遭遇
ウハラブンジャラ~~~ハッ!
俺は「デル魔くん」を片手で掲げると呪文の詠唱をした。適当に。
ずんっ
ンガガガガ……ゴゴゴゴゴゴォォォォオオオオ
今度は大きな音とそれに続いて地響きがした。
「やったにゃ!できたにゃ!ヒコ!」
「うおぉぉぉおおお!」
「だが、逆じゃなかったのきゃ?デスペルは」
「あ、え?そか……やべ!」
やり直そうと思ったが窓の外に何かが見えた。
「なゆら……あれ、なんだ?」
「にょ?」
窓の外、ノジコが作った塔の上に突き刺さったように巨大な城があった。現実的にはあり得ないようなバランスでその大きな城は塔の上に引っかかっていた。和なのか洋なのかアジアンなのかインドなのか、さまざまな様式がごちゃまぜになったような巨大な城だ。
「あ、マジデスラ城にゃ!」
「マジデスラ城?」
「「まじか☆らんど」の魔王タロスが住む城にゃ。つまりワッチの家にゃ」
「え?ま、マジ?」
「マジデスラ~城にゃ!」
「ダジャレってる場合じゃないだろ!」
その城は段々と塔をめり込ませて沈んでくるように見えた。
「と、とにかく……デスペルしなくちゃだな」
俺はまた「デル魔くん」を掲げると、今度こそはとデスペルをしようとした。
ラジャンブ~ラ~
「待つのだ!」
途中で大きな声が聞こえた。聞こえたというより頭の中に響いた。
「な、なんだ?だ、誰だ?」
「お、オヤジ殿にゃ?」
「ワシは「まじか☆らんど」の魔王タロスだ。そして、ナユのパパ、略してナユパパである。ナユよ。ミュウの報告でだいたいのコトは分かった」
声に振り向けば、教室の影からミュウミュウが顔を出した。手には拡声器のような、投影機のようなマシーンを持ち、それをこちらに向けている。
「いや、ミュウを責めるな。すべて私の指示だ」
ミュウミュウはなゆらに向かって頭を深く下げた。
「ナユ、そして彦丸殿、ふたりのコトを疑ってすまなかった」
「ホントにゃ!バカも休み休みの二連休までにしておくにゃ」
「うむ。そうするとしよう」
ふたりの会話がなぜ成り立っているのかわからなかったが、今はそれどころではない。
「……ええと……待つってナゼですか?時間がないのでは?」
「そうだ時間がない」
「じゃあナゼ?」
「いや、時間がないというのはこちらの世界の話だ。「まじか☆らんど」にまた危機が迫っておる。超非衝撃的思念派が接近しているのだ」
「超非衝撃的思念派?」
「地球で言うなら巨大隕石とでもいったところか。すべての欲望を消し去ってしまう恐ろしい思念波だ」
「欲望ねえ……」
「欲望とは、つまりはやる気のことだ。すべての人間のやる気がなくなれば世界は滅ぶ。それはおそらく地球でも同じ事だろう。だから一時この仮想空間に全「まじか☆らんど」国民を避難させたいのだ」
「なるほど……しかし……俺は、いや俺達は閉鎖空間に閉じ込められている。もしデスペルでこの状態を抜け出すことができなければ消滅してしまうんだろ?」
「ああ……おそらく、そうだ」
「じゃあ、どうしろと?」
「信じるのだ。仲間を、自分を、信じるのだ」
「そう言われても……」
「ヒコ殿、さ、さきほどは、と、とんだご無礼をいたしました」
ミュミュウが駆け寄ってきた。
「オマエも、俺も、なゆらだって一緒に消えてしまうんだぞ!」
俺は行き場のない怒りをミュウミュウにぶつけてしまった。
「行くのにゃ」
「どこに?」
「部室にきまっとろう」
とりあえず、ほかに考えも浮かばないので、俺は重い足取りで部室への道を急いだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「とりあえず作業をはじめましょう」
部室にもどった部長達はパソコンが起動することを確認すると、早速作業に移った。
「コードの書き換え作業はノジコさんにやってもらうとして、ガモ君サポートできる?」
「ああ、まかせとけ!」
ふたりは何か打ち合わせると早速コードの書き換えをはじめた。
「なにこれ?」
「ん?」
「これなんでしょ?私はこんなコード書いていない。というか文字化けしてる?」
順調に作業し始めたかに思えたが、途中でふたりの手がとまった。
「ああ~これは「まじか☆らんど」の言語ですな~」
