのに。

 今まで、便利屋として危険なシーンに遭遇することは少なくはなかった。でも、なんとか切り抜けて来られたのはラトリーがいてくれたおかげ。だからあたしは、短剣を持ったことがない。振り回したことも、ない。

 でも、それじゃダメなんだ。

 どれだけ今までラトリーやピコ、リュウに守られてきたのか、今初めて自覚した。

 あの幌馬車から自力で脱出できなかった。ピコとリュウがいなかったら、今頃はどこでどうしているかわかったもんじゃない。


 ……今のリュウは番人じゃない。普通の人で、しかも病人だ。でも、あたしよりは体力も腕力もあって、あたしを守ろうとするだろう。それこそ……命をかけてでも。


 それじゃだめ。

 守られてばかりでいいはずはない。あたしだって、リュウを守りたい。


「サーヤは奥に隠れてろ。それにもうすぐ時間だろ? 向こうに戻れ」

「それは……いや」


 眉をひそめてリュウはちらりとこっちを睨む。


「……足手まといだ」


 その言葉に息が詰まった。……言われてしまった。便利屋として長くやってきた。危険な経験がないわけじゃない。そう、言い返そうとしたのに。

 いきなりばさっと幌が荒々しく開かれた。


「おんや、おじゃまだったかねぇ?」


 どかっと足を踏み入れてきたのは、リュウよりも背の高い人間だった。

 左手で幌をめくりあげ、右手には反り返った長剣を握っている。足元はサンダルではなく防寒用らしいブーツ。革をつなぎ合わせた鎧で膝上から肩口まで覆われ、二の腕のたくましい筋肉が見える。


 ――そして、ゆるいウェーブの掛かった金髪に縁取られた顔は日に焼けて小麦色の……鼻筋の通った緑色の瞳をした女の顔だった。

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