第7話 ガロン奪還作戦①
ガロン、と一口に言ってもその範囲は広大である。
元々ガロンはメガロのような巨大な武装都市で、基地ではなかった。だが戦争によって状況が変わり街は居住区画と基地区画の二つに分断された。だがその居住区画も度重なるドミナントとの戦闘やビーストとの激闘によって廃墟となっている。
今回、ブルースター騎士団が終結したのはその廃墟部分に当たる。元々の広さが広大なだけに多数の戦力の集結にはうってつけだった。
ここに『魔術師の実験』のカブリオレが到着した時には既に大多数の戦力が集結していた。約一週間かけてここまでたどり着いたカブリオレであったが、予定よりもやや遅れている。というのも、あの新型による奇襲だけでなく幾度か戦闘があったからだ。
だがそのたびにアイリスとXシリーズたちの活躍で敵の猛攻を潜り抜け、ここまでたどり着いた。
簡易補給施設で魔力補給を終えるころには戦力の全てが集結していた。
『――諸君!』
艦内スピーカーに男の声が響き渡る。
この艦隊の指揮をとるのは『ミカル級』の騎士団長であるヴァレット・クレマチス。アイリスの父親だ。アイリスは大型モニターに表示された父の顔を真剣な表情で見つめていた。
『長く占領されてきたガロンも今日、この日から我々の手に取り戻す! その為の力をどうか私に貸してほしい!』
古くからクレマチス家は戦いの一族とされていた。
代々優秀な人材を輩出してきた名家。
そのプレッシャーを感じなかったわけではない。
周囲からの期待。
不可避のプレッシャー。
だが父もそれらを撥ね退けて今、この場にいる。
そのことに気がついたのはつい最近だが、だからこそアイリスはそんな父を誇りに思い、自分もこうしてこの場にいる。
ヴァレットの演説が終わり、本格的に艦が進軍した。
見てみると、ガロンの基地からドミナントのWSが発進してくるのが見えた。
戦いの狼煙が上がった。
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「やはりきたか」
ドミナントがガロンを占領してから長い。
それ故に基地内の指令室の椅子に腰を落とした時のこの感覚はアレイスト・バナガンにとって当然の感覚であった。
アレイストは屈強な男で、自身のWSパイロットとしても一流だ。この腕で戦場で功績をあげてこの指令室の椅子まで上り詰めたといってもいい。
「フン。『天空の日』からやつらはやけに調子にのりだしたからな。いつか来るとは思っていた」
蹴散らしてやるさ、と彼は呟く。そんな呟きを聞いたトタス・ジェイスルーは自虐的な笑みを浮かべた。
「いくらあんたとはいえども、あまりやつらをなめないほうがいいですよ」
「実体験か?」
トタスは頷く。モニターに映る実験艦を眺めて、この一週間のことを思い出す。
彼はギリギリでコクピットへの一撃を回避し、脱出。そして救難信号を発して友軍に回収されたところで直通ルートでこの基地へと先回りしていた。
「特にあの『馬車』の騎士たちには気を付けた方がいい」
「そんなこと、言われなくとも分かっている」
これは本心である。
彼は戦場上がりの戦士だ。
故に、敵を侮ることは死を意味するという当たり前の現実を知っている。
「だからこそ、やつを呼んだのだ」
そのタイミングで、指令室の扉が開いた。
入ってきたのは若い男だ。白髪にすらりとした体型の、男というにはまだ幼い、少年ともいうべき者だ。歳は十七ぐらいだろうか。トタスはこれでもドミナント全体から見てもかなりの実力を持つパイロットで、それだけに場数も多い。
だからこそ、アレイストが呼びこんだこの少年を侮るようなことはなかった。それになにより、その少年の持つ瞳の力強さにほんの僅かだが怯んだ自分を自覚して、敗北感を感じた。
「ルーク・ライドイスアです」
ルークと名乗った少年は最小限の言葉を述べると敬礼した。
この世界の騎士団は騎士団長いがいに階級は存在しない。
元々、この世界の騎士というものは少人数、それこそ十数人程度だった。それ故に『騎士』そのものが一つの称号だった。
だがそれは時代とともに規模が大きくなり、戦争とともに人数が爆発的に増えた。その名残からか、騎士団長の下の兵たちに階級は存在しない。とはいえ、それでは部隊が成り立たないために指揮官や部隊長などの大まかな階級は存在する。
騎士団長の中に階級が存在するのは、階級ごとに役割を分割するためだ。
よって、トタスにしてもルークにしても歳やその他もろもろの情報は無関係にこの二人は対等と言える――――が、トタスはこの少年の元で戦うのだろうと漠然と思った。思わざるを得なかった。
それだけのカリスマ性が、この少年にはあった。
「ルーク。お前は新型の『ヴェラゲイル』で出撃ろ。トタス。お前も『ヴァラ』でルークの部隊と共にいけ」
