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第11話 ガロン奪還作戦⑤

 戦況は圧倒的に、ブルースター騎士団の有利に進んでいた。やはり導入した量産化したCG兵器の力が大きい。『A.I.P.F.』を持たない相手に、CG兵器を持つWSの相手は厳しいといえる。

 もはや勝利は、時間の問題と思えた。

 だからこそ、敵の、ドミナントの行動は迅速だった。

 破損したヴェラゲイル、つまりは戦闘データを得たCG兵器試験導入機を回収した後に、作戦は次のフェーズへと移る。

「私だ。ヴェラゲイルは回収した。……ああ、実戦データも得られたことだし、及第点というところだな。あの基地は放棄する。黒騎士がWS数機を引連れて侵入したのも確認した」

 司令官の男は地下にある緊急脱出用のトレーラーに乗りながら、通信用端末に向かって呟いた。

「今が好機チャンスだ。黒騎士もろとも、奴らはこの基地と運命を共にしてもらう」

 破損したヴェラゲイルを乗せたトレーラーは、基地から離れるように闇の中を切り裂きながら進んでいった。


 □□□


「あはっ、こりゃ面白いことになってるねぇ」

 赤いドレスに身を包んだ女、レドラスは一人コントロールルームの中で面白いおもちゃを見たような微笑を浮かべていた。

 彼女の背後には死体の山が積まれており、床を赤く塗らしていた。

 その赤は、彼女のドレスの色と全く同じだった。

「まさか基地ごと黒騎士を始末しようなんざ、随分と大掛かりなことを」

 瞳に映る魔法陣が、この基地のデータを吸い出したことを確認すると、軽くターンを決めて彼女は歩き出す。歩くたびにカツン、と靴が音を鳴らす。

「さてさて、アンタはどう出るのかな? 黒騎士」

 彼女は歩く。

 闇の中へと、自ら進んでいく。

「あたしたちのあるじが一目置いているガキだ。まさかこんなところで、終わったりはしないよな?」

 その姿はやがて闇の中へと溶け、消えた。


 □□□


 ハルトは背後にWS四機を引連れながらガロン基地内部へと侵入していた。

 呆気なさすぎる。

 そんな呟きがふと、頭の中を過る。

「どういうことだ……基地内部だぞ? 呆気なさすぎる」

 その言葉はついに口に出てしまう。

「ははっ。ハルトさんの実力からすればそうも感じてしまうでしょう。それに、外の防衛に戦力を割いていて基地内部にまでは手が回らなかったのではないでしょうか?」

 通信回線が開いていたので共に突入してきた騎士が気楽に笑いかけながら予測を述べる。

 だがハルトは楽観視出来なかった。

 仮にそうだとしても、防衛にまるでやる気が感じられない。

 疑問を孕みつつも、ハルトたち五機のWSは基地内部に進行していく。途中、襲い掛かってくる敵WSをなぎ倒しながら着々とポイントをクリアしていった。

 その次は地下へと進む。地下は地上とは違って迎撃用の武装が少なく、基本的にはWSやそれらに関連する兵器の格納庫だった。次々とチェックポイントをクリアしていくハルトであったが、その度に不安感がじわじわと増大していく。

「どういうことだこれは? まるで……もぬけの殻じゃないか」

「ああ。おかしい。静かすぎる」

 ここに来てようやく他の騎士たちも違和感に気づいたようだ。

「まるで、誘い込まれたみたいな――――……」

「それです」

 一人の騎士の呟きに刺激されたハルトは思い出す。

「え?」

「自爆ですよ。恐らく、こちらの戦力を引っ張り込むだけ引っ張り込んでから、この基地を自爆させるつもりなんでしょう」

「なっ……!」

 過去にハルトはゲーム世界でこういった基地の自爆から逃れるというミッションを実際にやったことがある。ただ、あの時とは場所も違う。

 だが仮にこの基地が自爆するということならばまんまと自分たちは誘い込まれたことになる。敵の思惑に嵌って。

「今すぐここから脱出しましょう。それと、地上の進行部隊にも撤退の連絡を」

「り、了解です!」

 そうしてハルトたちが来た道を戻ろうと機体を傾けた時。

 コクピット内にけたたましい警告音が鳴り響く。これは敵にロックされたことを示すアラート。

 反応。

 同時に『A.I.P.F.』を起動。

 タケミカヅチは右腕に出現した紫色の盾で迫りくる光の奔流を受け止めた。そして、機体がこの攻撃を仕掛けてきた敵――――WSを視認する。

 見た目は新型量産機のヴァラに似ている。だがサイズは一回り大きく、各所に施された追加装甲と土色のボディカラーも特徴的だ。そして右肩に担ぐようにして所持しているのは試験的に導入されたCG兵器である、CGバズーカランチャー。

