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エピローグ

 巨獣の森で繰り広げられた攻防戦から一ヶ月が経った。

 アイリスの提示したプランによってメガロの復興は効率よく進んでいる。今でも時々、復興支援にいくことがあるが、それも数が減ってきている。復興支援としてメガロに行かなくなる日も近いのかもしれない。

 あの時、あの攻防戦の際にアイリスが指揮系統を乱したとして何らかの処罰が行われることが覚悟されたが、裏でシルバが色々と手をまわしてくれたおかげなのかどうかわからないが、大事には至らなかった。

 同時に、戦闘での初陣を飾ることとなった<魔術師の実験プロトウィザード>であったが、あの戦闘での戦闘データの記録によって<タケミカヅチ>、そして<魔術師の実験プロトウィザード>の有用性が認められた。<A.I.P.F.>に関しては実践での実用性が証明され、あれから更なる改良が施された後にコストダウンさせた物を量産させることが決定した。

 性能はやや落ちるものの、既存の実体シールドよりも防御力が高い事は間違いなく、エネルギー問題もあるのでそれらを上手く組み合わせて運用していかなければならない。

 因みに。

 既に<ブルースター>が<A.I.P.F.>の実用化に成功したという事実は世界中に広まった。今回のそれはそれだけの重大性を持ち、それだけの革命的な事だった。

 とはいえ。

 一人の少年が<A.I.P.F.>の小型化を成功させてしまったという事実については表に出ていないが。

 そしてその少年は驚くべきことに量産が決定したとたん「量産が決定したんですか? 量産プランなら既に出来上がってますよ。どうぞ」と何気ないような感じでポンと完璧な<量産プラン>を提出してしまったらしい。

 この一ヶ月。<魔術師の実験プロトウィザード>に出動命令は出ていない。彼らの目的は実験機のデータ回収であり、現在はその前の段階である武器の開発や実験に勤しんでいるらしく、例の<フライトユニット>の件もあるそうだが、WSの開発にも繰り出しているらしい。

 ハルトが参加したことによってそれまで難航していた<X計画>はかなり順調に進んでおり、<タケミカヅチ>の件を反省して今度はスペックをややマイルドにするらしいがあの技術開発部のメンツでは心配にならざるを得ないアイリスだった。

 とある晴れた日の午後。

 アイリスは自室でお気に入りの本を来客を待っていた。いや、来客と言うよりも使用人か。

 ふとそんな事を考えた瞬間、部屋のドアが軽くノックされた。「どうぞ」と返事し、静かにドアが開く。外から入ってきたのはこの家の使用人のハルトだった。ハルトはアイリスに呼び出されてこの部屋に来たのだ。

「お嬢様。何か御用でしょうか」

「ハルト。庭園を散歩します。つきあってください」

「はい」

 既に準備を済ませていたアイリスの後ろをついていく。

 外の庭園には様々な花で彩られていた。中央には丁寧な装飾が美しい噴水もある。アイリスは何をいう事もなく、沈黙を守ったまま文字通り散歩をしていた。同じようにハルトもその後ろをついていく。

 やがて、アイリスが口を開いた。

「ハルト」

「はい」

「後ろじゃなくて、私の隣を歩いてください」

「? は、はい」

 恐る恐るといった感じでハルトはアイリスの隣に立つ。再び歩を進めたアイリスに合わせるように、ハルトも歩き出した。

 それだけで、アイリスは嬉しかった。

 この一ヶ月、ずっと考えた。いや、今思えば決め手はあのメガロの復興支援の時の出来事だったのかもしれないが、考える度にその気持ちと想いが徐々に膨らんで――やがて、気づいた。やっと、気づいた。

