バーチャウェディング
「はっ、お、おいっすぅ~~~ヒコマル!きょ、今日は早いにゃ」
家に帰ると、なゆらの様子が変だった。まあ、いつも変なワケだがいつもと違っていた。俺の姿を見るや何かを隠すような動きをしたのだ。
「なゆら!オマエなにか隠したな?」
「うにょ?」
「うにょ?じゃねーよ!どけ!」
「はにゃ」
「あ!なんだこれ!え?えええええーっ?いや、何これ?」
なゆらの隠していたのはパソコン画面だった。なゆらをどかす……ことは出来ないので、そのままカラダをすり抜けるとパソコン画面に「まじか☆らんど」の画面が開いていた。教会?での結婚式のようだった。しかも……
--汝、ピコは、ナユを永遠に愛することを誓いますか?--
ピコ:「…………」
--汝、ピコは、ナユを永遠に愛することを誓いますか?--
ピコ:「……ちかいます……にゃ」
なゆらは器用にも後ろの手でキーボードを打った。
「オイ!なんだこれは?って聞いてるんだよ!」
「結婚式にゃ」
「そりゃ見りゃ分かる!が、なんで俺のアバターとオマエのアバターが結婚式してるんだって聞いてんだよ!」
--汝、ナユは、ピコを永遠に愛することを誓いますか?--
ナユ:「はい!にゃ!」
「ってオイ!オマエ人が話している隙になんてことを……」
「嫌にゃのか?」
「いや、嫌とかそういう以前に、てか嫌だけど……」
そう、確かにオンライン上でバーチャル挙式する人がいる、という話は知っていたし、「まじか☆らんど」でもやってる人がいるという話も聞いていた。しかし、俺はあまりそういうのは気が進まないというか、変じゃね?って思ってたのだ。いや、まあ他人がどうしようが、あまり興味は無いんだが「自分でやることは絶対無いな」そう思っていたのに。
--ピコとナユをマジ夫婦と認めます。リングの交換をしてください--
俺は目の前で自動展開される、リングの交換からはじめてのキスのシーンをなすすべもなくぼんやりと見ていた。そんな気の抜けた俺のことを察して、なゆらはしきりに謝りだした。
「ご、ゴメンナサイなのにゃ。このサンマジカロ教会のことを知った時、どうしてもやりたくなったのにゃ!許すにゃ!許してくれろなのにゃ~~~」
「や、ま、まあ、いいけどさ」
大きな瞳に涙をためたなゆらを見たら、俺は何も言えなくなった。それよりもちょっと悲しかったのは……
「てかさ。だったらなんで相談してくれなかったんだよ。いつもなんか俺が好きみたいなこと言っててもなんか信頼されてないっていうか、そんな気がしてちょっと悲しいっていうか……」
「ご、ごべん、な、ざ……い……」
なゆらの瞳から大粒の涙が溢れだした。
「い、いや、そんなつもりじゃないんだよ。ただちょっと寂しかっただけだよ」
えっぐ、えっぐ、えっぐ……
なゆらにとって、信頼されてないって言われたのは相当にショックだったようだ。顔がクチャクチャになっているのも構わず泣きつづけている。
「だ、だって……ヒコは、あ、相手してくれないから……でもワッチは、あ、あんな、愛情表現しか、できないから……ゲームでくらい……って、お、思って……ゲームでなら、いいかな?って……そう、思って……」
たしかに俺はなゆらが妄想じゃないと分かってから、どう対応したら良いか分からず、知らず知らずのうちに避けていたのかもしれない。妄想でないなら、話し合うことも出来たはずだ。大嫌いなら、そう言えばよかっただけだ。いや、実際には大嫌いなんかじゃない。いつもそばにいるのが当たり前になって気づかなかったけれど……俺はなゆらが好きだ。その感情を現すのがなんとなく怖かっただけだ。結局、逃げてたのは俺の方なんだ。
「ゴメン。分かったよ。俺が悪かった。いや俺のほうが悪かった」
「ゆ、ゆるぢて、く、くれるにょか?」
「ああもちろんだ、いっしょになろうゲーム内だけでもさ」
えっぐ、えっぐ……
「ほら鼻を拭けよ」
さらに大量に溢れでる涙をみかねて俺はなゆらにティッシュを手渡そうとした時……
「え?」
「んにゃ?」
「ええええええええ~~~っ!」
なゆらの頬に手がふれた
涙が俺の手の上に落ちた……
頬に手を置いたまま頭の整理ができないでいると
「う、嬉しいにゃ~~~!」
なゆらが飛びついてきた。俺の胸の中に。俺は恐る恐るゆっくりと背中に手を伸ばし、抱きしめた。やわらかい弾力ときめ細かい肌の手触り、ほんのりと温かい体温が伝わる。
「さ、さわ、さわれる!」
「本当にゃ!さわられてるにゃ!もっとさわるにゃ!ほら、こんなところも!あんなところも!ここだって!さわられるにゃ~~~~!」
「お、おい!き、気持ちいいからやめるな!じゃなかった、やめろ!」
「なんでやめるんにゃ!これでなんでもデキるではにゃいか!」
「な、なんでもって……」
「体中さわられるにゃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!」
「ってバカ!やめろよ!」
なゆらが突然窓を開け、外に向かって大声で叫んだ。
「んぐっ、あにごすぬにゃ」
口を抑えたが、今にも暴れだそうとしている。
「彦丸~~~~!あんた何してるの!へんな声がするけど何?ヘンなビデオでも見てるの?もう!いい加減にして!」
一階から母さんの声がした。
「…………」
「……」
「なるほど、さわれるということは、誰にでも声も聞こえるってことか?ってことはもしや……姿も見えちゃうのか???」
「試してみるにゃ!」
「お、おい!やめとけよ!空も飛べないかもしれないぞ」
「へ?」
ドッシ~ン……
言うや早いかベッドから飛び上がったなゆらは、そのまま俺の上に落ちた。
「ひ~~~こ~~~ま~~~る~~~!!!」
母さんが二階へ上がってくる音がする。
「ま、マズイぞ。絶対に母さんにもなゆらが見える。どうする?どうしたらいいんだ?ととと、とりあえず、なゆら隠れろ!」
「なんでにゃ!ご挨拶しなくちゃにゃ!」
「せんでいい!」
ガチャンッ!
