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マジデスラ城

「うわ~東海デジモランドみたい~」


 ノジコのめずらしく可愛らしい声に振り向くと、そこは城というより、たしかに遊園地か何かのような雰囲気だった。奥を見ればピエロのような扮装の人々が行きかい、空には小型のドラゴンが飛び、吐き出した炎は花火となった。見慣れぬ乗り物が、幾重にも重なった光のレーンを高速で走り抜けてゆく。それらの中心に城がそびえていた。みとれていると絨毯が飛んできた。絨毯の上に尻尾のような棒が何本も突き出ている。


「これに捕まって乗れってことかな?」


 と、言いながらガモはすでに絨毯に飛び乗っていた。つづいて部長、ノジコ、沙耶華さんと乗り込んでいった。全員が乗ると絨毯は浮かび上がった。と、思ったら分裂した。


「はは!これ一人乗りか!すげー楽しい~~~~!」


 ガモがはしゃいで宙返りをはじめた。なんとノジコもそれに続いた。


「お、おたおたすけ~ください~。ボクは高いところと低いところと、早い乗り物が、に、苦手なんです~」


 三上先生はフラフラしていた。他のみんなは浮かれもせず、フラつきもせず、その一人乗り空飛ぶ絨毯の進むがままにしていた。するとそのまま城の門をくぐり、また門をくぐり、また門をくぐり、いくつ目かの門をくぐるとゆっくりと絨毯は停止した。


 ドンッ


「あいたたたた。ガモさんちょっとどいてくださいよ!」

「おっとゴメンゴメン」


 二人も無事?到着したようだ。なんだか不思議だったのはなゆらだ、こんな乗り物一緒になって、というか率先して遊びまわりそうなものなのにずっと無言のままだった。だから、なんとなく俺もおとなしく展開を見守っていた。

 そこは広い半円状のホールのようだった。体育館より広く、深い絨毯が敷き詰められていた。足を踏み入れると円形空間の左右の壁のランプが、手前から奥へと順に点っていった。


「なゆら様はこちらへ」

「彦丸様はこちらへ」


 突然従者が現れ、俺と別々の部屋へと誘導した。


「他の方々はこちらへ。あ、その「魔~たん」は魔王様からの贈り物です。どうぞお持ち帰りください」

「魔~たん?」

「この絨毯のことじゃないですか?」


 目を輝かせていたガモとノジコの回りを魔~たんと呼ばれた不思議の絨毯はまるで犬のように飛び回っていた。


「お持ち帰りって言っても、そもそも帰れるのでしょうかねえ?ボクら」


 三上先生は相変わらず心配そうな顔をしていた。沙耶華さんは何を考えているのかよく分からなかったが、周囲の状況を見逃すすまいと必死なように見えた。部長も同じように周囲を見回していたが、たぶん何かあった時のため頭のなかでは次の一手を考えているのだろう。


 みんなと引き離され俺は小さな部屋に通された。正面に大きな鏡がある部屋だった。


「彦丸殿。覚悟はいいかな?」

「魔王タロスか?」

「そうだ」

「これから何が始まるんだ?」

「結婚式だ」

「なるほど……」


 もはや、誰のだ?と聞くのは野暮というものだろう。そして俺は答えた。


「覚悟はできているさ。十年前のあの日から……」


 すると部屋がパアッ~と明るくなり、光がカラダを包み込んだかと思うとはじけた。

 見れば、鏡には純白の衣装を着ている俺が見える。

 俺がゆっくりと頷くと、今度は背後から風が吹き、俺のカラダが2mほど持ち上がった。

 気がつけばいつの間にか俺は真っ白い馬の上にまたがっていた。馬のカラダには羽根が生えている。そして前面の大きな扉が音もなく左右に開くと白馬がゆっくりと歩きはじめた。そしてその続き、またもうひとつ向かいの部屋の前で立ち停まると、姿勢を低くし俺を滑り下ろした。

