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あたしの王子様がいつまで経っても来ない ~夢の中でも働けますか?  作者: と〜や
1月15日(土)

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94.とばっちり

※20151206 改行位置修正

 トリエンテを出発して三日目。

 朝ごはんも村で用意したものが配られた。まさかこんな旅の最中に焼きたてのパンを食べられるとは思ってなかった。

 ドラジェがよっぽど奮発したのだろう。今日の朝食はビュッフェスタイルで、ゆでたまごもサラダも肉も山と積まれている。男たちが群がってあらかたなくなると、次がまた山と盛られていく。

 炊事場のそばで座り込んで食べているとザジがやってきた。なんとなく表情が冴えない。


「おはよ、ザジ。寝不足?」

「ん? いや、そういう訳じゃないけど」


 そう言いながらザジは皿に朝食を盛り付ける。


「夜警じゃなかったよね?」

「うん、違う」


 二つ目のゆでたまごを割りながら、ルーはザジを観察する。


「夕べ天幕でなんかあった?」


 ザジは苦笑しながら首を振る。


「気にしなくていい。……お前もわかってるだろうが、男は馬鹿だからさ」

「あー、そっちか」


 ルーはピコの声でつぶやき、頭をかいた。


 ――要するに、ボクの恋人であるザジはやっかまれたってことだ。


 ザジにはまだ賭けの話はしていない。


「悪い。……暴力沙汰になるようだったらボクに言って。ザジに手を出すなって絞めとくから」

「やめとけ。それに、女にかばわれるのはかっこ悪いだろ?」


 そう言うとザジはニヤッと笑う。ルーも笑った。


「わかった。じゃ、殴られたら慰めてやるよ」

「そうしてくれ。それにしても腕っ節だけは強い奴らばかり集めてるな、ドラジェの奴」

「てことは、ザジでも太刀打ちできない?」


 ザジは首を振った。


「サシなら負けねえ。でも束で来られるとなぁ」

「うん。そうなんだよなぁ。だからボクは王都までずっと寝ずの番することにしたんだよ」

「あー、それ正解だよ。俺もそうしようかな」

「どうだろ……第一の馬車は人数多いんだろ? 全員が納得してくれるとは限らないぜ?」


 ルーは人数配分を思い出す。第一の馬車は中でも腕の立つものばかりを選んであるらしい。


「いや、交渉して交代してもらう」

「あんまり無茶な交渉するなよ?」


 ザジはにやっと笑った。


「無茶しないから安心しろ。ちゃんと優しく交渉するさ」





 午前中はグリードと御者台だった。


「お前、いいのかよ。寝てないと夜辛いぞ?」


 手綱を捌きながらグリードが言う。


「大丈夫。昼食食べたら夜まで寝るから」


 朝食のあとに寝てしまうと昼食を食べ損なうし、ドラジェに食事を運ぶ役目もこなせない。それなら、昼から夜まで眠るほうがよい。


「そうか。じゃあ俺も一緒に昼寝するかな」

「え?」


 グリードはにやにやしながらルーの頭をぽんと叩いた。


「昨日は結局起きてられなくてウェインに代わってもらったろ? だから今日は俺が寝ずの番だ」

「あ、そうなのね」


 ウェインはずっと寝ずの番をする、と言っていたが、やはりその望みはかなわなかったようだ。


「ウェインばっかりにいい思いさせるわけにはいかねーからな。あいつ、お前を抱きしめたって?」


 頭に置かれた手がぐしぐしとルーの髪の毛をかき回す。


「やめてよっ、絡まっちゃう」

「いいじゃねーか。あとで櫛入れてやるよ」


 ぐいっと腰を引っ張られる。がたんと馬車が揺れてグリードの膝に倒れ込んだ。


「おっと、いいねえそういうのも。しばらく膝枕してやんぜ」

「いいわよっ。起きるからこの手どかしてっ」


 ルーは体を起こそうとしたが頭をグリードの手が押さえつける。


「ホントは眠いんだろ。次の休憩まで膝貸してやる」


 御者台の上で膝枕されたところでおとなしく眠れるわけがない。幸いなのは、横に騎馬隊がいないことと、他に見ている者がいないことぐらいだ。

 腕の力が抜けないので仕方なくおとなしく横になる。手はゆるゆると頭をなで、髪の毛を梳いている。


「お前の髪、ほんとに手触りいいよなぁ。真っ直ぐだし」

「……ザジに手ぇ出さないでよね」


 ルーの言葉にグリードはまたぐしゃっと髪の毛を掴んだ。


「何も言ってねぇだろうな」

「言うわけないでしょ? ザジ、ちゃんと眠れてないみたいだったし」

「さぁね。男の様子なんか見てねぇよ。ただ、絡んでる奴はいたんじゃねぇのかな」

「……グリード」

「なんだよ、改まって」


 手が止まる。


「ドラジェからなにか聞いてる?」

「何をだ? 仕事のこと以外は知らねぇぞ」


 グリードの声に嘘は感じられない。ルーはため息をついた。


「じゃあいい」

「何だよ。言えよ」


 ぐい、と髪の毛を掴まれる。痛い。


「……あんたが賭けを始めた理由、よ」

「なんだ、気がついちまったか」

「やっぱり。……痛いから手を離してくれない?」


 ルーが言うと、グリードは髪の毛から手を離した。


「ああ。――お前、やっぱ頭いいよなぁ。てか勘が働くってのか? お前の思ってるとおりだよ。だから、賭けを持ちかけた。誰か一人のもんになったら、ほかは手を出せないって約束でな」


 だから、自分が胴元になって、最初に仕掛けてきたのか。


「ドラジェの唯一の誤算は、あんたがザジを連れてきたことだろうな。ザジとあんたがそういう関係だとは思ってなかったろう」

「なるほどね。……グリード」

「ん?」


 ルーは横になったまま、グリードを下から見上げる。


「ありがと。あんたやっぱりいい男だね」


 髪の毛に手が差し入れられる。ゆるゆるとまた髪の毛を梳き始めた。


「お礼はキスでいいぜ」


 にやにやと笑いながらグリードがルーを見る。ルーはくすっと笑うと頭を撫でる手を捕らえて手のひらにキスをした。


「はい、お礼」

「あ、ひでっ。それでごまかすつもりか? ずいぶんじゃねーの? 救世主に向かってさぁ」


 あからさまにがっかりした口調でグリードは拗ねる。ルーはこらえきれなくなって笑い出した。


「わかったよ、夜にね」

「本当だろうな? 逃げるなよ?」


 ルーは笑いながらもう一度手のひらに唇を押し当てた。

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