 明らかな急造使用の期待であることは、明らかだった。

「いかせんぞ、黒騎士!」

「敵! まだ残っていたのか!?」

 倉庫の上に立っていた敵WS、『ヴァラ・テスタメント』はバーニアから青い炎を吹かせて飛び降りながらCGバズーカランチャーの引き金を引いた。

「各機、ここから敵を逃がすな!」

 ヴァラ・テスタメントのパイロット、カルサス・フィゲロは叫ぶように待機させておいた部下たちに指示を出す。彼の言っていることはつまり「死んでこい」という命令である。

 命令の成功は彼らはこの基地と死を共にするということであり、逆に失敗してもブルースターのWSに撃破されるということだ。

 実体剣を引き抜いたヴァラ・テスタメントとタケミカヅチは互いに刃を交えあう。

「お前らはッ……! ここで俺達と一緒に死ぬ気か!?」

「我らの命で黒騎士、貴様を殺せるのならば安いもの! ドミナントがこの戦争に勝つ為の、必要にして必須の犠牲なのだ!」

「そんなことが!」

 下がる。

 同時に、CGショートライフルを連射。

 だが追加装甲は飾りではないらしい。各所に増設されたバーニアから得られる機動力が、ギリギリでの回避を可能にしていた。スライド移動でかわすヴァラ・テスタメントに向かって再び夜桜弐式で切りかかる。スラスターが火を噴いた。

「黒騎士、貴様の登場で我らの状況は一変した。だが逆にいえば、貴様を討つことが出来れば、戦局は一気に変わる!」

「だからって……命令されるままに自分の命を投げ出すって言うのか!?」

「今更何を言っている。戦争は、犠牲があってこそ初めて成り立つものだ!」

 マナ・ソニックを発動。

 振動する魔力の刃が敵の実体剣と激突する。相手は剣に魔力を纏うことでマナ・ソニックの効果を受け止めることに成功している。

 決定打には、至らない。

「だったら……だったらまるで、死ぬために戦っているみたいじゃないか……!」

「そうだ! 騎士とは最初から死ぬための存在なのだ!」

 違う。

 自分たちは、少なくともハルトは、あのゲームに閉じ込められていた者たちは、死ぬためじゃない。生きる為に戦っていた。生きる為に、AIとの戦争に挑んでいた。

 目の前に立ちふさがる騎士の理屈は、あのデスゲームで散ったプレイヤーたちを侮辱するものだ。

 そんなもの。

「認めるわけにはいくかぁ――――――――!」

 フライトユニットから魔方陣が展開され、溢れんばかりの魔力が迸る。

「このパワーは!?」

 互いに刃を激突させていたヴァラ・テスタメントをそのまま押し切る形で、二機は近くの倉庫に激突した。

(早くこいつを倒して、この基地のどこかに仕掛けられている爆破魔法を破壊しないと……!)

 この基地を自爆させるということは動力部――――魔力貯蔵施設を狙っているのは明白。

 ちょうどそれは地下にある。しかし正確な位置までは分からない。かといって、探している時間はない。

 そもそも、まずは目の前の敵を片づけなければならない。

「どうする!? 黒騎士ぃいいいいいいいい!」

 まるでゾンビのように、怨念のような執念をもったヴァラ・テスタメントが襲いかかる。

「時間がないってのに……! くそっ!」


 □□□


 アイリスは送り込まれてきた情報に頭をガツンとハンマーで殴られたかのような衝撃に見舞われた。

 基地ごとの自爆。

 それも、こちらの主戦力であるXシリーズを巻き込んでの。

 どうしてそんな可能性を微塵も考えなかったのか。

 だが悔むのは後だ。今は何とかして自爆を止める為の方法を考えなければならない。

(今すぐに爆発しないということは時限式。その情報は確か。だったら、その術式を破壊してしまえば、間に合う!)

 ハルトは今現在、動けない。敵の執拗な足止めをくらっている。何とかして振り切ってくれればいいのだが、敵は一機だけではない。

 フリージアのキオネードは今現在、エネルギー補給中。僅かの間は動けない。

 カグツチはキオネードの抜けた穴を埋めているので同じく動けない。

 残るは、シドと戦闘を行っているモネのみだ。

「ガロン基地内部、魔力貯蔵施設周辺を集中スキャンしてください。不審な魔力エネルギーを探知したら知らせて」

「了解!」

 爆破術式のほうはこちらで見つけるとして、どうやって術式破壊を行うかだ。基地周辺は現在、ハルトたちが侵入した直後から始まった猛攻で道が殆どふさがっている。一般の兵にこの突破は難しい。

