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ふとすると、うさぎ。

「――……真新しい制服に身を包み、期待新たに新しい一歩を踏み出す君達と過ごす新しい毎日を楽しみにしています。新しい生活に不安も多いかもしれませんが、私達に何でも訊いてください」



 妙に“新しい”という単語を使いたがった生徒会長の挨拶で入学式はつつがなく締められた。我々新入生の多くは、ガチガチに緊張していたが、先輩方は「やっと終わったか、だるいな」という風情だ。誰が何を楽しみにしているか、生徒会長に今一度問いただしたい気分である。




「ヒデッ、シュンッ!」


 入学式が終わって雑談ムードに突入したとき、ヒロが駆け寄ってきた。


「ひどいよなー。俺だけハブにされるクラス分けだ」

「お前のクラスだって同小の連中が結構いるだろ」


 ヒロは一組、俺とシュンは四組だった。公立の中学校なので、同じ小学校からあがってきた連中が多い。ちなみにうちのクラスはクラスの25%が同小だ。


「そういう問題じゃねーって」


 三人でわいわいクラスのことを話していたら、話題が入学式の話に移った。


「そういやヒロのおばさん、ビデオカメラ持ってたよな」

「あぁ、ヒロの勇姿を納めに来てたんだろ?」


 言うと、ヒロは深く溜め息をついた。


「この年になってまでやんなよなー。恥ずかしすぎる」


 ヒロは長男で、弟と妹が一人ずついる。一番上だからこそ、感動もひとしおなのかもしれない。逆に末っ子のシュンにいたっては、誰も見に来なかったらしい。


「ヒデのおばさんも、来てたな」

「カメラももってなくて、ニコニコ微笑んでた。いいよなー……、あとで親戚中に、見せられることなくて」


 言い終わった瞬間にヒロの顔が強ばった。シュンも顔をひきつらせている。俺もまたしかり。

 実はこの三人、佐藤家のカメラに対して大変トラウマがある。

 俺は幼稚園入園にしろ小学校入学にしろ、親がビデオ持って参加という経験が一度もない。写真はとるが、ビデオは本当にない。かといって、うちにビデオカメラがないわけではないから、不思議に思っていた。

 ある日、二人が俺の家に遊びに来ていたときだ。母が買い物にいっていて、三人しかいなかった。その時に気づいたのだ、チェストに隠されたビデオテープの存在に。これでもかとくらいに詰められたテープに三人揃って興味を示した。そして、魔のテープに手を伸ばしたのだ……。

 内容については触れないでおこう。思い出すのも、寒気がする。今では存在を知っているAV、それに酷似した行為を行っていた。酷似ってか、まんまAVだ。それを実の両親がやっていてテープに撮っていたなんて一生見たくなかった代物だ。小学校低学年で知りたくもない知識を得てしまったのだ。ちなみに、デジタルカメラも同じ道を辿る。俺を撮っているのは、基本使い捨てカメラだ。

 そんなこんなで押し黙った三人。暫くして口を開いたのは、ヒロだった。


「部活どうする?」


 会話が切り替えられりゃなんでもいい。二人して、春休み何度も話した議題に乗っかった。


「サッカーかな。人数多いらしいけど、それ以外興味ねーし」

「まだ未定。仮入部と見学で考える」

「野球、なにがあっても野球」



 注釈すると、シュン、俺、ヒロの順だ。予想を外さない回答である。

 天文学部でもあれば即入部だったのだが、普通の中学でそんな部活は中々ない。ベターに運動部に入って、補欠くらいになりたい。レギュラーなんて高望みはしない。それなりに楽しくて、平穏であればいい。そんな望みを持ちながら、仮入部期間へと突入した。




「サッカーどう?」

「先輩がめんどくさいけど、まぁまぁ楽しいかな」


 初日と二日目は、ヒロと野球に参加した。楽しいといったら、楽しい。疲れるといったら疲れる。そう言うと、運動部全てにあてはまるが。

中学校の部活は先輩後輩の上下関係がめんどくさい。それを如実に知った。

 そして、三日目はサッカー部だ。シュンと一緒に行く。シュンは初日から参加しているようで、もう入部届を提出した。無論、ヒロも。ぶれないやつらに感心しながらも、俺は早まることはしなかった。

 ちなみにニーはというと、公約どうり邪魔することはなかった。俺が学校の話をすると、ーー皮肉を入れつつもーー相槌をうってくれる。話し相手としては悪くない。

 ーーと思ったのも、今この瞬間までだった。

 雑談に花を咲かせていた俺とシュン。しかし、突如としてシュンの顔が固まったのだ。


「ヒデ……、あれ……」


 何事かと思って、シュンの視線の先を追う。まず薄汚れた校舎が映り、近くに置いてあった自転車が映り、ぼうぼうに生えていた雑草が映り、……仁王立ちしていたうさぎが映った。

 本来、焦ることはなにもないはずなのだ。うちの学校にはうさぎが4羽いる。そのなかに白いうさぎもいたはずだ。だから、鍵が開いて脱走したと考えてもおかしなことはない。そうだ、おかしなことは、なにもないのだ。

 しかし、見慣れたポージングに表情。家にいるはずの奴にしか見えなくなってきた。


「ノリスケ、何をアホ面している。部活にいくぞ」


 喋るうさぎ。あぁ、もう確定だ。

 頭痛がした。じわじわと。これから起こる波乱に対して考えるだけで鈍痛が襲ってきた。











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