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第4話 撃破

 拠点攻略用兼ビースト破壊兵器<キャッスルブレイカー>。

 見た目はロングライフルの形をしているが、先端の銃口には鉄杭のような物が装填されている。ただしこの<キャッスルブレイカー>一機につき一発限り。

 これはもともと敵国の城を攻略するために製造された物で、ビーストを相手にする場合、本来ならば複数でのの併用を前提とされている。それはこれが止まった城を狙う為の兵器であり、動くビーストを倒す為の物ではないからだ。

 だが、現状ではビーストの強固な防御フィールドである<A.I.P.F.>を破るにはこの<キャッスルブレイカー>を直接捻じ込むしかない。

 とはいえ。

 まずはこの鉄杭を当てられるかどうかにかかっており、仮に<A.I.P.F.>を突破する事は出来ても防御フィールドの発生器官を潰さなければすぐに復活してしまう。

「やるしかないか......」

 <タケミカヅチ>は<キャッスルブレイカー>を左手に、そして右手に対艦刀<夜桜壱式>を構える。

「スペックだけをとっても<ムゲン>の五倍相当......凄いな。これなら......!」

 ターゲットを視認した<タケミカヅチ>は格納庫の外へと飛び出した。すると、既に三機目の<ムゲン>が地に倒れ伏したところだった。どうやらタイミングの悪い事に、他の騎士たちは別のミッションか何かで出払っているようで、既にこの基地を護るのは<タケミカヅチ>一機のみとなってしまった。

「いきなり孤立無援かよ」

 軽口をたたきつつ、目の前の敵を見据える。ゲーム時代よりも生々しく感じる<アッシュグレイ>だが、あの時と今との共通点と言えばやはり命を狙ってきていることだろう。

 人を殺す為の生き物。

 元いた世界のビーストも、この世界のビーストもそれは同じだった。

「ッ!」

 <タケミカヅチ>を補足した<アッシュグレイ>は槍のように変化させた触手を放つ。直線的な攻撃。その程度の攻撃を受けるハルトではなく、機体の機動力を活かして難なくかわす。

 左手に<キャッスルブレイカー>というウエイトを持っているにも関わらず機体は素晴らしい機動力を披露してくれた。特に背中のコンパクトな大型スラスターのパワーが半端ではなかった。気を抜けば逆に自分が機体に引っ張られそうになるがハルトにとっては扱えない程ではない。

(さっさと鉄杭を捻じ込みたいところだが、まずはあの触手を排除しなきゃな)

 <キャッスルブレイカー>で攻撃を行う際には隙が生まれてしまう。よって、まずはあの脅威を排除しなければならない。そうと決めたハルトは思い切って必須攻略武器である<キャッスルブレイカー>をその場に落とす。重力に逆らうことなく落下した鈍色のロングライフルを放り出してその場から敵を攪乱するようにして駆け出す。

 その隙を見計らったかのように<アッシュグレイ>から複数の触手が一斉に放たれた。

 身軽になった<タケミカヅチ>は背中のコンパクトな大型スラスターによる加速で跳躍する。飛行能力はないものの、背中のスラスターによるそれは跳躍というよりもはや飛翔に近い。<ムゲン>よりも高く、高く跳ぶ。

 空中ならば身動きをとれないと踏んだのか<アッシュグレイ>の猛攻は続く。しかし、<タケミカヅチ>は全身のバーニアと背中の大型スラスターを使い、細かい動きで敵を翻弄しつつ紙一重でかわしていく。

 柔軟に動く触手は<タケミカヅチ>の傍を通り過ぎた後に触手をUターンさせて背後からの奇襲を試みる。だが、その動きを予見していたかのように後方宙返りを行って回避すると同時に右手の<夜桜壱式>を叩きつけて触手を切断する。