 となると、やはりXシリーズでしか現状の突破はありえない。

「モネ、今すぐガロン内部へと潜入し、術式の破壊を実行することはできますか?」

「んー。それはちょっと難しいかなぁ……?」

 切羽詰まったような声が、ブリッジ内に響き渡る。

 駄目かなのか。と、アイリスが次の手を考えようとしたその時――――、

「でも、できなくはないかもね」

 という、いたずらっ子のような笑みを浮かべたモネの声が聞こえた。


 □□□


「ふぅ。こりゃチョー重大なミッションを仰せつかっちゃったねぇ」

 目の前でブレードクローの連続攻撃を捌きながら、モネはため息をついた。

 だが、出来ない気はしない。

 剣でブレードクローを弾き、大きく距離をとる。同時に飛行形態へと変形。一気にガロンへと降下していく。

「あァ!? 逃げるのか!?」

「あははっ、ちょっと用が出来ちゃったからね!」

 フライトユニットを装備したファングとはいえ、飛行形態のアマテラスにはそう簡単には追いつけない。そのままファングを引き離したモネは迫りくる迎撃の嵐を掻い潜り、基地内部へと潜入する。

 飛行形態のアマテラスのスピードだからこそ、この速攻の潜入は成功したといえる。それを扱いきるモネの実力もあってこそ、だが。

「さて、と。スキャン結果はっと」

 カブリオレから送られてきたスキャン結果に目を通す。元々、魔力貯蔵施設周辺に仕掛けてあったというだけあって魔力による反応で術式の位置を特定することはできなかった。だがアイリスがどの部分を爆破させれば一番効率が良いのかを予測し、入念なスキャニングの結果、この位置を割り出したのだ。

「……二ヶ所!?」

 このガロンは、その広大な敷地面積を持っているが為に魔力貯蔵施設を二ヶ所設けた。その方がWSのエネルギー補給もスムーズに行えるからだ。だが今回はそれが災いした。

「爆破予想時間は残り三分ちょっと……うん。大丈夫、いける」

 このアマテラスのスピードなら、不可能ではないはずだ。

 ただし。

「……あちゃー。そりゃそうだよね」

 何も妨害がなければ、の話だが。

「護衛ぐらい、つけておくよねぇ」

 モネの目の前にはヴァラ・テスタメント一機とアンバーが三機、ヴァラが二機。

 地下というフィールド条件であるが為にアマテラスの飛行能力は制限がかかる。この閉鎖された空間でそう自由に飛び回れはしない。

 倒せないほどでは、ない。

 だが。

「……ちょっと、間に合わないかも」

 片側の術式は破壊できる。

 だがもう片方は、間に合わない。


 □□□


 ヴァラ・テスタメントの猛攻に防戦していたハルトはついに反撃に出た。モネが来てくれたということは片側は何とかしてくれるはずだ。

「ウィザードシステムッ!」

 瞬間。

 タケミカヅチのボディの一部がスライドし、そこから紫電が迸る。同時に、タケミカヅチは消えた。

「消えっ!?」

 次の瞬間には既に、ヴァラ・テスタメントが残骸と化す。

「なんだ……なんなんだ! この速さはッ!?」

 驚愕する間もなく。

「次ッ……!」

 まだ終わらない。周辺で友軍機と戦闘を行っていたヴァラを次々と排除。そして今度はフライトユニットを起動。推力全開でモネとは別の、もう片方の魔力貯蔵施設へと向かって加速する。

 雷と化したタケミカヅチはただひたすらに突き進む。

 エマージェンシーシャッターが、行く手を阻むように降りている。だがそれに構うことなく、タケミカヅチは突き進む。夜桜弐式を抜刀。

 直後。

 一閃。

 シャッターが粉砕し、雷はそのまま、何事もなかったかのように突き進んだ。

 貯蔵施設に到着すると護衛が張り付いていたのでそれを瞬殺。同時にウィザードシステムを解除。

「お嬢様のデータによればこの辺りだが……」

 センサーで不審な術式を炙り出す。

「見つけた……!」

 術式を発見。スキャン開始。スキルを発動させ、さっそく術式の破壊に取り掛かる。魔力貯蔵タンクに直接張り付いている為、慎重に扱わなければならない。

 しかし。

 問題は、その数だった。

「なっ……!」

 魔力貯蔵タンクの表面に、夥しいほどの数の爆破術式が貼り付けられていた。

 ハルトの術式解体スキルは完全習得済みではあるが、それでも残り二分で全てを解体することはできない。

「どうする……! どうすればいい……!」

 考えろ。

 考えろ。

 考えろ。

 この状況をどうすれば切り抜けられるのか。

「……!」

 ハルトは導き出す。この状況を突破するための手段を。

 夜桜弐式を抜刀。同時に、貯蔵タンクの接続部を切断。そして支えの失った貯蔵タンクを、マニピュレーターをギリギリまでめり込ませて強制的にホールド。

「ハルト!? 何をする気なのですか!?」

 聞こえてくるアイリスの声。その声からして、自分のことを本当に心配してくれているのだと解る。

「貯蔵タンクを外まで運び出します」

 解除は間に合わない。ならば、外で爆破させてしまえばいい。

「ダメ! 戻って!」

 だが、時間が足りない。貯蔵タンクというWSを超える大きさの荷物を抱えたままでは。

「大丈夫です。戻ってきますよ」

 自身の主に向かって笑うと。

 ウィザードシステムを起動。

 貯蔵タンクを抱えたまま、雷神は舞う。


 残り時間、一分。


 

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