ムサシ
俺の名はムサシ。
就職先が無くて成りたくもない冒険者になったのが3日前。
今は後悔している。
そりゃ俺だってガキだった頃は冒険者ごっこして遊んだりしたさ。
桃の花ピチ太郎ごっこで東オーガ列島のオーガBとして活躍したり、
ゴールデンボーイごっこで王獣林のサウンドベアー(の下半身)として馬の稽古に引っ張り凧にされたり、
裏史股老ごっこで股老を朱海へと導くカメックヌの右後ろヒレとして、他に類を見ない独特な動きっぷりを評価されたりと、
とにかく冒険ごっこは一通りした。
けどな?
それはガキの頃の夢物語。
俺だって今年で16。
やれ冒険者だ一攫千金だ。
俺の強さはチョモラ山!
ガッポリ稼いで豪遊出来る!あぁ素晴らしき冒険生活。
そう謳いながらいつの間にか酒場で姿を見なくなる(自称)凄腕冒険者グループ。
そしてそんなアフォに釣られて消息が途絶えた幼なじみや血の繋がらない兄貴、などなど。
そんな人々を見てきた結果として。
出来ることなら、楽して稼げて生活も安定してて、空にお天道様があるうちに働ける、心身共に健全で人間関係に悩まされる事も無く、日々充実した仕事につきたいと思うくらいにはなったさ。
けどな?
ま、何と言うか。
血の繋がらないアホクズ親父が村の酒場を経営してるお陰で、村には俺の就職先は無い。
アレがどんなアホクズかというと保身能力に長けたゴキブリって感じか?
ネズミと一言で表現するのもアリだけどな?
ハムスター並にやる気が空回りして周囲(と言うか主に俺)に迷惑を振り撒き、
保身に関する熱量の激しさと、無駄に隙の無い言い訳の嵐。
触れれば噛み付く糞ネズミとして村の中では有名で、
村長を含む村全体に放置された暴走特急。
関わられない=己が正義。
自分の正しさを盲信する生粋の自分信者。
そんな悲しい脳みそを持つ男の『義理の!』息子。
そんな奴に関わる人は居ませんよ。
てなわけで、シコシコ金貯めて村から遠く離れた街、第33帝周国パミルへと向かった。
ここは帝都トラストリアの遥か南西に位置する中規模都市。
周国とは名ばかりで、実は敵国との紛争地帯に接した重要防衛拠点の一つだったりする。
7才頃から酒場で働いた経験を生かして、武芸全般と無縁の職を希望しつつ訪れた第33帝周国パミル。
初めて見るお街の城壁に圧倒され、
「おぉぉ!城門デッケー!マヂですんげぇぇぇぇぇ!!」
と、感動の午前様から。
「おぉぉぃ!?財布消えとるんですがぁぁぁぁぁぁ!?」
と叫ぶ午後様々に終わり、
色んな意味で人生がやまった。
やまったのやの字は止むのヤでもいいし、病むのヤでもいい。
割と余裕こく俺の脳みそが恨めしいですが、何か?
ともかく、入国したての1〜2時間で俺の完璧な計画が途絶えて正直に焦った。
旅は道連れ世は情け、なんて言葉もあるけどね?
乗り合い馬車での旅で3日間一緒に過ごして仲良くなったエトソンさん夫婦とは入口でサクッと別れたし、この街に俺の知り合いがいる可能性なんてほぼ無いし、第一知り合いが居たとしてあのアフォの息子である俺を助けるかどうかなんて絶望的過ぎてありえない。
今すぐ飲食店で面接?
この垢に塗れたボディーで?
この砂埃満載の服装で?
無いわ。
・・・・・て。
待てよ?
そもそも面接とかして速採用!
なんて所あるのか?
しばらくは貯金で生活する予定だったから、その辺の事考えてなかたっぽぃ感じなのですが?
あれ?
俺、ッパネくない?
それから30分(体感ではもっと1、いや2時間くらい右往左往したけどね?)とにかく30分ほど経過した後、困った時は国家権力を頼るべきだと思い立ち、治安管理所の職員に相談した結果、
とんとん拍子で俺の冒険者デビューが決定した。
「頑張って下さいね、応援してますよ!」
恰幅の良い髭面のおじさんが『後は任せたぜ、少年!』みたいな清々しい笑顔で俺を見送る。
「ハイ、お世話になりました」
と、俺が感謝を滲ませた笑顔で答える。
・・・どうしてこうなった?
と、心の裏側で呻きながら。。。