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第9話 発進

「来たぜ」

 シドは<ファング>のコクピットからこちらに向かってくるメガロからの部隊に視線を向ける。<巨獣の森>周辺に待機しているドミナントの部隊は戦闘準備に入る。

「......アンタの言った通り、一日待ったが本当に大丈夫なんだろうな?」

「心配性だなぁ隊長さんは。大丈夫だって。大丈夫だからこそわざわざ襲撃を一日置いて情報ばら撒いてここまで敵を誘き寄せたんだからよ。後は俺に任せとけって。ほら、さっさと第一陣を先行させる」

「......第一陣、発進せよ」

 五十機の内、五機の<アンバー>が起動。そして先行する。このまま進めばじきに敵の部隊と激突するだろう。


 □□□


 メガロからの討伐部隊の先陣を切るのは今ではもう旧式になっている第八世代WS<カーディア>である。銀色のボディカラーに<ムゲン>よりもやや厚みのある装甲。両腕には肩まで届くほどの大きさのシールドを装備している。

(敵の反応......五機だけだと?)

 敵部隊がどれぐらいの数がいるのかは解らない。しかし、元からメガロを落とすつもりだったのならばたった五機ということはありえないだろう。

「俺が先行する。第一陣、ついてこい」

 今回の討伐隊は全部で三十機が参加している。それらを十機ずつ第一陣、第二陣、第三陣と三つの班に分けた。

 第一陣には隊長を務めるシルバが含まれている。

 シルバの駆る<カーディア>は腰備え付けられてあったサブマシンガンを構える。

「第一陣。これより、敵部隊との戦闘に入る」

 両者の持つ装備はどれも同じぐらいの性能だ。射程もほぼ同等。つまり、先手を打つことが出来るのはパイロットの技量。どれだけ素早く、的確に、冷静に射撃行動を行う事が出来るのかにかかっている。

 そういった技量、そしてタイミングなどの経験に関しては敵部隊のどのパイロットよりも、シルバの方が圧倒的に上だった。

 ライフルの銃口が有効射程距離に入ったと同時に射撃行動に移る。サブマシンガンから空間を切り裂く銃弾と轟音が響き渡る。

 放たれた銃弾は全て五機あるWSの内の一機に直撃した。銃弾が連続で直撃したことでまるでダンスを踊るかのようにふらふらと不自然な動きをした敵の<アンバー>は爆散した。

 それが開戦の狼煙とでも言うように、シルバが声を張り上げる。

「――第二陣、第三陣、続けぇ!」

 敵からの射撃攻撃が始まった。だが、この場での数に限るならそれに関してはこちらの方が上だ。敵から放たれる銃弾の嵐を駆け抜けながら時にはシールドを使って防御し、時には反撃の射撃攻撃を行う。

 この数の差に圧倒されたのか残り三機となった敵はすぐに後退を始めた。

 森を大きく迂回するように牽制しつつ退避していく。それを逃がすまいと第一陣から第三陣が一気に追撃していく。追撃の銃弾が一機、敵の<アンバー>を落としていく。

(妙だな......)

 シルバはそこで眉を潜める。おかしい。かなりアッサリとしている。まるで初めから引くことが前提だったかのように。メガロを攻め落とそうとしていた割には数があまりにも少なすぎるし、初めから逃げ腰だったようにも感じられるのが気になる。


 □□□


「妙ですね......」

 アイリスは自分に出来ることをと通信指令室のモニタから街の周辺の警戒をすると並行して<巨獣の森>付近での戦闘のモニタリングをしていた。画面に表示されたマップ上には二つの印がある。青色の印が味方部隊で赤い印が敵の反応だ。

 敵の反応は五つ。だがそれらはすぐに二つになった。恐らくシルバ達が一気に撃破したからだろう。通信指令室の空気もどこか緩んでいる。ほっとしているといってもいい。

 だが、アイリスだけは違った。

(明らかにおかしい......そもそも敵の数が少なすぎる。敵の数は五十機ほどを予想していたけれど......たった五機?)

