第7話 武装都市メガロにて
元々の<Wizard Soldier Online>の世界は中世ファンタジーとロボット要素を組み合わせたものだった。それはこの世界でも変わらない。移動手段と言えば馬車が主だ。WSという兵器が存在しているのに主となる移動手段が馬車というのもおかしな話ではあるが、それが元々のゲームでの設定だったのでハルトとしては仕方がないかと割り切っている部分もある。
話によると。
この世界のエネルギーは殆どが魔力で賄われている。特にそれが顕著に出ているのがWSだ。
WSは魔力を動力源としている。そしてその動力源......つまり、『魔力を使って物を制御する為の装置』は今の所WSサイズの物しか実用化されていない。
例えば、この世界で自動車を造ろうとしたとする。
そうなってくると自動車を動かす燃料となる<ガソリン=魔力>で、動力源は<エンジン=魔力バッテリー>となる。燃料はともかくとして動力源がWSサイズの物しか無いという事はハルトのいた現実世界のような自動車はサイズ的に難しい。代わりに、WS運搬用のトレーラーなら存在しているが。そして<魔力バッテリー>の小型化は<フライトユニット>と同じく日夜研究が進められている。
因みに魔力バッテリーとは魔力を溜める事が出来る電池のようなもので、これが全てのWSの動力源となっている。魔力補給は街などにある<大地の恵み>と呼ばれる魔力が溢れ出てくるポイントに設立された補給施設でエネルギーを補給するしかない。
この<大地の恵み>は小さな町から大都市までほぼすべての街に存在すると同時にその町や都市の生命線とも言える。
先日のアッシュグレイ襲撃事件の際にその生命線となる施設が破壊され、都市としての機能が殆ど壊滅状態となっている。<大地の恵み>から溢れ出てくる魔力は直接補給することは出来ない。施設にある特殊な装置があって初めて<魔力バッテリー>への補給が可能となる。
つまり。
武装都市メガロへと行くには基本的に馬車となる。WS運搬用トレーラーを後ろに引き連れ、アイリスや物資を乗せた馬車はメガロへの道を順調に進めていた。
ハルトは緊急時の時に備えてトレーラーに積まれた<タケミカヅチ>の中で待機している。
道中、危険はないはずだがいざという時の為の備えは必要だ。
何しろこの後ろに並んで道中を共にしている馬車や他のトレーラーにはメガロへの補給物資や魔力バッテリーが大量に積まれているのだ。何かあってはメガロにも、そしてハクロにも損害を与えることになる。
とはいえ、それだけの物資を運搬するのだから警備もそれなりの数はいるのだが。
アイリスは馬車に揺られ、警備のWSに囲まれながら外の風景を眺める。ここからずっと先、件の<アッシュグレイ>が元いた場所である<巨獣の森>の近くには巨大な湖があると言われている水深もかなり深いとされ、WSの全高よりもずっと深いらしい。ずっと前、ハルトからそんな話を聞いたのを思い出してふと「どんな湖なんだろう」とぼんやりと考えていると馬車が一度大きく揺れてはっと我に返る。
「も、申し訳ありません」
「いえ。大丈夫です。お気になさらずに」
御者に返事をしながらも頭の中で「まただ」と呟く。
ここ最近の自分はおかしい。事あるごとにハルト・アマギという少年の事を考えてしまう。記憶喪失という少年(自分の名前は覚えているらしいが)。護衛。同じ部隊の部下。同じ歳の少年。
そんな少年の何がいったい気になるのだろうか。
「はぁ......」
これから復興支援に行くと言うのに集中できないでどうすると自分に言い聞かせて頬を軽くはたく。
ドミナントの部隊の目撃情報もある。戦闘になった時に集中しなければ命を落とす。他の事にかまけている暇はない。この自分の中で蠢いている正体不明の感情についてはあとまわしだ。
