なゆらフィーバー
「うい~っすぅ~~~!スケ丸!」
朝、騒がしい気配に目を開けると、目の前、つまりはベッドの上空から少女が見下ろしているのが見えた。
その少女は、どこかゲームの世界から抜け出てきたみたいな雰囲気でイタズラっぽい顔で笑っている。
「…………」
母さんの言うとおり、ゲームもほどほどにしなくちゃかな。目を覚ましても、こんなあからさまにキュートでフニフニしたヤツが見えるなんて……俺は正直そう思った。
「スケ丸~なにを呆けとるにょ?」
その少女は、中空に浮いたままクルクルと回った。
「おい、そんなことしてるとパンツが丸見えだぞ……つか、俺は彦丸だって言ってるだろーが!」
「はにゃ~ん。そんな小さきことで男子が怒るでない」
……イカンイカン。また幻覚相手に答えちまった。
俺の名前は七夕川彦丸。成績は中の中の中ぐらい。体は不必要に健康で、性格は良く言えば温厚、一般的に言えばヘタレ。趣味はゲームと読書(ただし絵が多いものに限る)という、どこにでもいるいたって普通の高校生だ。いや、だったというべきか?
今、見えている……そう、見えちゃっているこの幻影系少女は、自称「魔少女なゆら」。ひと月ほど前から俺の前に現れた……
何を隠そう俺の……
そう、俺の…………
妄想の産物だ
「なにをひとりでブツブツ言っておるのだ。キモイぞ」
「き、も……い?……」
「また、イヤラシイ妄想でもしとったんか?」
「い、やらしい!?」
「まったく!これだから近頃の若い思春期のサカリのついた日本男児はイヤよの~。頭の中はあんな、そんな、いや、こんな、そんな、いやもっとこう淫猥でドロドロっとした……お、オヌシ!そんなことを考えてたんか!!!」
「ダーーーーッ!どんな妄想してんだよ!そしてなんで顔を赤らめてる?」
病は気から、心頭滅却すれば火もまた涼し、俺は極力無視しようと思っていたが耐えかねて叫んでしまった。
「俺はもっと崇高な想いにふけっていただけだ!」
「せ、せいこう?ふけ?不潔?不純?異性?行為?????やはり……」
「おうおうおうおうおう!この薄らエロ生物!オマエの頭の中はそんなことでいっぱいなのか?どうなんだ!」
「そ、そんな……照れるではないか」
「照れるのかい!」
「だがしかし違うニョ~!ワッチは不思議の魔少女なゆらちゃんダ!」
いつの間にかにベッドの上に降りてきたなゆらは左の腕を腰にあて、右の手で天井の隅を指さしてポーズをとっていた。
「ふ~ん」
「オイ!鼻をほじくるでない!」
が、もちろん、そんなことに俺は興味が無い。
「で?」
「で?とはにゃんら?」
「で、そのエロエロ少女ユラユラちゃんはいつ俺の部屋から出て行ってくれるんだ?」
「この不束者が!」
「ええと……それって……不届き者?」
「それにゃ!こんなうら若きナイスバジーの乙女っぽい存在がいるというに、にゃんら!その言い草たるタルタルタルタルらわ!にゃ!」
なゆらは両手をブンブン振り回し、両足をドタドタと動かしている。が、床を蹴る音はしない。
「う~ん……だってオマエあれだろ?俺の脳内の創造物だろ?俺、知ってんだもん。オマエ、実在してないだろ。俺ってほら、意外にそういうのちゃんとしないとさ。ダメなんだよね~だから!はやく消えろ!っつーんだよっ!!!」
「親睦な!」
「……ええと……」
「心外だ。心外」
「オマエ……分かってて言ってんだろ?」
「はう?」
「なにを目をパチクリして誤魔化そうとしてるんだよ!」
「うにょ?」
なゆらは急に飛び上がったと思うと俺を倒してその上に飛び乗ってきた。
「なんで乗ってくる!そしてなんで重い!」
「ふひゃひゃひゃひゃ~ホレホレ!どうだ!気持ちヨイかにょ?」
なゆらは、妄想にしては妙にリアルで存在感があった。それにさわられている感覚や、重さを感じたりはするのだ。
が、こっちからさわることはできないのだ。
「オマエ、どこさわってんだよ!ヤバイだろ!ヤバすぎるだろ!あ~~~~もう俺の脳!やばい!末期だ末期!医者か?医者に行かないとなのか?母さん……父さん……悲しむだろうなあ……妹……は……まあいいか」
「妹?さっきからそこで見ておる幼女か?」
え?
あ!
う! そ!
あああああああああああああああああああああああああああああああ!
