とある日の江戸川高校ゲーム研究部
とある日、俺は福引で当てたノートPCを学校に持っていった。自慢ではないが俺はパソコン関連に疎い。ゲームは好きなんだが、パソコンはよくわからない。ま、持ってなかったんだからしょうがないさ。でも俺の所属する部活、江戸川高校ゲーム研究部=ゲー研には、パソコンに詳しいヤツがいる。蒲生士郎、通称ガモだ。俺はパソコンの設定とかスペックとかサッパリ分からないから、ガモに見てもらおうというワケだ。
「ガモ、これ見てくれるか?」
放課後、さっそく部室に行くとガモと一年生のノジコがもくもくとゲームをしていた。ゲー研のメンバーは、ガモと俺が二年、野嶋チエコ=通称ノジコが一年、それにあと一名、部長で三年生の篝 彩音先輩だけだ。
「お、なんだ?ヒコ、パソコン買ったのか?」
ヒコとはもちろん七夕川彦丸16歳。今が旬!の高校二年生、俺のコトだ。
「いやクジで当たったんだが、よくわからないから持ってきた」
「へえ~すごいな、どれどれ……Phensonix?聞いたことないメーカーだ……スペックは……」
ガモのやつは裏を四方から見回したあと、電源を入れた。
「ふう~ん。スペック的には中の中ってとこだな。ヒコ向きってワケだ」
「ウッセー!で、使えそうなのか?」
「まあ、まず問題ないだろう。お、これWiWAX1年分付きじゃないか」
「なにそれ」
「知らねーの?」
「ん、ああ」
「家でも外でもネットが繋がる公衆無線LANのことだ!」
「お、詳しいなオマエ」
「ってQoogleに書いてあるよ」
「なんだクグっただけか」
しかし、ネットも無線で繋がるとはすごいツイてる……よな?
ガラガラガラ……
するとドアを開ける音がして、顧問の三上光太郎先生と部長のカガリ先輩が入ってきた。
三上先生というのは国語の教師で、ボサボサ頭に絵に描いたような瓶底メガネをしていた。本人いわく重度の近視で、メガネがないと何も見えないらしい。メガネを取ると超イケメンだ、という噂がたち、女子達が何度もメガネを取ろうとチャレンジしていたが、誰も成功した者はいない。普段はナヨナヨしているにもかかわらず、そこは鉄壁の防御だったのだ。
しかし、ゲー研の中では普通にメガネを外して拭いたりしている。チラっと素顔を見たことがあるが、メガネがあると無いとじゃ、こんなにも人相は変わるものなのか?と思うくらいイメージが変わる。まあ、三上先生のイケメン伝説は本当だ。これを見て女子が放っておけなくなるというのは男の俺にも理解できた。
逆に異常に思えるのは、ゲー研の女子だ。ノジコも部長もまったく三上先生に興味を示さないのだ。もちろん、俺やガモに興味を示すことなんて皆無なわけだが。
「おや、彦丸君もパソコン買ったのですか?それはよかった。そしたら一台は部のパソコンが空きますね。来年もこの部活があるか分かりませんがね。ははは」
三上先生のいつにも増した力ない乾いた笑い声が響いた。
「先生も部長も暗いね。どーかしたの?」
「いやあ、教頭先生に叱られましてね~。ゲー研は人数も居ないし即刻解散しなさいと」
「え!」
「聞いてくださいよ~みなさん。教頭ったらひどいんですよ。ゲー研はたいした活動実績もないし遊んでるようなもんだろ!なんて言うんですよ!ね?ヒドイでしょ?」
「たしかに」
みな一様に頷いた。
「でしょ?ですよね~ヒドイよね~~~」
先生は一人で興奮し始めたが……
「確かに遊んでるだけだからなウチら」
これがゲー研みなの共通意見だった。
「そ、そっちですか?ボカぁゲームという類まれな優れたコミュニケーションツールをつかって互いの理解を深めることを目的としてこのゲーム研究部はその存在意義をいかんなく発揮されるものと考える所存でございますのに!」