自分の主がそんな決意をしているとは知らずにハルトは<タケミカヅチ>のコクピット内でハクロ基地の技術開発部の主任であるマリナと会話をしていた。
「<A.I.P.F.>の方はどうなってますか?」
『順調だよ。もうすぐ完成するから、すぐに届けるね』
「助かります」
『そんで、もし戦闘になったらデータ取りよろしく!』
「了解です」
そもそもデータ取りの為の<プロトウィザード>である。試作品のデータ取りをすることは言うまでもない。
『あとあとー、たっくんはげんき?』
「......<タケミカヅチ>ですか」
『違うよ! <タケミカヅチ>のたっくんだよ! 私が昨日徹夜で考えた名前だもん!』
「機体は良好ですよ。何も問題はないですし異常もありません」
『そっかー。よかったぁ。もし何か異常があったら言ってね。<デリバリーユニット>で飛んでいくから!』
因みに<デリバリーユニット>とは<フライトユニット>を研究・開発する中で生まれた副産物的な兵器で、輸送機に搭載されたコンテナの中に武装、もしくはWSを乗せて戦場に飛ばす物である。飛距離的にはまだハクロからメガロまで到底届かないはずだが、この幼女ならばやりかねない。
そしてにぱっと笑う幼女の笑顔の眩しさに少しくらくらとしつつも、他の気になる案件についてこの間に確認しておく。
「それで――他の<Xシリーズ>の方は」
『そっちも順調だよ。BS-PTX2はもう製造に入ってる。<A.I.P.F.>も組み込んでみたいから完成は予定より少し遅れそうだけど』
「ということは、早めに<A.I.P.F.>のデータを取っておいた方がいいですね」
『そうなんだよ~。パイロットはもう決めてるんだけど、肝心の機体が完成してないからね~。ごめんねハルトくん。同僚が増えるのはしばらく後になりそうだよ』
「それは構いませんが......BS-PTX2のパイロットって誰なんですか?」
『んっふっふー。それは秘密だよぉ』
「......まあ、いいですけど」
『でも実力だけは保障するからその辺は心配しないでね。あと、もう一つ付け加えるならと――――っても可愛い女の子だよ!』
――女の子か。マリナさんがこれだけ言うってことは相当の凄腕なんだろうな。どんな子なんだろ。
と、まだ見ぬ新たな仲間が気になりつつも、メガロ救援部隊一行は進む。
□□□
メガロには昼頃に到着した。
ハルトの記憶にあったメガロは武装都市の名に恥じぬような場所だった。鋼鉄の外壁に覆われ、その外壁には迎撃用の機関銃や大砲が並んでいた。街の中のあらゆる場所に武装された鋼鉄の塔がそびえたっており、塔の武装にはよく狙われたものだと昔の事を思い出す。
だが、今のメガロに昔の――とは言っても別世界のそれも仮想空間だが――面影は残っていない。常に街を巨人と共に見守っていたであろう鋼鉄の塔は見るも無残に破壊され、もはや瓦礫の山と化していた。
<大地の恵み>の供給施設があったであろう場所には仮設テントが建てられ、急ピッチで復旧が進んでいる。
無事な所も残ってはいるが、大半が壊滅状態だった。
あちこちに人々が住まう仮設テントが設置されており、他都市からの救援部隊が瓦礫の撤去作業や民家の再建。それぞれの騎士たちが復興作業に勤しんでいた。
メガロの基地もほぼ壊滅状態であることは他の場所と変わらなかった。WSも十機失っている。移動砲台も含めれば戦場に出た騎士たちだけで二十五人も失っている。
更に<大地の恵み>供給施設が未だ復旧していないのでメガロはエネルギー問題が深刻化している。<タケミカヅチ>の中のモニターで見てみると、街中のあちこちでWSが<魔力バッテリー>を運搬している姿が確認できた。
メガロ基地につくとすぐにメガロの騎士団長らしき中年男性が到着したアイリスたちを出迎え、握手をかわした。男は柔らかな物腰と優しさを滲ませた笑顔が特徴的だった。とても武装都市の騎士団長とは思えない。
