超不自然現象吸引体質な俺
ーー はじまりはひと月ほど前にさかのぼる ーー
「ゴメン……母さん。また、やっちまった……」
「あ!もう~!また勝手に卵割ったのね!」
「どうしてもスグにベーコンエッグが食べたかったんだよ」
「それにしてもよ!アンタが割って黄身が入ってたためしが無いんじゃない?」
俺は好物のベーコエッグを早く食べたくて自分で卵をわろうとした。何度も同じような失敗をしているというのに、またやっちまったのだ。割った卵を見てみれば見事に白身だけだった……。
「ホント不思議よねえ、あんたが割って黄身が入ってることあるの?」
「…………」
「にーさま!にーさま!」
今度は妹のフミカが卵を割ってみせてきた。なんと黄身が3つ入っていた。
「…………」
「良かったじゃない彦丸。フミちゃんの黄身もらいなさいよ。フミちゃんのおかげで我が家はプラマイゼロね。あ、プラス1か」
「………………」
ジョボジョボジョジョ……
「あ!ほら!でも母さんコレ!」
少し拗ねた俺はお茶を入れて母さんに見せようとした。
「な~に?また茶柱なの?」
が、母さんは振り向きもしない。
「う、うん。まあ~そう珍しくもないか。十本くらいは立ってるけど……」
「アンタはそんな意味のないところで運の無駄遣いしてるからロクなことがないんじやないの?」
「ろ、ロクなことがないって……そんなコト言ったってしょうがないだろ!なんで俺ばかりがこんな目にあうんだよ!」
「おい彦丸。そんなこと言うもんじゃないゾ。世の中には満足に食べられない人もいるんだ。幸せだと思ってもいいくらいだ」
なるほど。さすがは親父だ、いいこと言うぜ。と言いたいところだが……
「親父のお茶にも茶柱が立ってるぜ?3本くらい……」
どうやら遺伝というコトらしい。遺伝ならしょうがない…………よな?
俺は自分で言うのもなんだが、それはもういたって普通のどこにでもいる高校生だ。自分で言うんだから間違いがない。ただひとつの点をのぞいて……
俺には秘められた特殊能力があった。それは名付けて「超不自然現象吸引体質」。まあ、別の言い方をするならば「不幸な星の下に生まれた」だ。
俺の回りでは、そりゃアリエナイだろ!ってコトがよく起こる。卵を割ったら黄身が入っている方が珍しいくらいだし、茶柱の2~3本なんていたって普通だ。靴投げで天気占いすればいつも決まって雪と出る。かといって宝くじに当たる、というような幸運が起こるワケではない。だから害があるというワケでもないのだが良いことがあるわけでもない。
「彦丸~アンタちょっとこれ行ってきてよ」
「ん?なんだよ。商店街の福引券?なんで俺なんだよ」
「アンタ茶柱自慢してたんでしょ!だったら行って来なさいよ」
「あ、あれは……っていうか、本気?俺がクジ引いて当たるわけがないのは知ってるだろ?」
「バカね。誰が引いてもクジなんか当たらないわよ」
「そ、そりゃそーだが……」
「でもアンタ変なものを引き寄せるでしょ」
変なものって……そんな目で見ていたのか……
「だからそこが狙いよ。欲しいのはサラダ油とハワイ旅行だから、それ以外が当たったらアナタにあげるわよ!学校帰りに通るんだから行ってきて!」
なかば強引に福引券を押し付けられてしまった。ハッキリって商店街の福引に男子高校生が一人で並ぶのはハズカシイ。そこんところが分かって欲しかったんだが……
ガラガラガラ ッポ~ン
放課後……母親からの福引ミッションは無視しようとも思ったが、ハズレでもたいていティッシュくらいはもらえるのだろう。戦利品がゼロでは言い訳もできないので仕方なくクジ引き所に来た俺はクジを回していた。
カラ~ン カラ~ン
「大~当たり~」
スタッフのオヤジは盛大に鐘を鳴らして叫んだ。
ハイハイ。大~当たり~たって、どうせティッシュだろ。恥ずかしいからやたらと鐘を鳴らすのは勘弁してもらいたいものだ。
「大当たり~2等が出ました!」
当然、心の声など届かない空気の読めないオヤジはさらに鐘を鳴らし続け、どこからか取り出したメガホンで周囲に恥をバラマキはじめた。
それにしても、に、2等?いや、騙されてはいけない。こういうのに何度も踊らされてきたんだ俺は。どうせ2等はロールティッシュです。とかだろう。
「お、お兄さんやったね~。さ、どうする?賞品は二種類だけど」
やっとのことで落ち着きを取り戻してくれたオヤジは俺の方を見ると賞品の説明をした。そーいえばどうせ当たらない賞品なんて確認したこともなかった。
「は、はあ、何と何ですか?」
「『俺のなまこ汁』1年分か……」
「なまこ汁?なめこじゃなく?いやそれより、そのネーミング……てか一年分!」
「そ!それにしちゃう?」
「い、いやあ~で、もうひとつは?何?」
なまこ汁一年分なんてするわけない。するわけないよな?普通は。
「最新!型落ちノートPC!」
「え!ノートPC?パソコンなの?」
「そ。やっぱ『俺のなまこ汁』にする?略して『俺なま』オススメだよ!」
か、型落ちって言い切ってるのが気になるが……パソコン、それは俺がどれほど求めても得られないもの、と諦めていたものだった。た、たしか母さんは、サラダ油とハワイ旅行以外は俺にくれると、そう言ったよな?いや、言わなくても『なまこ汁』はいらんだろ。よし。
「ノートPCにするよ!」
「え!型落ちの?型落ちだよ?いいの?なまこ汁、おいしいよ?」
オヤジはさも親切で俺は言ってやってるんだぜ?という笑顔を俺に向け、なまこ汁のパッケージをふりまわしている。
こいつ、さてはノートPCを出したくないらしいな。そりゃそーだ目玉景品が消えては福引大会など盛り上がらない。そーだろう、そーだろうとも!だがしかし、そんな大人の事情は俺には関係がない。
「ノートPCで!」
「あ、そう。お兄さん。ノリ悪いね」
「ノリの問題じゃないだろ!早くよこせよ!」
しぶしぶ差し出されたノートPCを受け取ると俺は家へと急いだ。
「ついに俺の時代が来た!クジで当たりを引くなんて想像もしたことがないぜ!母さ~ん!」
帰るとキッチンでは母さんが夕ご飯の支度をしていた。
「か、母さん!福引2等だったよ!」
「え!嘘!ほんと?2等といえば……なまこ汁ね!1年分ね!でかしたわ彦丸!なまこ汁!今度からオマエのことはナマコ丸って呼ばなくちゃね!母さんも父さんも大大大好物なのよ!」
「え?」
母さんはいつになく異常なほど嬉々とした顔をしていた。なまこ汁だよ?なめこじゃなく?いやいやそうじゃなくナマコ丸って……
「で?どこ?私の『俺のなまこ汁』1年分はどこなの?」
「い、いやあ……なまこ汁は先に取られてて……」
もちろん、こうなったら俺は本当のコトなど言えるハズもなく、なまこ汁は品切れで、しかたなくノートPCを選んだと告げざるを得なかった。その時の母さんの失望の顔は一生忘れられないかもしれない。
ノートPCって……当たり、だよな?