 この小さな違和感。見逃してはいけないとアイリスの直感が言っている。

 クレマチス家は元々戦場に置いて活躍し、現在の地位まで上り詰めたいわば戦の一族。その一族としての直感なのか解らないが――何かが、アイリスに告げていた。

 小さな違和感は次第にじわじわと増大していく。ある種の悪寒へと。

(絶対に何かがおかしい。そもそも戦闘が始まってからの撤退行動が速すぎる。味方がやられてしまったから? 違う。別の......そう、これはもっと単純な手)

 アイリスの中で様々な憶測と情報が飛び交う。

 敵。撤退。速さ。数。目撃情報。この敵の行動の意味――。

 見てみると、シルバも同じように違和感を感じているのかどうか解らないが動きがやや鈍い。

 シルバも迷っているのだ。不自然な敵の数とこの妙に逃げ腰な敵の行動に。

「新たに敵WSが出現! 数は五!」

 新たな<アンバー>が出現する。援軍だろうか。だがそれにしては数が少ない。いや、もともとその程度の数なのだろうか?

(いや......)

 援軍として出現した割にはこの<アンバー>達も牽制射撃を行いながら下がるだけだ。敵の出現を見て第二陣が第一陣と合流したからだろうか。第三陣も距離を詰める。

 アイリスは静かに目を閉じる。冷静に、的確に、迅速に。手持ちの情報を組み合わせ、違和感の正体を探っていく。そして――、

「――――!」

 ある結論にたどり着いたアイリスはホロキーボードの上に指を滑らせて回線を割り込ませる。

「皆さん、今すぐ後退してください! その機体は――囮です!」

 アイリスの視界の中で一機が後退した。だが他のメガロからの討伐部隊は止まらず、第一陣が予想ラインを通過した瞬間――――反応が消えた。

 実際には。

 「退避!」という掛け声と共にとっさに飛び退いたシルバを除く第一陣がアイリスが予想を立てていた通過ラインを越えると同時にその地帯が爆発を起こしたのだ。地雷ではない。敵WSである<アンバー>が突如として爆発したのだ。人為的にタイミングをはかっての遠隔爆破である。

 爆薬を積んでいたのか、援軍としてやってきた五機の<アンバー>からとてつもない威力を秘めた紅蓮の炎が放たれ、第一陣から第二陣を飲み込んだ。後に残るのは焼け焦げた<ムゲン>の残骸のみ。三十機もの討伐部隊は一瞬にしてたった十一機程度の数になってしまった。

 遅かった......! アイリスは思わず唇を噛みしめる。この違和感に気付いた時点ですぐに隊を引き止めるべきだった。だが、今更後悔しても遅い。アイリスの予想通り、次が来る。

「新たなWS反応! 数は......四十!」

「今すぐ討伐部隊の撤退を!」

 今回の討伐部隊の指揮官を務めている男が悲鳴のように叫んだ。だが、もう遅い。

「駄目です! 取り囲まれています!」

「待ち伏せされたのか⁉」

 既に青色の信号は赤色の信号によって取り囲まれていた。

 マップ上が真っ赤に染まる。

(何てこと......まさか、味方ごと爆破させるなんて?)

 囮を立てる作戦は珍しくない。こうして、むざむざポイントに誘い込まれたのも。それに誘い方が上手い。アイリスやシルバには違和感ぐらいしか残さず、現場の兵士たちには違和感すらも与えないぐらいの絶妙な誘導スキル。

 そこまではいい。戦争において時として囮を立てなければならないことはある。

 だが、まさか味方に爆薬を積んで特攻させるとは思いもしなかった。地雷ぐらいのものだとアイリスは踏んでいたのだが、味方そのものを爆弾にするなんて。

(結果的に、相手の十機の犠牲でこちらの戦力が三分の二も削られてしまった......!)