<タケミカヅチ>から降りてアイリスの護衛についていたハルトを見ると、男が「おおっ」と声をあげて握手を申し出てきたのでそれに応じる。
「もしかして君がハルト・アマギくんかい?」
「え、ええ」
「私は騎士団長のアームズレイ・ロックオード。<アッシュグレイ>を討伐してくれて助かったよ。メガロ基地を代表して礼を言わせてもらうよ。本当にありがとう」
「いえ。自分は、その......」
今回の事件で感謝された事は幾度かあるが、未だにこうした感謝の気持ちを向けられた時にどういった反応をすればいいのかがいまいち解らない。
「それで――私たちは何をすればよろしいのでしょうか?」
ハルトが戸惑っているとアイリスが助け舟を出してくれた。
「ああ。君たちには<魔力バッテリー>の運搬を頼みたい。知ってのとおり、現在のメガロは深刻なエネルギー問題に陥っている。だから、街にある各所の簡易型エネルギー供給施設に運び込んでおいて欲しい」
「わかりました」
さっそく、<魔術師の実験>も復興支援に加わった。アイリスが各所の簡易型エネルギー供給施設の状況を把握し、効率的に運搬業務を行えるようにスケジュールを立てて、ハルトやメガロ基地の騎士たちはそれに従って運搬業務を行う。
たちまち復興現場の指揮を行うことになったアイリスの手腕もあってか当初の予定よりも二日分、作業が短縮された。
通常のWSよりも五倍近くの出力を持つ<タケミカヅチ>は他の機体よりも一度に多くの<魔力バッテリー>を運ぶことが出来たので現場としてはかなり重宝している。
(まさか部隊の初めての仕事が復興支援になるなんてな)
デスゲーム時代は毎日が戦いの日々で、このWSという存在もあの地獄を生き抜くための手段、兵器という存在でしかなかった。
この鋼鉄の巨人が――例え今の間だけと解っていても――こうして兵器としてではなく誰かの役に立てることが出来るという今まで思いもしなかった事実に素直に驚きつつ、今日の分のノルマを終えたハルトは<タケミカヅチ>を操ってメガロ基地へと戻ろうとする。
「ん?」
すると、<タケミカヅチ>のセンサーが地上にいる女性を捉える。メイド服に身を包んだ後姿には見覚えがあった。外部スピーカーをONにしてメイド服に身を包んで箱を抱える女性にむかって呼びかける。
『もしかしてカスミか?』
すると、その声にびっくりしたのか「ひゃっ⁉」と小さい悲鳴を出したかと思うと慌てて振り返る。同時に、抱えていた箱を落としそうになるが何とか踏みとどまった。
「え? え? もしかしてハルトさん? WSに?」
不思議そうに<タケミカヅチ>を見上げるカスミの声を聴覚センサーが拾う。
『カスミは、どうしてここに?』
「わ、私はメガロの復興支援ボランティアで旦那様に許可を頂いて来てるんです。今はメガロ基地に医療品を届けに行く途中で......」
『そうなんだ。昨日からいなくなってたと思ったらそういうことか。なら、送っていくよ。乗って』
言うと、<タケミカヅチ>が片膝をついて、右手をカスミに向かって差し伸べる。カスミは少し迷った後に医療品が入った木箱を<タケミカヅチ>の手のひらの上に乗せて、自分も恐る恐る乗り込む。
『しっかりつかまってて』
言うや否やメイドを乗せた漆黒にして鋼鉄の巨人は大地に立ち、ゆっくりと歩き出した。
「わぁ......凄いですね!」
WSの手の上から見た景色がよほど気持ち良かったのか思わずといった様子で興奮したようにするカスミ。
見ていて微笑ましいと思いつつ、ハルトはメガロ基地へと歩を進める。
「ハルトさんって本当にWSのパイロットだったんですね」
『信じてなかったのか?』
「ええ。正直言って」
『そ、そうだったのか』
ここ数年WSパイロットを務めてきたハルトとしてはその答えに少しがっくりと肩を落とす。というよりも、いったい自分はカスミにどんな風に見られていたのだろうか?