てきぱきと指示を出すアレイスト。『ヴァラ』以外にも新型があったことには驚きだが、それよりもまずこの自分よりも年下のこの少年の下で戦うことに反論しなかった自分にも驚いた。
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基地からの迎撃は当然のことだった。だがブルースターの騎士としてはかつて自分たちの基地だった施設から砲弾という名の歓迎を受けるのは少し複雑な気分だった。
目の前のハッチが開き、中に光が差し込む。
ハルトは機体に異常がないことを確認すると、『タケミカヅチ』の足をカタパルトに固定した。
「タケミカヅチ、アクセラレーション!」
轟! と風を切り裂きながら漆黒の巨人が打ち出された。バックパックである『フライトユニット』のW字の翼を広げると、紫色の尾を引きながら飛翔する。
戦局としてはブルースター騎士団が圧していた。新型の魔力収束兵器が効いているのだろう。だが、敵とて馬鹿ではない。こちらが魔力収束タイプの兵器を投入してくることは分かり切っていたことだろうし、それに今までの戦闘の残骸から兵器の解析と量産を試みようとしているだろう。
だがこの短期での魔力収束兵器の開発と量産はハルトというこの世界にとってのイレギュラーがいたからこそ可能だったものであり、まったく別の第三者から技術提供を受けなければ開発にしても量産にしてもまだ先になるだろう。
よって、ガロンを取り戻すには今このタイミングでしかあり得ないのだ。
飛び出せばすぐに敵が見えた。アンバーだ。中にはヴァラも混じっている。
すぐさま接近して『夜桜弐式』を抜刀。
魔力を振動させて切断力を高める『マナ・ソニック』を使うまでもなく敵を切り裂く。ハルトはこの機体を完全にものにし、もはや自分の体のように扱っていた。その動きに死角はない。
それに続くようにカブリオレから騎士が飛び出していく。
血のように赤いWS、カグツチは出撃するや否や敵の集団に向けて『コンヴァージェンスランチャー』を使う。カグツチのボディカラーと同じ色の魔力が迸り、敵を屠る。
カグツチが開いた突破口を二つの可変機が滑り込んでいく。それにタケミカヅチも続く。
戦場はめちゃくちゃだった。
ありったけの兵器を箱に詰め込んでシェイクすればこのような戦場が出来上がるのだろうか、とハルトはぼんやり思った。
こちらの主力はハルトたち『魔術師の実験』と魔力収束兵器装備のムゲン。対するドミナントは新型の『ヴァラ』。
この戦いに備えてか数は揃えているようだ。
コクピット内に聞きなれた美しい声が響き渡る。
『目標はガロン司令部の奪還。その為にもまずは敵の防衛線を突破します!』
その為のXシリーズだ。
「了解!」
アイリスの声に対して返す。
今のハルトにとっての生きる意味。それはこの尊敬する主に仕えること。主が道を欲するのならばそれを切り開くのが自分の役目だ。
ハルトは機体を加速させ、敵の集団に飛び込んでいった。ハルトに飛び込まれた集団はどれも例外なく消し飛んでいく。開始数分もしないうちに、ハルトの力は戦場の頂点に君臨していた。
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(すごい……)
ユリはカグツチのコクピットの中で目の前の光景に唖然としていた。とはいえ、ちゃんと手は動かしている。
本来ならば敵の集団撃破はカグツチの役目であり、その装備からしてそれが最も適している。
だがハルトの駆るタケミカヅチの撃破数は目算でもカグツチのそれを遥かに上回っていた。
機体の機動性を最大限に生かして敵の懐に飛び込んだかと思うと既に二機、三機が消し飛んでいる。
タケミカヅチの機動性はXシリーズ中最速を誇る。
それは可変機をも上回る。というのも、タケミカヅチの性能は高すぎたために乗り手を選んだ。その反省としてタケミカヅチ以降のXシリーズは性能を若干落としている(それでも高性能であることに変わりはないが)。
だがハルトはその性能を100%……否、120%引き出している。
負けてはいられないとばかりにユリはカグツチのコンヴァージェンスキャノンの引き金をひいた。
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ガロンWS発進デッキ。
そこには純白の機体がカタパルトに固定されていた。
ルークの駆るヴェラゲイルである。
騎士を思わせるそのシルエットは美しくもあり、禍々しくもある不思議な機体だった。だがそのにじみ出る力強さだけは隠しきれない。
静かにつぶやく。
「ルーク・ライドイスア。ヴェラゲイル、出撃るぞ」
純白の悪魔が、動き出す。
戦争は更に加速する。