 敵の元々の数は五十。

 これだけの数ならば普通に戦っても数で押し切れたのでは? いや、<血の赤レッドクリムゾン>が所属する<沿岸要塞>の騎士たちはかなりの実力者だと聞く。それが約三十機も討伐部隊として加わったのだから数で押し切れないと踏んだのか。

 どのみち、今は現状を打破しなければならない。

 さしもの<沿岸要塞>の猛者たちも十一対四十ではいささか分が悪すぎる。

(何か手は――――)

 考えはある。策ではない。あくまでもただの考えだ。だがそれを実行に移す時間が無い。

 このままだと敵の集中攻撃を受けて終わりだ。いや、今実際に受けている。シルバが自ら盾となり、部下たちを庇っているから何とか持ちこたえているものの、そう長くはもたないだろう。

 アイリスは周囲の地形に目を通し、敵の装備を見極め、決める。

 割り込んだままの回線を使い、

「皆さん、湖に飛び込んでください。<ムゲン>は水陸両用。しかし敵の<アンバー>は現在、砲撃用装備が中心です。元々の機体設計からしても水中は苦手なはずですし、湖の中に飛び込めば敵も少しは狙いにくくなります」

「お、おい君! 勝手なことは......」

「お叱りは後ほど。処罰ならあとでいくらでも受けます。ですが、今はこの状況を打破することが最優先です」


 □□□


 シドは一人、歓喜に打ち震えていた。

 彼はあの<アンバー>に取り付けた爆薬を爆発させ、大量の敵を道連れに出来た事に快感を覚えていたのだ。

「いやぁ~、いいねぇ! やっぱりスカッとするぜなァ! 真っ赤な花に大量の敵が飲み込まれていくあの光景! 実に愉快だ! アハハハハハハハハハハ!」

『お、おい貴様!』

「あ? どうした隊長さん」

 一人気分よくしていたのに急に水をさされたシドはやや不満げになる。戦闘が始まる前の隊長を務める男ならばそれだけでシドに恐怖したのだろうが、今はそれどころではなかった。

『一日待てというのはこういうことか⁉』

「色々と準備してたんだよ。敵さんにこちらの情報を流すとか、アンタらのWSにセットする特別性の爆弾を持ってくるとか。ああ、そうそう。あの爆弾欲しいならやるぜ? 俺らのオリジナルの一品にして逸品だ」

『き、貴様......ふざけているのか⁉ 貴様はわざわざ無駄に我が隊の兵を十人も殺しただぞ⁉ 初めから早朝に仕掛けていればよかったんだ!』

「そいつぁどうかなぁ」

『な、なんだと......⁉』

 あまりにも。

 呆気なく、シドはいう。とても十人の命を平然と道具にし、利用し、最後に捨てるように殺した者の様子ではなかった。

「あいつらは<沿岸要塞>からの救援部隊だぜ? ここにいるアンタらの兵力じゃ例え数で押しても負けてたさ。そもそも、拠点防衛系の戦闘は沿岸要塞の部隊の十八番だ。巣の実力で負けているのにそこにわざわざ攻め込んでも負けは見えていたさ。だからこそ、こうしておびき出してあいつらの得意な戦い方からひっぺがしたんだ」

『ッ......! なら、なぜ......我が隊のWSにあんな自爆装置をセットした? 地雷か周辺にセットした爆弾の遠隔爆破では駄目だったのか?』

「だめだめ。<銀色の亡霊シルバーファントム>にはそんな即席のチャチな罠は見透かされるだろうし、現にこうして機体に爆弾を取り付けることで大成功したじゃねえか。それになにより、こっちの方が――――面白いからな」

 今度こそ、隊長を務める男から、力が抜けた。そして代わりにそこに入り込んできたのは――恐怖と言う名の化物だった。


 □□□


「あのお嬢ちゃんの言うとおり、湖に飛び込むぞ! 残存する者たちは火線を一点に集中させて道を切り開け!」

 シルバの指揮が戦場を飛び交う。彼の機体は護る為の機体。市民を、そして部下を護る為の機体である。

 両腕のシールドが銃弾の雨を受け止める。幾多もの戦いでボロボロになったシールドは少しずつ......いや、急速に寿命を迎えようとしていた。

 この<カーディア>も、もう十年ぐらい前の旧式である。そう長くは持たない。

「ちぃっ......!」

 背後では信頼出来る部下たちが一点集中攻撃で僅かな道を切り開く。味方の機体が全て湖に飛び込んだのを見届けると、自身も湖に飛び込む。WSが一気に飛び込んだことで湖の上に巨大な水柱が迸る。

