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第五話 悪気は無かった

「騎士様ー!」


 謹慎がようやく解け、街の広場へいくと、騎士様を見つけた。


 騎士様は、私を守ってくれたこの間の一件で実力を認められ、自警団から警吏へと引き抜かれた。私の父様が一枚噛んでるらしいけど、真意は読めないからほっとく。



 騎士様は今まで、自警団の中でも一番危険な深夜過ぎの街の外を警備していたらしい。夜は山賊も破落戸(ごろつき)も多く出る。本来なら間違っても民兵なんかが警備できるレベルじゃない。


 そこを警備し続けたのだから、実力は折り紙付きだ。まあ、首こそないけど騎士様だし、噂によると騎士団団長クラスらしいし。


 今まで引き抜かれなかったのは、きっとアレだ。夜の警備ばかりで気付かれなかったのだろう。……間違っても首が無いことを恐れられて、ではないはずだ。



 朝からがんばって作ったサンドウィッチの入ったバスケットを揺らしながら手を振ると、騎士様はゆっくりと手を挙げて応えてくれた。

 走り出そうとしたら、服の肘をメルに掴まれてしまった。


「……まさか走ろうとなんてしてませんよね?」


 笑顔で言われると余計に怖い。

 仕方なく、静かに歩いて行った。



□■


 律儀に待っていてくれた騎士様に安堵しながら、バスケットを手渡す。


「これ、どうぞ!」


 差し出せば、騎士様は自分のアーメットヘルムを指さした。あ、今日はメモ帳を持っていないのか。


「はい、騎士様にです!」


 笑顔を浮かべて更に差し出せば、慌てた様子で手を顔の前で振った。

 ……あ、もしかして。


「サンドウィッチ、お嫌いでしたか……」


 手元に引き戻しながら、項垂れる。

 そうだよね、好みも聞かずに作ってしまった。しかも巡回中に渡されても、騎士様だって困るに決まっている。


 

 すると、騎士様はバスケットを受け取った。というか、私の手からもぎ取った。


「……食べてくださるの?」


 目を見開いて訊ねれば、騎士様の首の上に乗っているアーメットヘルムがかくりと前に垂れた。落ちそうだな。


 きっとこれは、騎士様なりの了承なのだろう。私はすっかり舞い上がって、手を拭くための濡れタオルと一緒にバスケットを渡した。



 ただの頭鎧であるはずのアーメットヘルムが、柔らかに笑んだような気がした。




□■



「……お嬢様?」

「なーに、メル」


 上機嫌で家へ向かって歩いていると、メルが神妙な顔付きで訊ねてきた。


「もしやとは思いますが、さきほどの方は首無し騎士様では?」

「ええ、そうよ。私の恋しい騎士様よ!」


 そうニッコリ笑えば、メルは困ったように立ち止まった。


「……どうやってサンドウィッチを食べるのでしょう」

「……あ」


 騎士様、頭ないのに。



 私の頭は、この間のショックで大分やられていたようだ。嫌味にも取られかねない。いや、騎士様に限ってそれはないと思いたい。



 後ろを振り返ったけれど、もう騎士様の姿は無かった。


「……次、会うときに謝ったら、許してくれると思う?」


 私の問いかけにメルは何も応えなかった。

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