画面をのぞきこんだダモンが口を挟んだ。
「それはマズイ、マズイですな」
先生が弱音をはくと。
「異次元同士の融合によりプログラムも融合されてしまったのね。ダモン通訳できる?」
沙耶華がそれに被せて言った。
「ハイ。もちろんです」
「では、ダモンさんに通訳、沙耶華さんに言語の書き換えをお願いできる?」
部長が指示をだした。
「ええ、やってみるわ」
「お嬢様。時間が惜しいので心に直接とり憑かせていただいてよろしいか?」
「……いいわ。おやりなさい」
部長は全体を見ながら指示をだし作業の調整を行う。ダモンが翻訳し沙耶華が言語を書き換える。ノジコが主となりコードを書き換え、ガモがそれをサポートする。作業は見事に分担されていた。
「ええと……ボクはどうすれば?」
三上先生が部長に尋ねた。
「そうね……先生は外の様子をみて報告をしてください」
「わ、分かりました」
作業は見事に分担されていたのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「ああ~ヒコ君。大変なんですよ~」
俺が部室に到着すると入り口に三上先生が見張りのように立っていた。
「パソコンが使えないの?」
「いや、それは使えて、みんな良い感じで作業してたんです……それが……」
ガラッ
俺が先生の話の途中で部室のドアを開けた。みなの手は動いておらず、虚ろな表情を浮かべていた。
「ど、どうしたんですか?部長」
「ん、ああ。来たのねヒコ君。まあ手詰まりよ」
いつになく自信がない雰囲気だ。
「ヒコか?最後オマエがやれよ。責任とってさ……」
ガモが嫌味を言った。
「気にしなくていいですよ先輩。ただ、あとひとつ、あとひとつなんですけどね……」
「ノジコ……みんな……」
「みんなはそれぞれ、与えられた役割を完璧にこなしたわ。実際、イベントの条件変更まであと一歩のところまで来ている。でも、もうダメね」
沙耶華さんが冷静に状況を説明をしてくれた。プログラムの修正はバックアップデータでしていて、それは完璧に出来上がったらしい。しかしそれを稼働中のプログラムに反映させるコトができない。マスターパスワードが変更されていたからだ。
「総当りで入力とかできないの?」
「それが出来たらやってるにきまってんだろ!」
「ヒコさんゴメンナサイ。こんなコトになるとは思わず、パスワードの入力は一回限り、それをミスると……プログラムが落ちるようにしてしまったのです」
「ということは……」
「まあ、入力をミスった時点で我々も終了でしょうな」
ダモンが冷静に説明した。
「うだうだ言っとらんと、やってみるんにゃ!」
「なゆ……」
「それはそうだけど……誰がやるか……なのよね」
カガリ先輩がそう言いながら俺を見た。いや、気づけばみんなが俺を見ていた。
「なあ、ヒコ。俺は別にお前を責めてお前がやれって言ったわけじゃないんだぜ?8桁のパスワードはおおよそ2兆8千億通りもある。はっきり言って、その組み合わせの中からランダムで選ばれたパスワードを一発で当てることなんて不可能なんだ。そんな偶然は……そう、あり得ないことなんだ。だからそれができるとすればお前しかない、そう思ってるんだ」
みんながガモの発言にうなづいた。
「彦丸さん。私はどんな結果になってもあなたを恨んだりしないわ。イロイロと、その……ありがとう」
沙耶華さんはまっすぐに俺を見て微笑んだ。
「本当は部長である私がやるべきなのでしょうけど」
「いいえ、プログラムを組んだ私こそ!」
「部長、ノジコさん。わかりました。顧問である、ぼ、ぼ、ボクがやりましょう!」
「先生だけはやらないで下さい!」
はっはっははははは……
みんなの声が合わさり、部室内に笑い声があふれた。
「ま、そーいうコトだから、いっちょ気軽にやっちゃってくれよ!ヒコ」
「分かった。だけど、一言だけ言わせてくれ。みんな本当にありがとう!」
「いっけぇーーーーいっ!」
一人だけ元気な、なゆらの元気な声に押されて、俺は何も考えずにパスワードを入力した。
ッパァァァァァアアアアア
真っ白い光があたりをつつみ、何も見えなくなった。
音もないままの振動が大きく体を揺らし、気を失った。




