冒険準備
冒険者デビュー以外に選択肢が無かったのも事実だが、
俺は意外と騙されやすい。と言ったら語弊があるかな?
何と言うか『あの担当さんは大事な事を一つ言いませんでした。冒険者の未来です』みたいな感じ。
あの時点で冒険者になり、ギルドに加入している宿をツケで利用出来たのは良かった。
初日は馬車旅の疲れに加えての大騒動。
そこからようやく宿を得て今後の展望がひらけた。
そこで気が抜けてアッサリと爆睡。
翌日はギルドに呼ばれていたので初心者講習と基礎修練でゴッテリ絞られ。
三日目にしてようやく自由時間。
さてさて、馬鹿な冒険家業には早々に見切りをつけて飲食店の面接へ行きますかな。
小綺麗になったボディーに、同じく洗濯済みの一張羅を身に纏いいざ面接。
が、行けども行けども門前払い。
数軒回った先のファーストフード店で、エラ顎が凄い感じの店長がレクチャーしてくれた。
「あのな坊主?お前さんが店の責任者だとして、
緊急クエストが発令されたら、嫌でも死地に赴く事が決定してる人間を、わざわざ雇って育てようと思うか?」
「 」え?
ってなもんですよ。
「いや、そんな金魚が泡吹いた様な顔されても困るぞ?」
「や、え?緊急クエスト?」
「お上に睨まれるのは面倒だが、見て見ぬフリも好きじゃない。
いいか?お前さんは知らんだろうが、冒険者ってのは緊急時には拒否権無しで命を落とすような命令を下される時があってな?誓約書にはその事もちゃんと買てある。
金も持たずに街に来る田舎、あーっと。ま、村?の若い衆には他に働ける場所なんて無いからな。
一から説明せずにギルドに登録しちまうのは時間の節約として黙認されてるんだよ」
「え、えと、つまり要約すると?」
「普通の生活は諦めて、死なない程度に冒険しろって事だな」
「く、クーリング・オフは?」
「無いな。最低1年は冒険者資格を返上出来ない仕組みだ。
ま、頑張れ。そして俺の店で飯を食えるように稼ぐんだな」
「ま、待って!?ほら、石を右から左に運んだり、ドブ掃除したりとか、肉体労働系は?」
「それも無い。
お前さん、この街にどのくらい冒険者が居ると思ってる?割引やツケ払い、冒険者として最低限の職務さえこなせば、あらゆる点で生活が優遇されるんだ。
その利点を活かしてのらりくらりと街中冒険者してる中年連中が非公式な組合作って独占してる。
残念だが、お前さんみてぇな坊主が入る隙間は無いんだよ」
衝撃的なお言葉から判明した自分の人生の失敗に頭が追いつかない。
俺は形ばかりのお礼を述べてフラフラと店を出た。
「おっと、そうだ」
ドアから顔だけ出した店長が言う。
「ツケは貯めすぎるなよ?
戦場送りにされるぞ」
「は、はい」
そうして、俺の冒険が始まった。