嫌がるなゆらを寸前のところで押入れに押し込むと同時に母さんが入ってきた。母さんは部屋を見渡したあと、パソコンの画面をみつけると呆れたように叫んだ。
「こんなことしてるから変になるのよ!」
モニター画面にはさっきの結婚式のシーンがクライマックスに突入していた。ブーケトス、ライスシャワーとなり、最後は二人がオープンカーに乗って去っていった。
「それにしても、なにか怪しい声がしたわ。誰かいるんじゃないでしょうね?お母さんに黙って連れ込むとか承知しないわよ!」
そして家探しが始まった。
「そこどきなさい!」
俺が腰掛けていたベッドの布団がちょうどくるまっていて、人がいるようにみえた。
「い、いいけど、だ、誰も居ないよ」
バッ!
もちろんベッドの中には誰もいない。が、なにか確信めいた予感があるのか部屋を探しつづけている。タンスを開け、机の下を見て、押入れの前に立った。
「か、母さん、そこを開けたら最後だよ!俺は居ない!って言ってるのに信じないっていうのならこれで最後だからな!」
焦った俺は脅すようなことを言ってしまった。こういうのは母さんの神経を逆撫でるだけだというのに。
ガラガラガラーッ!
押入れの中には押し込んだままの四つん這いのポーズでなゆらのお尻が見えていた。
「終わった……」
俺はそう思った。が
「ゴメンナサイね。母さんの思いすごしのようね。それでも彦丸。最近あなた変よ。そういう時期なのかもしれないけれど、その……変なサイトとか、変なゲームとか、あんまりしないでね。そして、なにかあるなら相談してね」
「あ、ああ。分かったよ」
なゆらは母さんの目の前にいるのに、母さんは気づかないようだった。それに、母さんはうるさいだけじゃなく、俺のことを心配してるんだって思い知った。なんとなく、なゆらのことを相談もしないのを申し訳ない気がした。
「俺の方こそゴメンナサイ」
「ううん。じゃあ、ご飯の支度してくるわね」
やさしい顔に戻ると母さんはゆっくりと一階に降りていった。すると、後ずさりしながらなゆらが這い出してきた。
「母さんには見えなかったのかな?」
「ワッチからも見えなかったのにゃ!」
「そ、そりゃあ、頭隠して尻隠さず状態だったからな。でも、なぜだろう?」
「これを見たからじゃないのきゃ?」
なゆらが押入れの上段からなにかを取り出しながら言った。
「ほほう~ヒコはチチが大きいオナゴが好きなのきゃ?こんな風に?」
なゆらは胸を両手で持ち上げると上目使いでコチラをのぞき込み、舌をペロんっと出して笑った。それは、よく見覚えのあるポーズだった。
「あっ!ああああああああー!」
押入れには封印していた禁断の絵巻が姿を見せていた。
「そうか……母さんはこれを見て、他のもの……たとえばなゆらが目に入らなくなったのか。よかった……いや、よくはないが……よかった……のかな?てか、オマエ!そのポーズやめろ!目、目に、わ、悪い……」
「にゅぅ~。ちゃんと、不確か者ですが、なにぶんよろしくお願いしますって言いたかったのににゃ~」
「おい。話を聞け!てかそんなこと言えなくてよかったよ」
「なんでにゃ!」
「いや、だって不確か者とか言ったら、ただでさえややっこしくって俺でさえ理解不能なのに母さんが混乱するだけだろーが!」




