ファッキンなヒゲ
なんとかゾルに打ち勝ち、その後魔物と遭遇する事なく街の南城門前にたどり着いた時には、俺の気力体力は底を突き抜けていた。
「寝たい。帰って寝たい、死にたい」
呻くように口の中で呟きつつ、足を押し出す感じで無理矢理歩く。
その俺の肩に手がかけられてビクッとしてしまった。
「な、なにスカ?」
手の主は門番の男。
30代くらいだろうか、ちょびヒゲの細いオッサンがニヤついた目で俺を見ていた。
なんじゃこのオッサン。
「少年、見ていたぞ!
実に素晴らしい戦い!
なんとも猛々しいスキルであった!」
は?
見ていた?
「・・・・・え?」
「ゾルを2体相手取っての見事な立ち振る舞い、そしてあの不可思議かつ心躍らせる咆哮スキル!
ワシもスキルの【鷹の目】で見ておったが、駆け出しとは思えぬ実に見事な戦闘であった!」
咆哮・・・スキル?
あ、
あの。
雄叫びの事で?
アレはスキル違うって言うか、え?
見られて。。。
「しかしあの咆哮、いったい何と言うスキルぞ?
効果は状態異常耐性、いやさ、よもや肉体活性系か?」
俺が硬直の状態異常に陥っている間に、止める間もなく門番の右腕が俺の首にかかったカード、すなわち国民証を掴んだ。
「な・・・?」
【トラストリア帝国/国民証明証】
名前/ムサシ・ヤオマ
人種/ドーリアン
職業/冒険者
レベル/7
パッシブスキル/無し
アクティブスキル/無し
「あ〜ぁ」
もはや投げやりになって呟くと、今度は逆にオッサンが硬直した。
秘技、硬直返し!
なんてな。
「少年、コレは、、、」
オッサン。
これがどういう事なのかってのは、俺が1番聞きたい事なんですよ?
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この世界、人の強さはレベルとスキルによって決まってくる。
レベルが高ければ高いほど、
スキルが優秀なら優秀なほど、それは本人の戦闘動作や思考回路に直結して戦闘力を底上げする。もちろん、中にはレベル差が10もある相手に勝利を掴むような天才も稀にはいる。居るが、あくまでもソレは例外だし、その場合でも才能が違うというか、
大概そのレベル差で勝利を掴むような存在はスキルが異常に多かったり優秀だったりする。
そう。
優秀なスキル保持者なら冒険者なんて職業を得る以前に。
それこそ12歳になり、国民証明証を得るよりも幼く、産まれてすぐにでも5個とか6個とかスキルを発現する事があるらしい。
もっとも、冒険者として国民証を改訂した時点ではスキルを所持していない人もいなくは無い。
いなくは無いんだけど、レベル7にもなってスキル習得が皆無なんて人の存在は聞いたことがないし、ギルドの初心者講習でもそんなアホな話は有り得ない。と講師が笑っていたおりましたとも、はい。
格上のゾル2匹を倒して、そう言えば俺ツヨクなったんぢゃね?
レベルアップしてスキル習得して、俺ってこれウハウハぢゃね!?
とか思ってさ、
るんるんるんるん言いながらカードを覗き込んで死にたくなった俺の気持ちを察しろ。
察しろよこのちょびヒゲぴろりがぁぁぁぁぁぁぁ!!
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思わずちょびヒゲの鼻に指フックをかましそうになった俺の狂気を感じたのだろう、オッサンは俺の国民証から手を離して後ずさった。
「その、少年。すまなかっ・・・いや、ご、ゴメン、なさい?」
もぉいいよ。
「気にせんで下さい」
とにかく、俺は疲れたんだ。
そんな訳で、俺はギルドへ向かった。