そんなハルトの疑問に答えるように、
「お屋敷ではいつも真面目に働いてくださったり、優しかったり。とても戦場に出て大きなビーストと闘って勝ってしまったような方には見えませんでしたから。何というのでしょうか。うーん......覇気がない?」
『......さいですか』
余計に凹むだけだった。
(......これでも一応、デスゲームを終盤まで生き残ったんだけどな)
複雑な心境を迎えるハルトを知ってか知らずか。
カスミは、崩壊した街を眺めながら言う。
「でも、こうしていると嫌でも実感してしまいます。ハルトさんもお嬢様も、とても危険な戦場に行くんですよね」
『まだ実際に俺たちの部隊は戦場には出てないけどな』
とはいえ、近いうちに必ずその機会は訪れるだろうとハルトも、そしてカスミも思っていた。
「怖くないんですか?」
『怖くないと言えば嘘になるな。でも、俺が出来ることといったらこれぐらいしかないし、自分にはこれを動かせる力があるのに黙って他の人が傷ついていくのを見ているってのも俺は嫌だからさ』
「......」
『見て見ぬふりをするのは駄目だってことはない。自分の命がかかってるんだから逃げたい時には逃げればいい。ただ、俺はそうしたくないってだけ。要は人それぞれさ』
まあ、いざとなったら俺も逃げるかもしれないけどな、とハルトは笑う。
「......凄いですね。ハルトさんは強いです。私なんかよりも、ずっと」
『そんなことない。カスミだって強いよ。こんな危ないところまでわざわざ一人でボランティアに来るんだから。関係ない人は普通ならメガロがこんな風になっても「可愛そうだな」って憐れんで終わるもんだよ。けどカスミは他人の為に実際に行動を起こしてるだろ? それだけでも十分凄いよ』
「......そうでしょうか?」
『そうだよ。っとそういえばさ、メガロに行くならいくで先に言っておいてほしかったよ。朝の掃除に来ないから心配してさ。ドタバタしてて他のメイドさんに聞く暇もなかったし』
「あっ。ご、ごめんなさい。サボるような形になっちゃって。帰ったらちゃんとその分、働きますから――」
『そうじゃなくてさ』
ハルトは苦笑しつつ。
『しばらくカスミと一緒にやってたからいきなり一人になるとちょっと寂しかったんだよ。俺、カスミと一緒に掃除してるあの時間って結構好きだからさ』
「......そ、そうだったんですか」
その時のカスミは漆黒の巨人――厳密に言えばその中にいるであろう少年――から何故か視線を合わせることが出来なかった。
□□□
しばらくしてから<タケミカヅチ>はメガロ基地へと到着した。カスミを下ろすと、すぐ近くに<タケミカヅチ>を何故か不満そうな顔で見上げているアイリスを見つけたので慌てて<起動カード>を引っこ抜き、ハルトはコクピットから飛び降りる。
アイリスは確か基地内の通信室から直接現場の復興指揮をとっているはずだ。その証拠として今も指令用のインカムをつけている。そんなアイリスが外に直接やってきたということは何かあるに違いない。
カスミはアイリスに挨拶すると、アイリスもそれに笑顔で応じる。挨拶が済んだあとは礼をして医療品を届けにカスミは基地の中へと歩いて行った。
――荷物ぐらい持ったのに。
と心の中で呟きながら慌ててアイリスの元に駆け寄ると、何故かジトッとした目で睨まれた。
「お、お嬢様? どうかなさいましたか?」
「......いえ。特に何も」
「そ、そうですか。よかった......では、どうしてこんなところに? それに現場の指揮は?」
「指揮ならここからでもとれます。それに、現場への連絡は全て終えてから来ました」
そう言って、アイリスは耳のインカムを指差す。きっちり仕事をこなしている辺りは流石だとハルトは思った。
「......随分と仲がよろしいんですね?」
「は?」
アイリスの言葉を理解するのに数秒かかった。それでようやく、カスミとの事を言っているのだろうか? と結論付ける。
「カスミですか? そりゃまあ、お屋敷で働かせていただいてる同僚ですから」
「私だって同僚じゃないですか」
「いえ。めっそうもない。お嬢様は自分の主であり、上司でもありますから」
「そ、そうですけど......その、カスミとは本当にただの同僚なんですか?」
「ええ。ただの同僚ですけど」
それ以外に何が? とでも言いたげにきょとんとした表情で立ち尽くすハルトを見て「そ、そうですか」と返すアイリス。同時に自分の心の中でどこかほっとした感情があって、何故そんな感情が出てきたのか、どうしてわざわざ<タケミカヅチ>の上にのっているカスミが楽しそうにコクピットの中にいるであろうハルトと会話しているのを見ただけで心がもやもやしてしまうのか。
わからない。
分からない。
解らない。
ここ最近、自分を悩ませている原因不明の感情の事を考えると頭がオーバーヒートしてしまいそうになる。