 着地と同時に再び跳躍。

 その動きはまるで<アッシュグレイ>を翻弄するかのようだった。

 しかしただ翻弄するだけではない。基地にいる現役の騎士たちが敗れ去ったあの触手を次々と切断している。あの<タケミカヅチ>にはむしろ余裕すら感じられた。

 その様子をコサックはただただ見守るしかなかった。

 偶然ではない。それだけでは済まされない。あの少年は完全に<タケミカヅチ>を物にしている。数多くの騎士があの機体に挑み、拒絶された。

 だがあの少年は......ハルト・アマギはあの機体に選ばれた。

「はは......」

 コサックはこの状況下であるというのに、不思議と笑いが漏れた。可笑しいからではない。嬉しくて。

 あの機体はコサックたち技術部が近接戦闘特化機を開発するに辺り現状で持ちうる技術を全て詰め込んだ機体である。

 しかし造ってみたはいいものの、アレを乗りこなしてくれる使い手が現れなかった。

 だがようやく、見つけた。現れた。

 不思議と、自分たちの大切な子供に魂が宿ったような気がした。

 空中を跳躍し、紙一重で攻撃をかわしつつ――<タケミカヅチ>は確実に着実に敵の触手を削り取っていた。が、ここで突如、敵の攻撃に変化が起きる。残りの複数の触手が一点に集約したかと思うと一つの巨大な灰色の槍が出現したのだ。

 威力、攻撃範囲、スピードともにさっきまでの比ではない。だが、ハルトにとってはさほどの脅威ではない。

 が、<アッシュグレイ>の狙いは<タケミカヅチ>ではなかった。

 灰色の槍の先端が向けられた先は、狙いは、ハクロ基地。

「やべっ......!」

 慌てて引き返す。だがその瞬間には既に槍は放たれていた。


 □□□


 外の戦闘を見ていたアイリスの前方から突如巨大な槍が迫りくる。不意のことだった。なぜ急にこちらを狙ったのかは解らない。だがもしかすると、<タケミカヅチ>の基地を庇うような動きに気が付いたからなのかもしれない。

 だが、そんな事を考えていられたのは一瞬だった。

「......!」

 体が反応できない。逃げようとするも脚が動かない。恐怖ではない。動けないぐらい咄嗟のことだった。思わず目を閉じる。

 しかし、巨大な槍が自分の体を抉ることはなかった。

 目をそっと開けると、漆黒の巨人が両手で槍を受け止めていた。

(あれだけ巨大な一撃を防いだ? たった一機のWSが?)

 安堵するよりも早く、目の前の現実に驚愕する。あの機体のパワーと、それを操り、ピンポイントで受け止めた少年の圧倒的な技量に呆然としていると外部スピーカーから声が聞こえてくる。それは、この三ヶ月の間常に自分の身を守ってくれていた少年の声だった。