 自分の本当の気持ちに。

 この謎の......謎だった感情の正体が何なのか。

 靄は晴れた。

 今ならハッキリと見える。

「......ふふっ」

「お嬢様、どうかなさいましたか?」

「いえ。なんでもありません」

「?」

 何故か機嫌の良い自分のお嬢様に対してやや首を捻りつつ、共に肩を並べて歩く。

 隣で肩を並べて歩くことが出来るだけで、アイリスは嬉しかった。

 出来るならずっと、こうしていたい。

「ハルト」

「なんでしょうか、お嬢様」

「これからは時間があるときは散歩につきあってくださいね」

「構いませんが......自分でよろしいのですか?」

「あら。カスミとは一緒に歩けても、私とは歩けないの?」

「そういうわけではないのですが。どうせならば同性で同年齢のカスミの方がよろしいのではないかと。気兼ねなくお話が出来るでしょうし、親友同士でならばお嬢様に気を使わせることもないでしょうし......」

「......なら、命令ということにします。ハルト、時間があるときは私と一緒にいてください」

「? それは勿論。自分はお嬢様の使用人ですから当然の義務です」

「そうじゃなくてですね......」

 この少年は少々......いや、下手をすればかなり鈍感なところがあるので色々と骨が折れそうだが、今はこれでいいと思った。

 庭園を歩いていると、一ヶ月前に自分がふと考えた事を思いだした。

 この屋敷からハクロ基地へと歩く道中。街の中を歩いている時に、他の人から見た自分たちはどう映っているのだろうか、というものだ。

 あの時はなかなか素直になれなかったけど、今はどうなんだろう?

 ――できれば恋人同士がいいな。

 アイリスはふと、そう思った。

 それを考えると自然と笑顔になれる。

 そして、気が付けばもう昼が近づいていた。


「ねえ、ハルト。よかったら一緒に――――、」


 このまま一緒に昼食をとろうかなとアイリスが考えていると、屋敷の方からカスミが走ってくるのが見えた。二人の元にやってくると、アイリスに挨拶をしてから幾度かの会話が行われ、ハルトの方に向き直る。

「は、ハルトさん。こんなところにいたんですか?」

「カスミ?」

 カスミはさっきまで走っていたのか肩を上下に揺らしている。急ぎの用かなと思ったが、次にカスミが発したセリフはアイリスにとっては驚くべきものだった。

「お嬢様、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「え? あ、はい」

 突然の来訪者に戸惑うアイリス。しかしハルトは涼しい顔をして自身の主から許可をとる。

「もうっ。い、一緒に......その、お昼ご飯を食べようって約束したじゃないですか」


 ――はい?


「ああ、ごめん。今はお嬢様の散歩にご同行させてもらってるから、後で行くよ」

「わかりました。それでは終わったら部屋に来てくださいね? 約束ですよ?」


 ――え? 部屋って......え?


「うん。じゃあ、また後で」

「はいっ」

 満面の笑みを見せたカスミを見送ると、ハルトはアイリスの方にくるりと向き直る。

「さてお嬢様。それでは散歩の続きを......」

「......ハルト?」

「はい。なんでしょうかお嬢様」

「......さっきの......あの部屋というのは?」

「はい。たまに食事をカスミに作ってもらっているんです。その時に一緒にカスミの部屋で食事をとることがあり、先程の件もそれに関する事で――――」

「随分と......仲がよろしいのですね?」

「え、ええ。同僚ですから......お嬢様? えーっと、体調が優れないというのでしたらお部屋に戻られた方が......」

 この鈍い少年の事だ。恐らく向こう側の好意に微塵も気が付いていないのだろうが、しかしこれだけ強固だと思わずため息が漏れる。

「......ばか」

「......? 何か? 言いましたか?」

「いえ。なんでもありません。ハルト、私もカスミの部屋にご同行してもいいですか?」

「自分は構いませんがカスミが何というか......それにお嬢様のような方が、」

「?」

「い・い・で・す・か?」

「......はい」

 アイリスの迫力に圧倒されたハルトは後ずさりながら了承する。

 「では参りましょう」とさっそくカスミの部屋へと案内するハルトの背中でアイリスはこの鈍い少年に心の中で宣戦布告するのだった。



第一章完結。

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