「せ、先生。言ってることが支離滅裂だよ。国語の先生なのに」
「…………」
「あ、ウソウソ、嘘だよ。いやあすごいタメになる演説だった!」
三上先生には「国語の先生なのに」という言葉は禁句だったのだ。
「あーでもさ~部長!本当に教頭つぶすきかねえ~ゲー研」
ガモは完全に落ちて部屋の隅で化石のようになっている三上先生を無視して、部長のカガリ先輩に聞いた。
「そうね。まあ人数的にはギリギリだけどクリアしているから規定どおりなら勝手には潰せないはずよ」
「ですよね」
「今年はね」
「あ……」
カガリ先輩の言うことはいつも正確なので説得力がある。カガリ先輩というのは、学校でも1、2を争うくらい成績も優秀で顔もまあちょっと地味ではあるが美形といえるだろう。そんな先輩がなぜゲー研の部長に?とも思うが、少々、というかかな~り性格には難がある。入部以来ず~~っと無口なノジコと二人になると、なにやら怪しい画像を見せ合って部室の部屋の方で盛り上がっているのだ。その時の二人の目つきときたら……怖い、というかキモい。
一度、俺とガモが覗こうとしたら、存在を全否定されるような罵声をよってたかってさんざんに浴びせられた。ガモなんてそれが原因とみられる謎の熱病で3日間寝込んだほどだ。それ以来、俺たちは二人の趣味には触れないことにした。しかし……なぜか三上先生はときどきその輪に入って一緒になってニタニタしている。いったいどんな趣味なのか?薄々分かってはいたが、知らないほうが幸せなことがある、と俺とガモは思うのだ。
「そうか……来年になったら名実ともに廃部……」
「みなさん!部員を集めましょう!さあ今こそ立ち上があるのです!ボクにはココしかないのですから!来年も再来年もずっと、ずっと」
なるほど、先生にとっては死活問題ということらしい。
「先生、それならメガネをとればいいよ」
「なるほど~こうですか!」
ちょっとヘンになっちゃってる三上先生は、珍しく自らメガネをとってポーズをとった。が、すぐに恥ずかしくなったらしくて窓の方を向いてしまった。
「ま、まあ検討してみますよ。いや、しかし、でも……」
まあ、三上先生は無理だろう。なぜだか極度にメガネを取ることを拒んでいる。恐れているとさえ思われるフシがある。しかしその時、窓の向こう、反対の校舎の廊下からこちらをジ~っとみている女子がいた。三上先生の影で誰だかよく分からなかったが、あのぶんじゃ三上先生の素顔を見ただろう。
「そういえば、ヒコ君。せっかくパソコン手に入れたんなら。このゲームやってみないですか?」
そう言いながら三上先生が紙をよこした。そこには超絶空想都市「まじか☆らんど」っていうオンラインRPGのダウンロードリンクとおそらく三上先生の紹介コードが書いてあった。が、俺はそれをなんとなく受け取ると、さっきの女子を確認しようと窓を開けた。そしてその紙切れは飛んでいってしまった。
「ごめ。先生。もう一枚ある?」
「ありますよ~ありますとも!さあさあみなさんもどうぞ~一枚と言わず何枚でも持ってってください」
先生はそういいながら部室に紙切れをバラまいた。
「先生さあ、そんなに紹介コード入れて欲しいの?」
「い、いやあ、まあそれは、あるにはありますが……まあ、ホント面白いのでぜひどうぞ~」
みな一枚ずつその紙切れは受け取ったが、カガリ部長は冷たく放った。
「先生。部室、掃除して帰ってくださいね」
「ハ、ハイ」
その後しばらくみんな無言のままゲームをした後、いつものようになんとなーく一日が終わった。




