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平原でお仕事

気を取り直すために甘いものが欲しかったけど、

これ以上ツケという名の借金を増やすのが心苦しくて、我慢しました。

そんなわけで街の南。

馬鹿デカイ城門を抜けた先の平原(というか草原)でお仕事初めです。

仮にも平原というだけあって見渡す限り大地は起伏に乏しく、繁る草の丈もスネ位の長さが多いように見える。

聞いた話だと草丈が高い所には薬草が生えている事が多いらしい。

そんな訳で、人と馬によって踏み固められた街道を逸れて俺は草原へ足を踏み入れた。

「とりま(とりあえず、まずは。の略ですよ?)、薬草収集と行きますか?」

目算で20歩ほど先に、腰に届く程度には生えそろった草むらがある。薬草のギルド買い取り価格は品質にもよるが、だいたいは一本100ゼニー程らしい。今日のナイフのレンタル代が5000ゼニーなので、最低50本の収穫は必須。

あと、宿代のツケはこの3日間で6000ゼニー(食費別)になっている。

1日で2000ゼニーは都市部にしては低料金だけど、部屋はブタ小屋と評されるレベルだ。

ま、ツケで泊まれるだけ有り難い。けど、それでも1日2000は痛い。

よくよく探せば1日900ゼニーの宿もあったけど、ソッチは流石に怪しいし、なによりツケが効かなかったので断念した。それと毎日の食費、朝昼夕をそれぞれおむすび一個で我慢しても単純計算100ゼニー×3で300ゼニーは出ていく。

ギルドへの登録料だってツケだからいずれは払わなきゃならないし・・・と。そんな事を考えると無償に叫び出したくなるっすよ、割とマヂに。

ま、見た範囲でもちらほら駆け出し冒険者っぽい人達の姿があるから我慢しますけどね?

居なけりゃ喉が裂けるまで叫びたい心持ちでごわす。

「う〜っし。ヤルか」

無理矢理気合いを入れ直して進む。

背が高く、茎の太い雑草を掻き分けて薬草を探すと、草むらの奥に一点、淀んだ七色の光が見えた。

「あ」

それは魔石の光。

やべぇと思った時には魔石に命が宿った。

腰のナイフを抜き放ち、突き刺す。

魔石を核とし、瞬時に肉体を形成してこちら側の生命として己を再生する。

異界の生物、幽鬼ベースヘッドの頭部に俺の先制攻撃が突き刺さった。

『ギュォォォォォォ!』

ナイフを突き刺されたまま、幽鬼が叫ぶ。幼児が水色の粘土で人間を形作れば、それが幽鬼ベースヘッドだ。

俺の胸下ほどの背丈の2等身。

そのイビツな人型が俺に牙を剥いた。

胴体に食いつこうとする牙を、左腕で受ける。

「痛っっっっっっってーなクソがぁ!」

激昂するより恐怖が勝る。

だが、敵に完全に呑まれてしまえば死があるのみだ。

冷静に思考する己の中の一部を支えにし、脆弱な自分の心を押さえ付けて攻撃した。

「死ね!死ね!死ね!!」

1撃2撃とナイフを振り下ろす。

もともとこの世界に生きている生物と違い、魔物はその生命を魔力でもって維持している。

そのため、例え急所を攻撃しようとも、敵が肉体を再生するだけの魔力を保持する限り、そこに死は訪れない。

急所の修復にはそれだけ多くの魔力を消費するとは聞くが、これだけ頭にナイフを突き刺しても死なないとかっっっっ。

正直泣きそうになる一歩手前で、ようやく幽鬼の魔力が尽きた。奴が恨めしそうに鳴きながら姿を消すと、そこには光を弱めた魔石が転がっていた。

「痛ぇー」

骨までは届かないにしろ、肉はズタズタにえぐられているようでハンパなく痛ぇ。

ナイフをその辺りに放り捨て、見本として貰っていた薬草を左腕の傷口へ擦り込む。

俺の血液と、傷口から流れる落ちる魔力に反応して瞬時に薬草が溶けた。

それからホンの一拍。

まだ鈍い痛みはあるものの、一応出血は止まったし、触った感じも少し牙の跡が凹みとして残っているくらいだ。

薬草貰ってて良かった。

「あ〜。死ぬかと思った」

正直、俺は戦闘力が低い。

昔から怪我とかしやすかったし、力も弱かったから大体想像がついていたけど、最下級に分類される8級相手にこれだけ手こずるとか・・・。

改めて冒険者と言う職業が俺にとってどれだけ鬼門かを再認識させられた。

俺の義理の兄などは消息不明になる前、一人で6級相手に勝ったとか言ってたから、いくら俺でも8級に分類される幽鬼相手ならなんとかなるかな?

って思ってたんだけどなー。

水筒(これもレンタルです)の水で左腕に纏わり付く血液をサッと流してナイフを拾い上げた。

気持ち悪いし、ホントはキチンと洗いたいけど、今は水も時間も無い。それに、いつまた魔物が襲い掛かってくるかわからないからな。

ナイフを握ったまま、右手の指先で魔石を拾い上げ、ナイフをレンタルした時、おまけで支給された魔石専用のポーチに入れる。

魔物が授肉(魔物の存在する精神世界から、俺達の居る物質世界に干渉するために肉体を得る事を指す)するための条件は3つ。

1つ・魔物の持つ高純度の魔力と授肉の意思。

2つ・授肉の核となる魔石の存在。

そして3つ目が世界を取り巻く魔素。

魔素には濃度があり、地域事にその濃さが違う。

濃度の違う魔素は互いに反発する性質を持っているらしく、人間が街を興せるのは魔物が授肉出来ない低濃度の魔素地帯で、そうした魔素濃度の低い場所では1と2が揃っていても魔物は授肉出来ない。

このレンタルポーチの中は低濃度の魔素に満たされているため、ここに魔石を入れておけば危険が無い。

ま、この魔石は層魔とか言う魔物の受肉に必要なエネルギーをさっき使い果たしたから、ほっといても1日は平気だろうけど。

ちなみに魔石は人間の生活の至るところで利用されるため、こんな低級の石でも1000ゼニー程度の価値がある。

あるけど、

「これで1000ゼニーとか、割に合わねぇっす」

俺、泣いてもいいのかな?

とか思っちゃったですぜ。


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