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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月15日(土)

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97.眠るルー

※20151206 改行位置修正

 足元に転がるルーの体を一瞥して、ザジは肩をすくめた。


「あんたの差し出す水なら何の疑いもなく飲むんだな、こいつは」


 その言葉には嫉妬が混じっていることを、言ったあとでザジは自覚した。


「……あっさり飲んでくれて助かった。これでよかったんだな?」


 ルーにかがみ込んでいたタンゲルは、じろりとザジを睨め上げた。


「ああ。ここ二日、まともに寝てないはずだ。……男の中に女一人。覚悟はしてたと言ってたけど、まさかずっと寝ずの番をするとはね」


 ザジも膝をつき、眠り込んだルーを抱き起こす。即効性の薬はよく効いたようだ。ぴくりとも動かない。


「しばらく俺もこっちの担当にしてくれ。少なくとも街で泊まれるようになるまでは」

「お前もずっと寝ずの番に?」


 タンゲルは目を眇める。ザジはうなずいた。


「俺がこっちで当番してる間、眠るルーの見張りをする。そうでなくとも他のやつに比べて体力ないってのに……」

「そうそうないとは思うが、夜襲に遭った時にはそのほうが危険だぞ?」

「わかってる」


 ザジは唇を噛む。

 こんな形で、薬で眠らせるのは本意じゃない。ちゃんとルーに話を通して、夜安心して眠ってもらうのが一番いい。でなければ……タンゲルの言うとおり、何かが起こった時に自分の身を守れなくなってしまう。

 ルーの口ぶりからすると、影からルーを守る存在が今回の王都行きにはあるように思っている。

 もともと赤の女王を王都行きに同行させろといったのはザジだ。

 ルーが薬で倒れた時点でそいつが出てきてもおかしくなかった。


 ……なのに、出て来なかった。


 ザジがそばにいるから安心だと思っているのだろうか。もしくは、命の危険がない限りは手出し無用といわれているか、だ。


「あんたはもう天幕に戻ってくれ。あとは俺がなんとかする」

「……わかった」


 タンゲルは重い腰を上げる。置いてあった椅子を二脚とも回収すると、天幕に引き上げていった。

 ザジはルーの体を抱き上げると、自分の担当する篝火の方へと歩きだした。





「おい、なんで見殺しにするんだよっ!」


 小声で切れているのはキーファだ。薬で眠らされたルーを、よりによってイーリンは黙認した。


「主の命の危険はない。ザジ殿が一緒にいる」

「何? あんた、あいつを知ってるのか?」


 キーファの言葉にイーリンはうなずく。


「主からは味方だと伺っておる。信用してよいと。もう一人の男については聞いておらんが」


 キーファはイライラしながら男を見下ろす。男はルー=ピコの体を寒くないように毛布で包んでいる。

 そのまま篝火の近くに横たえ、乱れた前髪を払い除けてじっと見つめている。

 その後、男が自分たちのいるあたりに顔を向けたのに気がついて、キーファは視線をずらした。


「おい、あの男、俺らがあいつの護衛についてるの、知ってるのか?」

「それは聞いていない。が、気がついてる可能性はある」

「なんだよそれ……」


 ――これだけ離れてるのに、こっちの視線に気づきやがった。普通、ありえねぇ。


「ただモンじゃねぇな、あいつ」

「だろうな」


 けろりとイーリンが答える。キーファはぎょっとしてイーリンを振り返った。


「あんた、あいつの正体知ってんのか?」

「……知らん。だが、似たような存在なら聞いたことがある。闇稼業に手を染めていたお前なら知っておろう。――『蛇』の話ぐらい」


 その言葉にキーファは目を見開いた。

 男を食い入るように見る。


「……まさか」

「似たような存在を知っている、と言っただけだ。あの男がそうとは言っておらん。それに、もしそうだとしても、王都を出てこんなところに来るはずがない」


 イーリンの言葉にキーファも納得する。


「……そうだよな。まさか『白蛇』がこんなところにいるはずがないよな」


 頭を振る。


 ――それにしても、こんな奴らばかり、なんであいつの周りに集まってくるんだ? 赤の女王といい、あの男といい……。


「なあ」

「何だ?」

「あいつ……ピコって何モンだ?」


 その言葉にイーリンは少しだけ口角を上げたのを、キーファは見逃さなかった。


「風来坊の治癒師で、妖精族の血を引いているだけだ」

「……だけじゃねぇだろ。ただの治癒師がこんなことに首突っ込むと思うか?」

「あの方がお前に言わないことを私がお前に教えると思うか?」


 冷たく切り返されて、キーファはうなだれて頭をかく。


「……つまり、信用されてねえってか」

「当たり前だろう? お前はなんでここにいるのかも忘れたのか?」


 イーリンに言われてキーファは眉をひそめた。


 ――そうだった。俺がここにいるのは赤の女王とやりあうための代償を前払いしてるだけにすぎない。それに、殺したいほど憎んでいると言われているのに、信用も何もないよな。何を勘違いしたのだろう。護衛してるせいか? なんでか信用されてないのが気に食わないとか思うなんて。


「そういやそうだよな」


 自嘲の笑みを浮かべる。


「今日の任務はあの方の護衛だ。他の者からあの方を守れ。ザジ殿とて万能ではない。私は偵察に行ってくる」

「わかったよ」


 イーリンの気配が遠ざかる。

 キーファは周囲の警戒を強めた。

とりあえず貞操の危機回避です。

期待して……なかったですよね?

中身、アレですし……。

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