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第三話 首が無くても怖くない

「好きです、騎士様」

“困る”


 む、意外と騎士様のガードは固い。流れで、“わかった”とくるかなーと期待したのに。

 やっぱりムードが無いと駄目か。……結構恥ずかしいんだけどなあ。


 いやいや、この軽い感じが、騎士様に信じてもらえない一因なのかもしれない。

 騎士様はまた新たに書いたメモ帳を見せてきた。


“怖がらないのは、わかった。でも、それとこれでは違う”

「違いません! 私は今でも昨日のことを鮮明に思い出せるし、貴方のことを考えるだけで、呼吸は浅くなるし、胸の鼓動が早くなるんです!」


 どうだ!

 と思って騎士様を見たけれど、特に動揺は感じ取れなかった。つまらない。


“それは……ただ、俺が怖いんじゃないか?”

「まだ言いますか!」


 騎士様、恐怖関連への執着が強すぎ!

 騎士様の頭を守るアーメットヘルムをじ、と見つめた。この下には何も収まっていないと考えても、少しも怖くない。むしろ愛しい!

 ほら、やっぱり恋じゃないの。


「私は貴方が好きです! 恐がりません!」

“だから、それは恋とは違うと思う”


 意固地になって私の恋心を否定する騎士様に、頭の中がどんどん熱くなるのを感じた。


 なによ、もう。分からず屋な騎士様!

 いっぱいいっぱい、わたしの口から可愛くない文句が飛び出そうになった。でもなんとか、唇を噛み締めて我慢。

 泣きたいような怒りたいような不思議な気持ちを飲み込んで、なんとか騎士様に背を向ける。


「……わたし、一旦帰ります」


 カシャ、と金属の擦れ合う音が僅かに聞こえた。


 振り向きたい気持ちが湧き上がってくるけれど、グッとこらえる。

 今振り向いてしまったら意味がない。きっと、また可愛げもなく怒ってしまう。

 ……好きって、ちゃんと伝えたいだけなのに。


 なにも言わずに足早にそこを去った。



 騎士様を追って入ってしまった細い路地を抜け出て、ふうと一息吐いた。

 気合いを入れて着てきた綺麗なドレスは重くて、動きの邪魔にしかならない。慣れてはいるけど、走るなんてしたことなかったもの。


 帽子の縁を握り締めて、深く被る。ほんと、私って馬鹿。

 騎士様って好いてもいない女性の服装を褒めるタイプじゃないもの。見るからに。なんで張り切っちゃったのかしら。

 好きって、一度助けただけの女の子に言われて、浮かれるような軽薄男にだって見えないのに。一体私はなにを期待していたの?


 胸に去来する、なんとも言えない寂しさに、胸元を掴んだ。


□■


 どれだけ時間が経っただろうか。何だか歩く気力が湧いてこなくて、ぼんやり項垂れていた。

 もうそろそろ家に帰らないと。撒いてきたメイドが心配するだろう。


 そう思って顔をあげかけた瞬間、どこか遠くから金属音が聞こえてきた。

 なんとなく聞き覚えのあるような気がして、私は慌てて顔を伏せる。



 視界の端に、長い陰が入る。

 ……騎士様だろうか。会えてうれしいはずなのに、私の可愛くない部分がひょっこり顔をだしそうで怖い。

 また、変な風に怒っちゃいそう。


 膝にグッと頭を押し付ける。



 荒い息遣いが耳に届いた。

 ……騎士様じゃ、ない。


 弾かれたように顔をあげると、目の前には、剣の(つか)に手をかけ、下卑た笑いを浮かべた薄汚い男が立っていた。

 私の顔を見ると、男はすらりと剣を抜く。


 私は慌てて立ち上がった。


「どうしよ……」


 抜き身の剣に、身体が強張る。なんとか逃げようと足を動かしたら、ドレスが邪魔をして走れなかった。代わりに、気づいた男が私の脚目掛けて剣を振り下ろす。

 当たったら、打撲じゃすまされない。よくて骨折だ。


 男は剣を振りかぶった。狙われているのは臓器か頭だろう。どちらにせよ、このままでは死ぬ。


 迫ってくる剣がやけに遅く見えた。こんなに遅いなら私にも避けられそうなのに、足は動いてくれない。

 どうすることも出来なくて、静かに目を閉じた。








 ──ガシャン。


 もう馴染みになりつつある金属音に、目を見開く。

 まさか、そんな。


 瞬間、肩が強く掴まれ、ぐっと引き寄せられた。よろけた身体は、騎士様の胸当てに手を添えることでバランスがとれた。

 騎士様が剣を振り上げ、辺りには高い金属音が響く。


 剣を弾いたのだ。

 呆気にとられて私と男が上を向くと、騎士様は一歩踏み込んで男の鳩尾に拳をめり込ませた。


 唾を吐きながら、男の身体がぐらりと後ろに傾く。

 弾かれていた剣は、男が倒れ込むと同時に回転しながら落下し、男の肩の布を地面に深く縫い付けた。


 私が男から顔を背けると、騎士様は私の肩を殊更(ことさら)優しく抱いてくれた。温かくなどないはずの手が、やけに気持ちいい。



「──やっぱり」


 騎士様にも聞こえないよう、小さく小さく呟いた。


 恐がったりなんて、できっこない。

 だって、こんなにも、かっこいいんだもの。

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