――私は、どうして......。
「......あの、お嬢様?」
「ひゃっ⁉ な、ななっ、なんでしゅか⁉」
ハルトの呼びかけにはっと我に返るもどうやらまだ頭が混乱しているらしい。思わず変な声を出してしまった。恥ずかしくて顔が火照るのを感じる。
さすがのハルトも今日のアイリスはおかしいと感じたのか、
「や、やはりお疲れのようでしたら少しお休みになった方が......」
「そ、そんなこと......!」
ない、と言いかけたその時。ふと頭の中にちょっとした閃きが起こり、そしてアイリスはそれを何故か実行したくなり、それを実行に移した。
「......そうね。少し休憩が必要かもしれないわね」
「では、すぐに休憩の準備をいたします」
「その必要はないわ......たぶん」
「?」
アイリスの思わぬ一言に動きを止める。その後アイリスは少しの間、迷うようにしてから、
「あ、あなたも私の休憩につきあってください。体を休めるものパイロットの務めです」
□□□
復興の進む武装都市メガロから離れたところ。<巨獣の森>と呼ばれる巨大な木々で構築されているビーストたちのすみかの周辺に近寄る者はいない。つい先日<アッシュグレイ>が出現したばかりなので普段よりも一層、近づく者はいなかった。
故に。
そういった場所は隠れようとする者たちにとって都合がいい。実際に、そういった集団がそこに集まっていた。
ただの集まりではない。
待機状態のWSが何機もそこにはあった。
ただの武装集団ではない。その証拠にそれらのWSには肩に<ドミナント>の紋章がマーキングされている。
土色のボディカラーにずんぐりとしたシルエット。バックパックからはキャノン砲が顔を覗かせている。両腕には小型の機関銃が搭載されており、腰には近接戦闘用武器であろうカタールが装備されていた。
これらのWSはドミナント第九世代正式採用量産機<アンバー>である。
ここ数日かけて集結させたメガロ攻略用部隊は全部で五十機。敵も戦力を強化させているようだが、この数には及ばない。せいぜいが三十機程度だろう。
だが、<アンバー>が周囲に並ぶ中でたった一機だけ文字通り異色の......ミッドナイトブルーのWSが鎮座していた。
<ドミナント>のもつどの量産機にも当てはまらない。獣のようなそれは独自開発されたWSであることは明白だった。
ミッドナイトブルーの機体のパイロットが言うにこの機体は<ファング>と言うらしい。
<ファング>にもたれかかるようにして通信機を手に一人誰かと話しているのはドミナントが雇った傭兵の青年だった。
「たからよぉ、ちょっくら例のアイツを呼んでほしいだけなんだって。あ? 無駄遣いするな? かてーこというなよ。保険だよ保険。それに次の目標の時の為のテストにもなるしな」
幾多の戦場を駆け抜けてきたとこの場に集まっている部隊の隊長は聞いているが、年齢としては二十代前半に見える。
だが同じように今まで様々な戦場を経験してきた隊長は、その青年が猛者であることを一目で見抜いていた。
それだけの風格をもっている、ということだろう。部隊長を務める男は既に四十を過ぎているが、今まで生きてきた中でこれだけの風格をもつ人物には数えるほどしかあったことがない。どれもかなりの実力者だった。
名前は、シド・オリエンタルというそうだ。
部隊長はこの作戦の指揮を任されたと同時に彼を紹介された。だが、この青年の持つ圧倒的な威圧感。そこから感じることのできる実力。それらを考慮して、果たして自分が彼を扱いきれるのかどうか自信がまるでなかった。
今はこうして闘いの前に何者かと――恐らく同僚なのだろうが――連絡をとっているように見えるが、彼には猛獣が檻の外で楽しそうに仲間と談笑しているようにしか見えないし(これもおかしな表現だが)、檻から出た猛獣は――何をするか解らない。
扱いきれる自信はない。
だが味方であってよかったと、心の底から思える相手だった。
「隊長さん」
「ッ!」
いつの間にか。そのシドという青年が目の前にいた。彼から視線を逸らした直後の事だ。
「な、何かね」
「戦力も十分に揃ったみたいだしよぉ、明日の早朝にでもメガロに攻め込むんだよな?」
「あ、ああ」
考えを見抜かれていた。そのことに冷や汗が頬を伝う。
「そこで、だ。俺に提案があるんだけどさ」
シドはニタリと不気味な笑みを見せる。
これは提案ではない。
命令だ。
強者から弱者に対しての、何のへんてつもない、ただの命令。
この世界の人間社会のシステムに組み込まれている当たり前のようなこと。
――自分は勘違いをしていた。
そこで部隊長の男は自分の間違いに気づいた。
――シドと呼ばれた青年がこの部隊に来たその瞬間から、部隊はもはや自分の物ではなかった......この獣の物だったのだ。
どうでもいいけどヴァルヴレイヴ楽しみにしてる。
あとウィザードライバー欲しい。




