第六話 困ったことになった
短いです。
※かっこいい騎士様はいません。
飛ばしても話の展開に支障はないので、かっこいい騎士様が見たい方は飛ばしてくださって構いません。
それは突然だった。
二度ほど窮地を救った貴族の令嬢が、何故か俺に懐いている。まあそれは良いとして。
警吏に引き抜かれ、昼の街を巡回することになった。正直、明るい場所や衆人がいる場所は俺に向いていないと思う。
まあそれもとりあえず良いとして。
困ったのは令嬢のことだ。
巡回中に笑顔で近付いてきたかと思えば、バスケットを突き出した。良い香りがする。
「サンドウィッチ、お嫌いなんですね……」
差し出されたバスケットに困惑していると、令嬢が肩を落としながらそろそろと戻した。
瞬間、侍女と思しき女性に鋭く睨まれる。口の動きで、「受け取れ」と言われた。
俺も、このままの令嬢を見るのはなんだか可哀想な気がしたので、バスケットをもぎ取った。
令嬢に縋るような目を向けられ、良心が少し痛む。
「……食べてくださるの?」
令嬢は貴族らしく、顔立ちが上品に整っている。男としては断れないだろう。
頷くと、アーメットヘルムがぐらりと揺らいだ。
──ああ、そういえば、俺には頭が無いんだった。
□■
令嬢の背中を見送って、俺は屯所へ向かいつつ悩んでいた。
……これ、どうやって食べれば良いんだ?
頭が無いから無論口も無い。つまりは胃に入れられない。
でも、頭が無くても思考はできているし、味覚以外の五感は正常だと分かっている。だから、食事も案外気合いでいけるかもしれない。
やるだけは、やってみよう。
それもこれも、唯一俺を怖がらない少女のお願いの為だ。少しぐらい、頑張るのが筋だろう。
それであの子が笑うなら、充分過ぎる報酬だ。
□■
結論。
できた。
サンドウィッチは上手かった。もう一度欲しいと、今度会えたら言おうと思う。