『そんでお嬢ちゃん、これからどうすりゃあいい?』

 このシルバの一言で、実質的にアイリスに委ねたようなものだ。アイリスは、

「耐えてください」

『はぁ⁉』

「少しの間......五分、いや三分だけ、耐えてくれませんか?」

「......難しい相談だな」

『お願いします』

「何か策があるのか?」

『策と言う程の物ではありません。ただの思いつきです。しかし、現状では最も有効な手段かと』

 アイリスとシルバの視線が交錯する。ただそれだけで、幾つもの戦場を駆け抜けてきた彼にとっては十分だった。

『......ただのお嬢様かと思ったが、良い眼をするじゃねぇか』

「ありがとうございます」

『了解した。何とか耐えてみる』

 言うと、シルバは通信を切った。

 さっそくアイリスは別回線を開いて事前に進めるよう言っておいた作業の方を確認する。時間的にはそろそろのはずだ。

「マリナさん、作業の方は?」

『準備はオッケーだよ。でも、<デリバリーユニット>は一基しかないから運べるのは武装コンテナだけ。あの子は運べないよ?』

「かまいません。現状、彼らに必要なのは武装......つまり防衛手段です。<タケミカヅチ>は自力で移動出来ますが武装コンテナはそうはいきません。よって、送るのは武装コンテナしかありません」

『了解。座標データを入力してすぐに発射準備するね』

「おねがいします――――ハルト」

『はい、お嬢様』

 マリナのものとは別のウインドウが開く。これは<タケミカヅチ>のコクピット内から送られてきているものだ。

「準備はよろしいですか?」

『はい。いつでもいけます』

 既に<タケミカヅチ>への小型<A.I.P.F.>の搭載は完了している。準備は万端だった。

「試作品の小型<A.I.P.F.>。ハクロ基地でテストは行ったみたいだけどあなたが実戦で使用する分にはぶっつけ本番になりますが大丈夫ですか?」

『問題ありません』

「それと、救援に向かうにあたって、あなたには最短ルートを通ってもらわなければなりません。現在の討伐部隊の位置的にあなたには<巨獣の森>の中を突き進んでもらいたいのですが......あなたなら――ハルトなら出来ますね?」

『はい。お嬢様が信じてくださるならば』

 <巨獣の森>の中には大型のビーストが生息している。それだけでない。通常サイズのビーストも生息している危険地帯である。流石に<アッシュグレイ>ほどの大きさのビーストは滅多にいないだろうが森に入ってしまえばどんなことが起こるのか解らないし、トラブルというのはいつ起こるか解らない。

 そんな森の中を突き進むということは救援としてはあまり賢い選択とは言えない。

 だが。

 アイリスはこのいつも自分の傍にいてくれる少年の事を信じていた。彼が途中で森の中で力尽きることなど微塵も疑いはしない。きっと、あの危険な森の中を無事突破して残存する部隊を救ってくれると信じている。

「<タケミカヅチ>発進準備完了。進路クリア」

 通信指令室のオペレーターが発進準備を完了した事をコールする。

 画面の中ではWS専用トレーラーが簡易型のWS発進用デッキへと変形しており、発進準備の完了した<タケミカヅチ>がセットされていた。

 アイリスは命じる。自身の騎士に。

 信頼を、託すように。

「BS―PTX1<タケミカヅチ>――発進!」

 騎士は応じる。主の命に。

 信頼に、答えるように。

『――――<タケミカヅチ>、アクセラレーション!』

 今、自分たちにできることをする。

 その思いを胸に、<タケミカヅチ>は漆黒の風と化して加速した。


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