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衣替えの季節(シーズン)

「おはよ~」


 朝、早くに目を覚ました俺は、いつもより早くリビングに降りていった。

 母さんがキッチンの向こうで朝食の準備をしている。


「あら、おはよう。今日は早いのね」

「ん、ああ~そか、まだこんな時間か」

「昨日何かあったの?顔色がスッキリしないみたいだけど」

「い、いや。別に何もないよ」

「そう?ならイイけど、今日は朝ごはん食べていけるわね。ハイどうぞ」


 今日の朝ごはんはスクランブルエッグだった。


「オハヨー……あ、に、にーさま?」


 俺が食べ終わった頃フミカが降りてきた。そして珍しいものを見るような目で俺をジっと見ていた。


「じゃあ、そろそろ行くよ」


 そんな空気に耐えかねて俺はまた早目に家をでた。


「あ!待つにゃ~!置いてけぼりとはヒドイにゃ~~~~!」

「誰も連れてくとも、置いてくとも言ってねーよ!」

「このイケズにゃ~~~」


 なゆらは二階の窓をすり抜け飛び上がると、一足先に玄関を出ていた俺の上に降ってきた。


「あ、バカ!見えてるぞ!」

「エッチ!」


 思わず俺は目を閉じた……が、衝撃はなかった。おそるおそる目を開けると、俺の頭の上に乗っていた。


「オマエなあ、人間らしくするならする。しないならしないでハッキリしろよ」

「なんでにゃ」

「そ、それは、困るからだろう。例えばオマエが崖から落ちたら助けるべきか、助けないべきか迷うだろーが」

「助ければよかろうもん」

「ええい!頭の上から降りろって言ってるんだよ!オマエのように非常識を繰り返すとこっちの頭までおかしくなってくるだろ!」

「あい」


 素直に頭から降りた……と、思いきや肩に座った。


「ま、まあそれなら常識的にできる範囲だからな」


 何が常識か分からなくなっている気もしたが、とりあえずそのまま学校へ向かった。


 ブロロロロ~ン


 学校への道を歩いていると後ろから車がゆっくりと近づいてきた。沙耶華さんの車だった。俺は気まずくて前に向き直って早足で歩いていった。


 キキ~ カチャ


 車は少し前方に進んで停まると、ダモンが降りてきて後部座席のドアを開いた。


「どうぞお乗りください。タナガワ様」

「なんでだ?」

「お嬢様のご指示です」


 車内を覗きこむと真っ直ぐ前を見ていた沙耶華さんがこちらに顔を向け微笑んだ。

「さあお乗りなさい。最後のレッスンよ」

「は、はあ」


 沙耶華さんに言われれば断ることもできず、俺は車に乗り込んだ。革張りのシートはおそらく特注だろう。ウチのリビングのソファーより座り心地がいいシートだったが、寄りかかるのも気が引けて借りてきた猫のように座っていた。


