いつもそばにいるもの
ちょっと真剣に自分が病気なのではないか?と落ち込みながらの通学途中、学校の近くで、黒塗りの車が止まっているのに気がついた。学校の目の前ではないが、ちょうど誰かが車から降りてくるようだった。俺は見ぬふりですり抜けようとした。
「あら、タナボタくんその人だあれ?彼女さん?」
「え?沙耶華さん?」
突然、車から降りてきた人物に話しかけられた。話しかけられたことそのものより、その声の主に驚いた。それは沙耶華さんだった。二階堂沙耶華。学園きってのお嬢様。二階堂財閥のひとり娘としてこの学園のみならず、この街に住んでいて知らない者はいないというくらい、超がつくお嬢様の中のお嬢様だった。その上、頭脳明晰、才色兼備、容姿端麗と天はこれでもか!というくらいこの人にモノを与えすぎていた超絶美人系お嬢様だった。つまりは、雲の上の存在といっていい。なぜ、こんな極めて普通の学校に通ってるのかみんな不思議がっていたが、とにかく同じ学校に登校していた。しかも、同じクラスだった。その超絶美人系お嬢様が俺に、俺なんかに話かけてきたのだ。
「え?……その人って、もしかして……」
ふり向けばバッチリなゆらがついてきていた。
「オマエ!なんでついてきてるんだよ!」
「ふにゅ?」
いや、しかし、沙耶華さんになゆらのことが見えてる?いいやそんなハズは……
「さささやわやか、沙耶華さんこそ、その執事系イケメンさんは誰です?あと……俺、タナガワだけど……」
沙耶華お嬢様の横に背が高い、黒ずくめの男がいつの間にか立っていた。なんとなく存在感が希薄で、しかめっ面なのか、笑っているのかよくわからない顔だったが、まずはなかなかのイケメンに違いがなかった。
「え!コレが見えるの?カワボタくん」
「う、あ、ハイ。ということは沙耶華さんもコイツが見えるんですか?……俺、タナガワ……」
「ちっ!どういうこと?ワタクシは選ばれし者ではなかったの!?」
沙耶華さんの顔から常に絶やすことがなかった微笑みが消え、その執事を睨んだ。
「お嬢様、左様なこともあるのですよ。比較の問題です。上が上で在るためには下が必要だという事でございましょう」
その執事も無表情なまま失礼なコトを言う奴だった。
「おや?もしや、なゆら様ですか?」
「そうにゃ」
すると今度はなゆらに話しかけてきた。まるで昔からの知り合いのように……
「ええ……と。なゆら様ですよね?」
「ずぬん。おヌシはあれか?ダモンだったか」
「左様でございます。いつぞやは大変お世話になりました」
「世話した覚えは、てんてこもないもんがな」
「ええと……とりつく人間によって、人格もパワーも変わるというのは本当でしたか……いやはや、貴方様ほどの御人が……クックックック。いやでもお似合いですかな。あ、いや失敬。何か、手伝えることがあれば、なんなりとおっしゃってください。クックックック」
ワケの分からぬ会話をしたあとダモンは沙耶華さんと二人で学園内に入っていった。俺を振り向きもせず。なんとなくなゆらがバカにされた気がして、俺はなぜだかムッとしてしまった。
◇◆◇◆◇◆◇
「お嬢様、これは勝ちましたぞ」
「何を勝手に話していたの?あのボケガワの使いと」
「いえ、あのお方、少し知る人物でして情報交換をしていたのでございます」
「あとで報告しなさい!」
「かしこまりました」
「でも本日の善行、陽の当たらない可愛そうな下ピー(下々の一般ピープル)にこのワタクシ、二階堂沙耶華が声をかけてあげましょう運動が、思わぬ展開になったものね。お父様のいいつけでこんなくだらない学園にこさせられて退屈していたけれど。なにか変わるのかしら?」
◇◆◇◆◇◆◇
「ダモン……おヌシ、なにか考え違いをしているモンな……」
なゆらはいつもとは違う表情を見せていた。
「ど、どうかしたのか?というか、オマエ、俺の妄想じゃないのか?」
それで俺は少し様子をうかがいながら尋ねた。
「はじめからそう言ってるニャ!」
「じゃあオマエは何なんだ?」
「不思議の魔少女☆なゆらニャ!」
「いやそれは前に聞いたけどドコから来たんだ?」
「ふに~」
「……住んでいたのはドコだ?」
「ぬぅ?」
「オマエ……まさか、記憶がないのか?」
「でろん」
「…………」
「それじゃあさっきのブッキラ執事は誰だ?知り合いなのか?」
「アイツはダモンにゃ。小賢しいアホウだ。とるにたらぬ存在にゃ」
「お、オマエにそこまで言われるなんて……」
「とにかく、アイツはワッチの邪魔ばかりしよる」
「そこまで分かってるなら自分がどこの何者か知ってんだろーが!」
「そ、それにゃんだが……よーわからんのニャ」
どうやら、まんざら嘘では無いようだった。しかし、なゆらが妄想じゃないとしたら何なのだろう?俺はハッキリ言って自分のことなら自信がない。だから妄想という考えはごく自然に受け入れることができた。しかし、沙耶華さんにも見えるとなるとその自信のなさも揺るがざるをえない。沙耶華さんがおかしなことを言うはずがない。だんじてない。それはまぎれもなく確信できる。するとなゆらは少なくとも俺の妄想ではないということになる。妄想でないとしたらなんなのだ?なゆらにしろアホ執事にしろ、とうてい幽霊の類には見えない。ではなんだ?なんなのだ?考えてみてもサッパリ分からない。
「じゃあ目的は?何のために来たんだよ?」
「そ、それわ……二へへへへ」
なゆらはなぜかモジモジしながらとろけそうな顔で笑った。
「な、なんだよ。キモチワルイなあ~。言ってみろよ」
「ヒコマルと添い遂げるためニャ!」
「はあ~~~?」
いつもふざけたコトを言ったり、やったりしてるくせに、なんだか今のは恥ずかしかったようで、うつむいて駆けだした。
「さておき、いざ学園生活に飛び込むのニャ~!」
「おい!俺は、学校に連れてくなんて言ってないぞ!」
慌てて俺は追いかけた。
「うに?ほれ、そろそろ遅刻じゃないのか?」
「お、おい、待てよ~~~」
結局なゆらはあっさり学校に入りこんでしまった。妄想じゃないから、俺の頭が暴走することもないのは良かったが……いや……なゆらの暴走のほうが怖いか……
「と、と、とりあえず!アブナイことをするなよ!お、おとなしくしてろ!」
「ふに?」
あ、ヤバい、振り向いたなゆらは、何か企んでいる顔をしていた。
「そんなコトするワケナイにゃ~~っ!」
そう言いながら、フワリと浮かぶと俺の肩に飛び座った。肩車の反対のポーズ、つまりは顔の目の前になゆらの××◯△が迫って来た。
「お、おい!これがダメだっつってんだろ!き、気持ちわりー、くはないが。いや、そんなこと言ってるんじゃない!離れろ!股を擦り付けるな!こら~~~」
校門近くのこのやりとりはあっという間に学園内に伝わった。
もちろんなゆらは他人からは見えないから俺ひとりの自作自演として……
俺はたちまちヘンタイという称号で呼ばれるようになった。
終わりだろ?俺の花の学園生活……