「こら!フミカ!勝手に開けるなと言っただろう!わかるよね?ね?ね?お兄ちゃんの言うことわかるよね?」
中学一年生の妹フミカは、しばらく無言のままじぃ~~~っとコチラを凝視したあと、ボソリとつぶやいた。
「キモ……」
「あ……ああ……あああ……だよね。そうなるよね。だってコイツ俺以外には見えないんだもん。それに確かにナイスバディで、可愛くて、エロくて……でも俺からは一切、触れないという!俺のような健康優良思春期系青年には絶対にあってはならない存在なのだよ。マックス君」
「マックスって誰ら?」
「お前が来る前の話し相手だよ!お前みたいにエロくもないし、やたら喋ったり、触ってきたりしない相棒だ!」
「ああ~犬のぬいぐるみか?おヌシ……そんな趣味が……」
「ない!一切ない!オマエ、今妄想してる部分は脳内から即、消去しろ!いいな!?即だぞ!」
「ママーお兄ちゃんが変なことしてる~」
妹はリビングに降りていくなり、一片の迷いもなく母親に報告した。
「変なことって……オイ」
「フミちゃん!お兄ちゃんはほら、そういう年頃なんだから近づいたら危ないっていってるでしょ」
つづいて母親の声も聞こえた。
「あ、危ないって……」
「ちょっと!お父さん、なんとか言ってよね!私じゃわからないんだから!もう!気持ち悪い……」
「え!か、母さん?……聞こえているよ?その会話……ぜ、全部筒抜けなんだよ?日本のこの狭い住宅事情知ってるよね?ね?ね?ね?」
仕方がないので俺は、なゆらをはねのけて行こうかと思ったが俺の腕は空を切った。やっぱりさわれない。一方通行なんだ。
「妄想じゃないとしたら幽霊か?朝っぱらから幽霊ってのはないか」
俺は自分に話しかけながらリビングに降りていった。しかし、少し前までは、そこにあった家族の朝の団らん風景も今は無かった。
母さんは俺と目を合わせたがらないし、妹はなにか汚いモノでも見るよ~な目で下から睨みつけてくる。前までにーさま!にーさま!ってなついてきたのにだ!まあ、アレはアレで中学校生にもなってどんなもんかな?と思ってはいたけれど……そして父さんは父さんで母さんと俺の間のトラブルに巻き込まれたくないみたいに新聞でずっと顔を隠していた。
「オハヨーかあさん……」
「おはよう。今日も暗いわね。ほら父さん!ちゃんと言ってよ!」
「お、おう。おい彦丸。お前、ほどほどにしておけよ!」
「な!何をだよ!もう!知らねー!!!知らねーからな!」
結局なんの言い訳もできないままリビングを飛び出した。
「チキシヨー、今日はベーコンエッグだったぞ!また食いそびれた!」
「ん?どうしたにゃ?なぜ泣いておる」
部屋に戻ればまだ、なゆらが見えた。まだ見えていた。
「うるへー!だいたいオマエはなんなんだ!俺の妄想じゃないのか!」
「オマエではにゃい。なゆらら」
「はいはい。で、そのナヨラーちゃんはどっからやってきたのかな?」
「おヌシは何者でどこからきたんにゃ?」
「それは……」
「おヌシは自分で分からんことをひとにきくんかい!ボケタンが!」
「ぼ……けたん?」
「だいたいが、おヌシにワッチの辛さがわかるにょら?こっちからは相手は見えるのに、相手からこっちは見えない。こっちからは触れられるのに、触れてはもらえぬ。話は聞こえど、話しかけられにゃい……」
「そ、そうか、そうだな……それじゃあまるで透明人間だ……」
ぐっ!
「おいどうした!なんで鼻血など流しておる!お、おヌシ、また妄想か!言え!何を妄想した!」
「そ、そんなことはない!」
「いいやホレホレ!カラダは正直よのう~こんなに固くなっとるにょ」
「そ、それはしょうがないだろう!お前が来てからというものナニもできないんだから!」
「お?ナニ?オ○ニー?すればよかろうもん。ほれしろ!やれしろ!すぐにしろ!ヤリ出せ!ツノ出せ!アタマ出せ!いますぐここではじめるのだ!ワッチがよ~く見ておいてやろうではないか!」
「こっそりヤりたいんだよ!オ○ニーは!」
「お……にいちゃん……」
「あ!フミカ!」
気がつけばフミカは涙さえ浮かべて走り去ってしまった。たぶん、朝ご飯くらい食べなよ!って言いに来てくれただけなのに……
「フミカ……悪い……悪いお兄ちゃんを許してくれ……」
最近じゃあいっつもこんな感じだ。二日に一日は朝メシも食えない。何より、家族の俺に対する目はかな~~~り重度に、スーパー厳しくなっていた。
なゆらが来てからというものの…………