「ワッチも乗る~~~~」


 と飛び込もうとしたなゆらだったが、あっけなくダモンに首根っこをつままれた。


「何をするにゃ!アホダモン!」

「申し訳ございません、なゆら様。しかし、今回だけはお控えください」

「にゅぅうううう~~~!!!なんでにゃ!ワッチは我慢が一番キライにゃ!」

「まあ、すぐそこ。学校に着くまでの間です。その間は私が御相手いたしましょう」

「おヌシはもっとキライにゃ」

「…………」


 そんなダモンとなゆらのやり取りを後に聞きながら車はゆっくりと滑りだした。


「ええ……と?」

「なにか不安かしら?」

「いえ、そんなことは……ありますが……なぜですか?」

「あのあと私も考えたのです。そして決めました。少し自分に正直に生きてみようと」

「は、はあ…………」

「心配しないで。彦丸さんの件は件で対処します。完璧にね!」


 車は徐々に学校に近づいていった。そして裏の通り。いつか沙耶華さんとはじめてあった場所に近づいた。そして……通り過ぎた。


「あれ?ここで降りるのではないんですか?」


 当然、そこで車が停まるものと思っていた俺は驚いた。


「いいえ。このまま学校までゆくのです」

「え!」


 沙耶華さんの言ったとおり、車は正門を抜け校舎正面に停車した。もちろん、すでに登校してきている生徒がたくさんいて、入ってきた高級車の方を振り向いた。


「彦丸さん。ダモンがいないので、アナタがドアを開けて私を下ろして頂戴」

「は、はあ。それはいいですけど……いいんですか?」

「何がですか?」

「そ、その~、こう、噂になりますよ?」

「迷惑?」

「や、俺は迷惑なんてないですけど……」

「でしたらお願いします」

「そうですか……分かりました」


 カチャッ


 俺が車から降りると俄然注目の的になった。俺なんかがこんな高級車から降りてくるワケがないということだろう。そのとーりだ。しかし、問題はそれからだった。俺は視線のプレッシャーに耐えながら車を回りこむと沙耶華さんのいる方のドアを開けた。

 さながら芸能人が降りてきた時ように、生徒たちが周囲を取り囲むと瞼のフラッシュが激しくまたたいた。沙耶華さんは、やはり優雅に車から降りると手を俺の前に差し出した。沙耶華さんに受けた講義のせいなのか、俺は思わずその手をとってしまった。


「よろしい。彦丸さん、さあ行きましょう」

「はい」


 俺は沙耶華さんの手をとったまま教室へと向かった。もちろん、生徒たちは「信じられない」といった目つきで俺を見ていたが、なぜだろう、沙耶華さんと一緒であれば、周りの目を気にすることなく胸を張ったまま歩くことができた。


 ◇◆◇◆◇◆◇


 遅れてなゆらとダモンが学校への道を歩いていた……


「もう!歩くのって疲れるのにゃ!」

「はは。そうは言いましても、もし仮に契約などなされたら、ずーっと自分の足で歩かなければならなくなりますよ」

「そ、そうにゃのか……」

「もう諦めて帰りますか?」

「その手にはのらにゃいな!一度、契約により転界テレポンした者は契約が果たされるまで戻れないことくらい知ってるにゃ!」

「ほほう……では、なゆら様は何を条件化ロックしたのでしょうか?」

「探りを入れても無駄にゃ。おヌシは自分の条件がなんなのか言えるのか?」

「いやはや、これは手厳しい。契約による転界テレポンでは、契約内容を①言えなくなる。か、②忘れてしまう。か、いずれかを条件化ロックしなければならない。もし①の言えなくなるを選んだ、ということを他者に告げたなら、もしかしたら二度と「まじか☆らんど」に戻れなくなってしまいますからねえ~~ほっほっほほほ」

「お、おヌシ、そんなこと考えおったのか」

「え?なゆら様……もしや、お気づきになられていなかったとか?これはしくじりましたな。が、まあいいでしょう。ほら、そろそろ学校に着きますぞ」


 学校ではちょうど彦丸と沙耶華が手を取り教室へ向かうところだった。


「おヌシ。何をした?これをワッチに見せたかったのか?」

「はて?なんのコトでしょうか?さあ、それでは私はコレで失礼しますよ」


 そう言うとダモンは動き出した車に吸い込まれるように乗り込み、走り去ってしまった。


「ダモンめ何を企んでおる。たんにワッチの邪魔をしたいだけとも思えんがの。しかし、やはり、ダモンのヤツ考え違いをしておるにゃ。ワッチから転界したのではにゃい。ワッチはヒコに喚ばれたんにゃ。あの日の盟約に従って…………」


 ◇◆◇◆◇◆◇


 その日、学校は沙耶華さんと俺の噂話で持ちきりだった。それでも沙耶華さんが関わっているので、あからさまに声を出す者はなかった。それに前のように俺を避難するような雰囲気でもなかった。そうしてやがて俺の称号が決まった。マレ王子だ。普段はどう見ても冴えないが、あの時、沙耶華さんと歩いた時だけは堂々として見えたから、という事らしい。まあ、ヘンタイと言われるよりはマシ……なのか?



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