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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月16日(日)

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98.目覚めたルー

※20151206 改行位置修正

 誰かの声で意識が浮上する。

 柔らかく暖かな寝床。周りが明るい。馬車の中じゃない。

 ルーは目を開けた。空はもう白んでいる。

 外にいることを認識して慌てて体を起こした。


 ――寝ずの番なのにぐっすり寝たなんて、最悪だ。


「おはよう、ルー。よく眠れたか」


 上から声が降ってきて振り向く。


「……ザジ?」


 ――何があった? 夕べ。


「ここは……?」

「騎馬隊の野営地だ」


 周りを確認すると確かに騎馬隊の天幕のそばだ。

 夕べこっちの警護を言い渡されたのは覚えている。襲ってきたケインをノックアウトしたのも。そのあと、タンゲルと話をしていて……。


「水……」

「はいどうぞ」


 そのつぶやきを勘違いしたのかザジがコップを差し出してくる。

 夕べの記憶が重なった。


「……薬を入れたの、お前か?」


 ルー=ピコは声を作るのも忘れてつぶやいた。


「ああでもしないとまともに眠らないだろ? お前」

「余計なことするなよっ!」


 思わず大声になった。


「……ピコの声になってるぞ」


 ルーは眉を寄せ、唇を噛む。ザジはため息をついた。


「お前の意思を確認しなくて悪かったよ。でもお前、あのままじゃいずれぶっ倒れてた。そうでなくとも客人への配膳役に料理当番もこなして、寝てる時間ねえだろ。夜警は俺に任して夜は寝ろ」

「……そういうわけにはいかない。それじゃ賭けにならない」

「どこまで付き合うつもりか知らないが、程々にしとけ。これじゃ潜り込んでる意味、ねぇだろが」

「……ボクが本当に女だったら楽だったのにね」


 苦々しく言い放ったルーに、ザジはげんこつを落とした。


「いてっ! なにするんだよっ」

「そして全員に抱かれたかったのか? ……軽蔑するぞ」


 冷たい視線に刺されてルーはうつむく。


「お前、何のためにここにいるのか、忘れちゃいないか? ……俺がなんでここにいるのかも」


 ルーは答えない。ザジはため息をもう一つおとし、ルーの頭に手を置いた。


「俺を使え。そのためにここにいるんだぞ?」

「ザジ」

「それと……ついてきてる奴らもな。お前の子飼いだろう?」


 ぱっとルーは顔を上げた。その細い眉が寄せられている。


「気が付かないとでも思ったか? 赤の女王だろう? 夕べお前に薬を盛った時に殺気を感じたよ」

「……それは赤の女王じゃない。――彼女なら殺気を感じさせずに殺す」

「じゃあ、お前が言ってた玩具の方か。拙いな」

「キミに敵う奴がいるわけないだろう? 『蛇』」


 言われてザジは口元を歪めた。


「赤の女王は例外だろうけどな。……タンゲルには話を通してある。お前が夜に立つ間、俺もこっちでお前を警護する」

「……過保護だな」

「当たり前だろ。もともとお前は守られる側の人間だろ。お前に何かあったら俺もコレなんだからな」


 首のあたりをすっと手で撫でる。ルーはうなだれた。


「そうだよな……。悪かった。でも、ボクが頼むまでは今までと同じようにさせてくれ」

「分かった。起きるか?」


 手を差し伸べてくる。ルーは素直に手を借りて起き上がった。





 自分の持ち場に戻ると、篝火はあかあかと燃えていた。誰かが火を継いでくれたに違いない。


「こんな早い時間に起きてきたのか?」


 後ろから声をかけられて振り向く。


「グリード?! なんでここに?」


 にやにや笑いを浮かべたまま、グリードは篝火に近寄った。


「タンゲルからの指示だ。お前が体調を崩して寝込んでるって聞いたから、代わりにこっちに来た。向こうはラティーに頼んだ」

「そうなんだ……ごめんね」

「いや。お前こそ、もう起きて大丈夫なのか?」

「うん、おかげでよく眠れた」

「みたいだな。目の下のクマが消えてる」


 手が伸びてきて、目の下にごつごつした手が当たる。グリードにまでバレてたのだ。


「……そんなに目立ってた?」

「お前、もともとが色白いからな。すぐ分かる。しんどかったらすぐ言えよ。今日みたいにゆっくり寝られるようにしてやるからよ」

「ん、ありがと。……悔しいなぁ」


 目を伏せると、ぐいと腰を引かれてグリードの腕に引っ張り込まれる。後ろから覆いかぶさるようにして抱きしめられた。


「何が?」


 耳元で囁かれる。吐息がくすぐったい。


「足手まといにならない程度には動けると思ってたんだけどね」

「連日夜警なんかするからだろ。……まあ、普通にしてても寝れないだろうけど」

「三日連続徹夜ぐらい平気だったんだけどな」

「馬車で揺られるのと家でじっとしてるのとじゃ違うだろーよ」

「そうね」


 日が昇ってきて、あたりに光が満ちてくる。

 夜警は終わりだ。ルーはグリードの方を向くと体を離した。


「じゃあ、向こうに戻るわね」

「そういや昨日の礼、もらってねーな」


 くいと引っ張られて、唇を塞がれる。ルーは抵抗しなかった。

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