『お嬢様、ご無事ですか』

「......ハルト?」

『危険ですのでお下がりください』

 その声は微塵も恐怖を感じていない。余裕すらもある。いや、ただ言うならばアイリスが傷つくことだけを恐れていた。

「さて」

 ハルトは<タケミカヅチ>のコクピット内で勝利を確信していた。

「......捕まえた!」

 言うと、<タケミカヅチ>の両手に備えられているある機能を発動させる。

 使用するのは槍の先端を受け止めている右手。その手のひらにある<発生機>から紫電が迸る。バチバチと音を立てながら紫色の雷が増幅し、集約し、圧縮していく。

 極限まで増幅と集約と圧縮された雷は槍の先端で――――炸裂する。

 轟音が響く。

 それはまるで雷が落ちたかのような音。

 ――――零距離圧縮炸裂砲<鳴神ナルカミ>。

 それが、槍の先端で炸裂した。

 被害は先端だけに留まらない。触手を伝って雷が炸裂していく。焼け焦げた触手はボロボロと崩れ去り、やがて本体にまでダメージが伝わった。

 どうやらあの<アッシュグレイ>の<A.I.P.F.>は攻撃行動を行っている際には発動出来ないらしい。

 <アッシュグレイ>は力が抜けたかのように沈没する。この隙にと近くの<ムゲン>からマシンガンを拝借し、沈没した<アッシュグレイ>に向かって放つ。

 しかし、弾丸は展開された<A.I.P.F.>によって弾き飛ばされた。どうやらまだ発生器官は生きているらしい。

 <タケミカヅチ>は<キャッスルブレイカー>を掴み取ると構える。狙いを定め、沈没している<アッシュグレイ>に向かって――放つ。

 鈍い音が辺りに轟いた。

 放たれた杭は真っ直ぐに<アッシュグレイ>へと向かい、<A.I.P.F.>と激突する。鉄杭の先端は徐々に防御壁を喰い破っていく。そして――先程の<鳴神>と同様、先端から迸った雷が炸裂した。

 世界が白に染まる。

 眩いばかりの閃光によって支配された世界。その中を漆黒の戦士が駆け抜けていた。

 ガラスの割れるような音が響き、<A.I.P.F.>が砕け散る。

 さきほどまで遮断されていた空間を飛び越えて、<アッシュグレイ>の本体へと<鳴神>を叩き込む。

 雷が一筋の閃光となって巨大ビーストの体内を突き破り、コアに炸裂した。<A.I.P.F.>の発生器官が再び防御壁を展開する前に――<アッシュグレイ>は機能を完全に停止した。


 □□□


 アイリスは自室で本を読んでいた。つい最近購入した本で、内容もなかなか面白い。この面白さが最期まで続ければお気に入りの一冊になりそうだと思った。

 窓から流れてくるそよ風が気持ちいい。外は快晴で、雲一つない。

 ほんの少し開いている窓の外を眺める。屋敷の下では自分と同い年の記憶喪失の使用人の少年が掃除に励んでいた。

 あの<アッシュグレイ襲撃事件>から一週間が経過した。

 メガロの方の被害は甚大だった。街中が荒らされたわけではなく、ただの通路としか認識されてなかったのかただ街の上を通り過ぎていっただけだったのだが、防衛システムの方の被害は甚大と言える。

 ハルト・アマギと言う少年はあの事件の英雄と言える。そもそも巨大ビーストとの戦闘時間としては速すぎるぐらいだ。歴代新記録を叩き出したといってもいい。

 だが当のハルト本人は何事もなかったかのようにこの一週間は振る舞っている。とはいえ、周囲が彼を放っておかない。

「ハルト?」

 屋敷の上から呼びかける。ハルトはすぐに上を向いた。

「お嬢様、どうかなさいましたか?」

「今日ハクロ基地に行かなければならないのだけど、ついてきてくれるかしら」

「わかりました」

 穏やかな笑顔で、穏やかな声でそう言った。その表情をを見ると不思議と顔が火照ってくるのだが、それはきっと気のせいなのだろうとアイリスは自分に言い聞かせる。

 街中をハルトとアイリスが歩く。

 周囲から見たら自分たちはどう見えるのだろうとアイリスはふと思った。

 基地につくと真っ直ぐにハクロ基地の最高責任者、ライラック・ガゼルの待つ部屋へと向かう。案内されたハルトは困惑気味だ。どうやら自分がまだどうしてここに連れてこられたのか解らないらしい。

 ライラックは既に五十を迎えているベテランだ。昔は数多の戦場を駆けながらエース級の活躍をしたらしい。ガッシリとした筋肉質の体に右の傷がその証拠だろう。

「君がハルト・アマギくんか」

「は、はぁ」

「私はライラック・ガゼル。先日はこの基地......いや、この国の危機を救ってくれて感謝する」

「いえ。自分は別に」

 この礼をする為だけに呼ばれたのだろうか? とハルトが困惑していると、

「ついては君にお願いがあるのだがね?」

「?」

「この基地で実験的に設立された実験部隊については君もご存じかな?」

「はい。お嬢様が指揮をとられるという<魔術師の実験プロトウィザード>、ですよね?」

「そうだ。その部隊は実験機のデータ取りの為の部隊なのだがパイロットが不足していてね。それで物は相談なのだが君のその腕を見込んで――<|魔術師の実験(プロトウィザード>に加わってくれないか?」


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