 扉が開く。見れば、その部屋の中央にはベッドがあり、数えきれない花に囲まれてウェディングドレス姿の美しい女性が横たわっていた。


「なゆ……」


 俺が声をかけようとすると近くにいた小さき七人の従者達が互いに指を口にあてて「静かに」というポーズをし、なゆらの方へ顔をだすように導いた。


「白馬の王子様の次は眠れる美女ってワケか……」


 心のなかでつぶやくと俺はなゆらの顔をのぞき込んだ。

 そこにはあの日、別れた少女がいた。少女は成長し、こんなにも美しい女性になったのだ。いつものなゆらとは思えないほど気高く美しいその女性に、胸の鼓動が高鳴るのを感じ、俺はその唇にキスをした。目を開けたなゆらは、ああ、この世のものとは思えないほど美しく輝いていた。

 部屋を出ると俺は羽根のある白馬に跨り、なゆらを馬上へと引き上げた。

 やがて白馬が歩き始めると、どこからともなく光る天使が現われ、なゆらの顔に純白のベールを下ろしていった。

 横の大扉が開く。二人を乗せた白馬はゆっくりと扉をぬける。そこはバルコニーのようになっていて、さっき入ってきたホールの上だった。見れば学校の仲間たちがそれぞれの衣装に身を包んで見上げている。

 白馬はふわりとバルコニーから飛び上がり、円を描きながらゆっくりとホール正面へと降り立った。正面には巨大なステンドグラスがあり、その前にまた巨大なパイプオルガンがあった。白馬の翼から二人が滑り降りると白衣の神父の前に立った。


 ----生きとし生ける、時よ、命よ

   今宵、この時、かの神々の末端に

   いざ、このふたりをおかん----


 オルガンが旋律を奏で、神父の声がホール中に響き渡る。

 荘厳な雰囲気に咳を払うものも一人もいなかった。


 --この結婚の儀に異を唱える者、ありしや?--


 シーンと静まりかえり、張り詰めた空気の中、ざわめきが起こった。なんと手を上げたものがあったのだ。それは……なんと……三上先生だった。


 --汝、この結婚の儀に異を唱えるか?--


 回りにいるもの達が今にも飛びかかりそうな形相で先生を睨みつけていたが、先生はまるで何も感じていないような顔をしている。


「はい。異といいますか。ヒコ君は16歳なんで、まだ結婚できませんな」

「え?」

「ええええええええ!」


 予想に反して驚いたような声が辺りを包んだ。


「そんなことは分かってるよ。でもココでは関係ないだろう」

「いや、そうはイカンぞ。関係はある。オオアリクイくらいあり過ぎて蟻さんも困るくらいだ」


 魔王様もなんだか気にしているようだった。たぶん。


  --ヤーマカマーダカラーマヤダー

   ダーマラカーマラマーカマヤー --


 そしてどこからともなくお経のような声が聞こえてきた。


「ほら、来たぞジャンゴだ」


 --聖なる礎~天なる掟~貫かれた意志~我とともにありなん~ --


「ジャンゴってなに?」

「この魔法世界を統べる絶対的な法の番人、ジャッジメント・ゴーン、人呼んでジャンゴだ」


 --遷ろいやすく、変わりやすい我らが魂を、

  暗黒の混沌へと誘おうとしているのはそなたか? --


「え?これ、どうすればいいの?」

「マジメに正直に答えるしかないにょ」


 なゆらがやっと口を開いた。


「え、ええと~いいえ違いますゴーンさん」


 --グぬオォォォオオオオオウ --


「あ、言い忘れた。ゴーンって呼ぶと怒るから気をつけてね」

「おせーよ!」


 --でわ汝、あらゆる法則、規則、法にのっとって生きる者か --


「はい」


 --でわ、この儀式はなんとする --


「婚約パーティーです!来たるべき結婚式のための!」


 --汝、法の執行者よ。本当か? --


 ジャンゴは何を勘違いしているのか三上先生に尋ねた。


「は、はい。天地神明にかけ間違いありません」


 --良シ されば認めよう --


 うわぁぁぁぁああああーーーーーーーーーっ!


 せきを切ったように音楽が鳴り出し、パーティーが回り始めた。


「うっひゃ~~~疲れたにゃ!王女ってやっぱ疲れるにゃ!さ、ヒコ!食うにゃ!飲むにゃ!(ノンアルコール)歌うにゃ!踊るにゃ!」

「あ、ああ。それでこそなゆらだ!」


 ガモも、ノジコも、部長や紗耶華さんでさえも楽しそうに踊っていた。三上先生はダモンを追い回していた。パーティーが絶頂に差し掛かる頃12時を告げる鐘がなった。


「時間だぞ。魔法が解ける!」


 誰かの声がした


「え?12時になったら魔法が解けるとか、ベタ過ぎない?」

「「まじか☆らんど」の国民はそういうのが好きなのにゃ」

「ああ~なるほど」


 あっという間にパーティーで散らかされたクラッカーやガラスの靴の片方だとかはひとりでに片づけられ、空間そのものが収縮しはじめた。


「さあ、みんな帰りますよ」


 ノジコが言った。


「え?帰れるの?」


 ガモがとぼけた声をだした


「みんながこの玉に望めば帰れるって。大王さんがくれたの」

「ああ、あの時の……」


 皆が集まると空間が一点に集まり……閉じた。


  ーーー ドスンッ ーーー


 どこかから落ちた感覚があり、目を覚ますとそこは部室だった。小汚いままの。


「夢?」

「いや、じゃないみたいだぜ?」


 ガモの声に俺はカーテンを開け外を見た。そこには……


「な、なんだよあれは!」

「一緒に来ちゃったの?どうなるの学校は、いや日本、ううん地球は!」


 部長が心配するのも不思議はなかった。窓の外の雲の上には超巨大なマジデスラ城が浮かんでいた。


「やあやあみなさん!ご心配なく~~~」


 そこに突然、中年サラリーマン風の男が現れた。


「だ、誰?」

「オヤジ殿にゃ」

「え?ええええ!!!マジ魔王のタロス?いや、なんでそんなカッコウをしてるんですか?」

「いや、これが地球での正装と聞きましてね。ハイ」

「いや、なんでそんなフレンドリーな口調なんですか?」

「「まじか☆らんど」の国民は影響を受け易いにゃ。その地にあった容姿、性格に変貌するにゃ」

「ああ~だからなゆらも……」

「ご理解いただけた所で、スミマセンね~今スグちっちゃくしちゃいますからねえ~」


 そういうとあっという間に城が手のひらサイズになった。


「それじゃそーいうことで、また」


 魔王様は最後に全員に名刺を渡して何処かへ消えていった。名刺には


 株式会社 FFCファンファンコミュニケイションズ

 代表取締役社長 鈴木太郎


 と、書かれていた。


「えっと……」

「FFCって、MMORPG「まじか☆らんど」の運営会社だよな?」

「ああ、なるほど。そういうことか」


 なんとなく頭が働かないまま、鈴木タロス魔王が帰っていくのを見ていた。


「そーいえば部長の件どうしましょうか?」


 三上先生が切り出した。


「ああ~すっかり忘れてた」

「とりあえずゲームクリアは彦丸くんだと思うので彦丸さんどうぞ」

「え、あ、ああ。あれって決定権でしたよね?部長決定権。じゃあノジコを部長に任命します」

「はい?」


 さすがにノジコは驚いたようだ。


「おお!それはいいね!ヒコのくせにいい案だ」

「うっせーよ!で、カガリ先輩、問題はないですよね?」

「そうね。規定では1年生が部長ではダメというものはないわ。私もそれでいいと思います」

「分かりました!その件はボクから教頭に伝えておきます!」

「よろしくっ!」

「えええええ~~~~!」

「ノジコ!観念しろよな。ゲームで決まった正式決定だ!」

「は、はい~~~~ッス……」

「さあ帰ろうぜ!」

「そうですね。ボクも疲れましたし」

「そうね。ガモ君、ノジコを送って行ってくれる?」

「部長、そういうのいりませんから!」

「ダモン、私達も帰るわよ」

「い、いいんですか?お嬢様。ご一緒させていただいて」

「決まってるでしょ!」


 みんなだんだんと帰っていき、最後は俺となゆらだけになった。


「えと……なゆら。どうする?」

「決まってるにゃ!いっしょに帰るにゃ!」

「だな!」


 帰ったら母さんになんて説明しよう?とか一瞬思ったが、そんなことは帰ってから考えるさ!とふたりで帰っていった。


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